≪特集:東日本震災≫
■ 日本にガスパイプ幹線を構築せよ 望月 喜市
───────────────────────────────────
◇◇天然ガスを巡る需給体制の変化と展望◇◇
◇ガス幹線パイプネットを構築しよう!◇
◇世界のLNG需要見通し
日本の現在のLNG輸入量は約7000万トンで、ほぼ横ばいで推移してきた。
しかし原発事故で、今後はLNG輸入が増加する可能性が高い。今後2010年代後
半には約7300万トンまで拡大すると専門家はみている。東京電力はLNGを使う
ガスタービン発電を増やし電力不足を補う予定である。中長期的にみても、国内
での原発の新設が難しくなり、LNG火力発電所の新規建設による需要は急増す
るとみられている。
東日本大災害以前でも、新興国を中心に世界のLNG需要は2035年に08年の
2.8倍まで拡大するとの試算があったが、世界各国で原発計画を再検討する動き
が広がっており、需要はさらに拡大しそうだ。 ロシアからの輸入体制:ロシア
が追加供給するLNGを運ぶ第1船が4月16日朝、千葉県冨津市の東京電力冨津火
力発電所LNG基地に到着した。専用運搬船「グランド・アバニ」号だ。サハリ
ンでLNG6万5000トンを積み込み、1週間かけて到着した。 日露は11年4月
25日、モスクワで事業化調査を行う詳細合意書を締結する。
2013年にも建設に着手し、17年に稼働する計画。日露は2011年1月末に年500万ト
ンの生産で合意していたが、それを倍増する。総事業費は1兆円規模に膨らむ。
伊藤忠商事と丸紅などの日本勢と、ガスプロムが調査会社を設立しており、日
本向けには年500万トン以上供給できる見通し。世界的に原発見直しの動きが広
がり、今後はLNG需要の急増が予想され、日本側は安定購入確保が課題となっ
ている。日本は、「サハリン2」から年600万トン以上のLNGを輸入している。基
地が完成すれば日本はLNG輸入のうち約20%をロシアから調達できるようになる。
日露合意 LNG安定確保を図る 原発逆風で需要増も日本勢がウラジオストクの
LNGプラントについて、生産能力を倍増することで合意したのは、埋蔵量が豊
富なロシアの天然ガスを安定的に確保する狙いがある。
今年1月に日本政府は「極東ロシアガス事業調査」を設立し、伊藤忠商事グル
ープ37.5%、国際石油開発帝石が10%を出資した。ただ、実際に着手した場合、
ガスプロムが過半数を出資する可能性が高い。日本のLNG輸入量は09年度にイ
ンドネシア、マレーシア、オーストラリアの3国で57%を占めていた。日本側は
「ウラジオストクからの調達量を増やすのはエネルギー安全保障の向上につなが
る」(経済産業省幹部)と期待する。
◇ガスのエネルギー以外の用途に着目せよ:◇
新エネルギーの開発を促進する政策は、大いに促進すべきだが、反面、天然ガ
ス利用が環境負荷を必ず伴う燃料としての利用価値だけに限定した見方は早急に
改める必要がある。たとえば、石油化学に匹敵するガス化学産業の将来に着目す
べきだ。三菱ガス化学は双日や現地の石油化学大手と組んで、天然ガス、石油随
伴ガス、ナフサを原料とする塗料原料の生産をサウジで2014年から開始する. 北
海道はガス利用先進地域になる可能性を秘めている。北海道のガス利用率は、現
在1.6%程度である。これを全国並みの30%、さらに欧州なみにの40%に引き上
げる努力が期待される。
◇まとめ◇ (1)現在利用している石炭、石油燃焼火力発電を天然ガス発電に代置す
るだけで、
環境負荷を大幅に軽減できるだけでなく、発電コストを引き下げる事が出来る。
(2) 天然ガスは、燃料としての利用のほか、ガス圧縮自動車、ガス発電(水素電
池)自動車、分散型熱発電、ガス有機化学産業の原料などに利用できる。 (3)
家庭用電気プラグから電気を充電する電気自動車は、その電気を火力発電か
ら受け取るのだから、CO2ゼロのクリーン車とは言えない。 (4) 太陽熱、太陽
光、風力などの発電コストはかなり高いだけでなく、設備投資
のための環境負荷を考慮にいれる必要がある。 (5) 地熱発電や、水力発電は環
境負荷がもっとも小さい発電方式と言える。 (6) 日本周辺のメタンハイドレー
ドの埋蔵量は莫大だが、技術的・経済的にペイ
するまでにはかなり時間がかかりそうだ。
(7) シェールガス、オイルサンド、コールベットメタンなどの非在来型メタン
ガスガス供給能力は今後大幅に増加すると思われる。したがって安価なガス
の供給が期待できる。 (8) 21世紀アジア市場で経済競争をする場合、中国・韓
国が施設しているガスパ
イプ幹線ネットを日本も敷設することは、不可欠だ。どの国も高速道路を持つよ
うに、幹線ガスパイプは必要なインフラである。
(9) 北海道は今後国内的にも、国際的にもガス利用先進地域に変貌する潜在的可
能性を持っている。ガスの宝庫サハリンとオホーツク大陸棚に隣接しているばか
りか、ガス産業を先導する専門家・人材が豊富である。問題は資本力が弱いこと、
ガス先進国化を先導する政治力が弱いことだ。
(筆者は北海道大学名誉教授)
目次へ