【コラム】槿と桜(87)

日本では珍しい果物いくつか

延 恩株

 日常の買い物は、日本ならスーパーマーケットや小売商店、韓国ならスーパーマーケットや市場へ行く人が多いでしょう。そこには色とりどりの果物が並んでいて華やかな感じがします。果物の種類や豊富さは両国ともあまり変わりませんが、韓国の方が少し安めでしょうか。ただ私がときどき食べたいと思いながらも、日本では店頭に並ぶことが少ない果物がいくつかあります。それらは韓国独特の果物ではなく、日本にもあるのですが、需要と供給の関係から次第に売り場から消えてしまったのでしょう。
 でも韓国では今でも季節を感じさせてくれる果物として食べられています。どれも私がときどき食べたくなる果物で、そのいくつかを紹介します。

●「석류」(ソンニュ)
 日本の「ざくろ」です。漢字では「石榴、柘榴」と表記します。
 日本では庭木として植えられているのをときどき見かけ、私はざくろの実は食べないのだろうかなどと思ってしまいますが、ほとんど観賞用のようです。

 6月頃に朱色の花が咲き、10月前後に丸い実をつけ、実が熟すと外側の赤い硬い皮が割れて、その中に赤いつぶつぶした実がたくさん詰まっていて、これを食べます。甘酸っぱく、ビタミンが豊富で、更年期障害の予防にも効果があると言われ、韓国では女性に好まれる果物です。

 日本ではざくろの実が店頭に並ぶことはほとんどありませんが、最近は韓国からざくろの酢が輸入されてスーパーマーケットに出回っています。その意味では、日本でも生のざくろではありませんが加工食品としては利用されています。

●「자두」(ジャドゥ)
 日本の「すもも」です。漢字では「李」と表記します。

 日本では「すももも桃も桃のうち」と言葉遊びで言われているようですが、桃とは違う種類で、4月頃に白い花が咲きます。実は初夏に赤くなり、小さなリンゴといった感じで、7、8月頃が食べ頃です。果肉は赤色や黄色があって、桃に比べると酸味が強いのですが、熟すとかなり甘くなり、果汁も多く、夏の果物として韓国では人気があります。

 日本であまり食べる機会がない果物を紹介していますが、その中では比較的店頭に出回ることが多いように感じます。またアメリカで品種改良されて日本に入り、「ソルダム」といった品名でマーケットなどに出ていることもあります。
 私が幼い時から食べていたのは、赤みがかかり始めた緑色のすももで、その季節になると今でも韓国のすももが無性に恋しくなることがあります。

●「살구」(サㇽグ)
 日本の「あんず」です。漢字では「杏」と表記します。英語名の「アプリコット」で親しみを覚える人もいるかもしれません。

 花は3、4月頃に桜より早く、梅のような花が咲きます。6、7月頃に梅のような果実が橙色になります。比較的寒い地域に育ちますから日本でも暖かい地域ではあまり見かけないと思います。みかんより小ぶりで、甘酸っぱさを頑固に守って頑張っているという感じです。

 マーケットなどに並ぶのは初夏の6、7月頃で、暑さを少し感じ始めたときに食べますから爽快感が口に広がります。韓国では生の杏を食べるほか、日本と同じようにジャムにしたり、乾燥果物にしたりして食べます。日本のマーケットでも杏を甘い汁につけ込んだものが出ているときがあり、私はつい買ってしまいます。生の新鮮さは味わえませんが、酸っぱさも残っていて、懐かしさが味わえます。

 日本ではあまり馴染みのない果物ですが、でも「杏仁豆腐」と言えば身近な食べ物として感じる日本の方は多いのではないでしょうか。本来は薬膳料理の一種で、中華料理のデザートとしてよく食べられています。
 「杏仁」とは「あんずの種」の意味で、喘息や咳の治療薬にもなります。「杏仁豆腐」は杏の種を細かくすりつぶして、搾り取った白い汁を甘くして寒天などで固めたものです。もっともこの食べ物は杏の実そのものではありませんが。

●「모과」(モグァ)
 日本の「かりん」です。漢字では「花梨」と表記します。

 10、11月頃に実が茶黄色に色づき、楕円形の梨といった感じですが、果肉は硬く、酸味が強いため、そのままでは食べられません。でも韓国では甘い砂糖漬けにして「かりん茶」として飲みます。ゆず茶に似ています。また熟したかりんはとても甘い芳しい香りがしますから、韓国では車の中に置いている人が多くいます。

●「뽕」(ポン)
 日本の「桑の実」です。

 養蚕には欠かせない桑の葉ですが、春に花が咲き実を付け始め、実が熟し赤黒くなる6、7月頃に食べられるようになります。熟すまでは酸味が強いので、十分に赤黒くなってから食べます。実はブラックベリーと似ていて、小さな粒が集まって1つの実を形作っています。私はこの桑の実が大好きでしたが、日本のスーパーマーケットに出回ることはまずありませんから、本当に残念です。
 韓国では冷凍して売られていますし、ジャムなどにもなっています。

●「산딸기」(サンタルギ)
 日本の「野いちご」です。

 赤い色で大きさは一般的ないちごより小さく、表面には小さな粒がたくさんついています。「いちご」という名前ですがまったく異なる種類です。
 私が子どもの頃は6、7月になると、道ばたでこの野いちごを売っているおばさんたちがいたものでした。また外遊びをしているときに野いちごを見つけて、自分でとって食べたもので、甘酸っぱくてこれを口にすると、もっと元気になったような気がしたものでした。

 今でも季節になると、韓国では市場やマーケットに並びますが、かなり高価な果物になってしまっています。理由は簡単で、収穫する人が減ってしまい品薄になっているからです。そのため私にとっても懐かしい果物ですが、たとえ韓国にいても食べるのを躊躇するようになっています。そして韓国でもジャムなどの加工食品として定着してきていますから、やがて採れたての野いちごが口にできなくなる日が来るのではないかと心配になってきています。

●「참외」(チャメ)
 日本では「まくわうり」です。

 かつては日本でも「まくわうり」は初夏に出回る庶民の果物としてよく食べられていたとお年寄りから聞いたことがあります。それがいつの頃からか、日本ではすっかり姿を消してしまい、忘れ去られてしまいました。
 ところが韓国では、「チャメ」は初夏の代表的な果物として大変人気があります。韓国通の日本の方でしたら名前だけでなく、何度も食べていらっしゃると思います。また最近では日本の韓国食品専門店で季節になると売られていますので、私は見かけると必ず買って帰ります。

 「チャメ」は楕円形で皮は黄色です。外側の皮は硬いですからむきますが、種はそのまま食べる人と取り除く人に分かれます。私はどちらかというと、そのまま食べてしまいます。実はリンゴのサクッサクッ感より少し硬めで、味は甘みを薄くしたメロンのようです。

 なお、韓国のチャメの産地としてよく知られているのが慶尚北道の星州(ソンジュ)郡です。星州地域が日照時間、寒暖差などでチャメ栽培には適しているからだそうで、韓国のチャメ総生産量の7割ほどを占めています。
 聞くところでは最近、日本に住む韓国人が日本でチャメの栽培に取り組んでいるとのことで、いつか日本のマーケットにも6、7月頃にはチャメが並ぶ日が来るかもしれません。

 今回、紹介しました果物が日本ではあまり食べられなくなった理由として、冒頭で需要と供給の関係と書きました。でも、もう一つ気がかりなことがあります。それは果物だけでなく作物全般に言えることですが、地球の気候温暖化が果物や作物の生育に大きな影響を及ぼし、やがては生育不全に至って供給不能となる事態がまちがいなく起き始めていることです。

 韓国ではみかんはいちばん南端の島・済州島でしか栽培できませんでしたが、現在では韓国本土の南部地域の慶尚道の東海岸と全羅道の西海岸でも栽培できるようになってきています。
 この事実を単純に喜んでばかりいられないことは言うまでもありません。地球の温暖化を招いているのは人間です。私たちは地球温暖化を抑制することにもっと真剣に取り組まなければならないときに来ているのです。そうでないと今回紹介した果物を含めて、やがて食べられなくなってしまうでしょう。

 (大妻女子大学准教授)

(2021.12.20)
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