【コラム】
酔生夢死

抑えが利かない時代が始まった

岡田 充


 冷房が苦手だ。冷え性だし加齢のせいもある。ギンギンに冷えた電車内では、真夏でも長袖ジャケットは離せない。東京は猛暑が続き、普段は使わない自室のエアコンも全開状態。そうしないと頭が働かず、普段は3時間ほどで仕上がる原稿に、倍の時間がかかる。

 猛暑に劣らぬ熱いニュースが続いている。安倍政権は7月1日、韓国向けの半導体材料の輸出規制を発表した。さらに8月2日から貿易管理上の優遇対象国から韓国を除外し、韓国側も報復措置に出た。背景には慰安婦、徴用工などの歴史問題があるが、日韓関係は戦後最悪の状況に陥っている。

 トランプ・金正恩両氏が7月初め、朝鮮戦争の休戦ライン(板門店)で握手を交わしたのも束の間、北朝鮮は米韓軍事演習に反発して短距離ミサイル発射を再開した。中国とロシアは7月末、日本海で初めて共同巡回演習を行い、韓国機が警告射撃する事態に発展した。

 米中貿易戦は二度の休戦もむなしく、高関税応酬の負のスパイラルに逆戻りした。米中対立の中、米軍艦隊が台湾海峡を通過し、南シナ海では「自由航行作戦」を継続、中国はこれにミサイル発射実験で応じてみせた。香港では大規模デモが空港占拠に発展し、北京は米国と台湾が背後で操っていると非難する。

 ばらばらに起きているようにみえるこれらの事象だが、「同盟」というキーワードを置いてみると、水面下でつながっているのが見える。米国は第二次大戦後、ソ連や中国、北朝鮮に対抗して、日本、韓国、台湾、フィリピンなどと「軍事同盟」を築いた。この同盟こそ米国の東アジアでの一極支配を支えてきた。
 しかし30年前に冷戦が終結し、封じ込めるべき「敵」が消滅したのに、「同盟」は生き延びる。その間、中国は米国に次ぐ経済、軍事大国へと台頭した。多くの米同盟国にとって、中国は「敵」ではなく、経済成長を支えるパートナーになったから、対中同盟は意味を失う。

 さらに北朝鮮を「敵」としてきた「日米」と「米韓」同盟も機能マヒだ。朝鮮戦争の当事者である米朝が和解に動き出し、南北朝鮮も「和解と協力」に踏みだしたからだ。日韓対立激化の中、文在寅・韓国大統領は「北朝鮮との経済協力で平和経済が実現すれば、日本の優位に追い付ける」と言うまでになった。
 米国にとって「日米韓同盟」は、衰退する米国の優位を支えるカギだが、ポンペオ米国務長官が日韓調停に乗り出しても全く効き目はない。同盟は「共通の敵」を前提に、共通利益を得る関係だが、日米韓の間には共通利益どころが、自国第一のナショナリズムが燃え盛る。

 トランプ自身が「アメリカ第一」を掲げ、共通利益なんかに関心はない。イランを封じ込めるためのホルムズ海峡「有志連合」を募っても、応じた同盟国は英国だけ。そんな時代遅れの同盟にすがっているのは安倍政権ぐらいだろう。液状化し抑えが利かなくなった同盟関係を見直す時期がきた。そうしないと、孤立への道を進むしかない。

画像の説明
  7月19日、河野外相が韓国駐日大使を外務省に呼び会談。大使の発言を途中で遮り「無礼だ!」と一喝した。

 (共同通信客員論説委員)

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