【コラム】
ロンドン通信(3)

年収格差を是正~サディーク・カーン ロンドン市長

浦田 誠


●バス労働者の初任給を統一

 ロンドン市は、バス労働者の初任給を4月より、年23,000ポンド(約343万円)に統一していく。対象者は、25,000人。
 バス運転手の労働時間は現在、全社平均で週40時間。有給休暇は年28日だ。多くの会社はすでに初任給をこの水準に設定しているが、
 これを下回る会社には早期の到達を求めていく。金額は、インフレ上昇率に合わせて調整される。

 11社が現在、バス路線を運行しているが、賃金の格差は大きな課題だ。3年前にユナイト労組は2回の24時間ストライキを打って、問題解決をロンドン市に迫った。同労組は、バス労働者の9割を組織している。時給が80種類もあり、年収の格差は最大で8000ポンドにも及んでいた。

●労働党市長が実現

 その時と大きく違う点は、労働党のサディーク・カーンが市長であることだ。同氏は、バス運転手の賃金一本化を選挙公約に掲げていた。

 パキスタン移民の子で、父親は元バス運転手。人権弁護士として活躍し、国会議員を地元のロンドン南部で二期10年務めた後、2016年5月より市長に就任した。イスラム教を信仰する。

 米トランプ大統領が、極右団体のイスラム排斥ビデオをツイッターに載せた時は、総理大臣に「国賓として呼ぶべき人物ではない」と苦言を呈した。

●転籍しても前社賃金を保証

 カーン市長はまた、運転手がバス会社を転籍した場合、前社で支給されていた賃金を保証する制度も導入する。これまでは、10-15年の勤続でもその運転経験が査定されず、新しい職場で新米運転手と同じ給料で仕事をすることに、バス労働者は不満を抱いていた。

 英国全土でバスの民営化と規制緩和が同時に導入されて30年以上が経過するが、ロンドンでは、交通局がバスを含めた公共交通を一括管理する一方、全バス路線は民間会社が数年単位で競争入札する制度だ。このため、人件費を抑圧してコスト削減を図る傾向が強い。
 今回の措置により、入札に競り勝った経営者は、現行の賃金支給を労働者に保障することになる。初任給23,000ポンドの設定は、入札の前提条件となる。

 ユナイト労組も「過当競争に歯止めをかけるもの」と、今回の決定を評価している。

●「統一賃金」を公約*

 次のステップは、公約である統一賃金の導入だ。市長は、交通局、労働組合、事業者に、三者協議を求めている。運転歴3~5年の労働者を標準モデルとする。また、現業労働者が管理職へ昇進できる機会を増やす制度を検討するほか、積年の課題である、女性・有色人種など社会的マイノリティに対する機会均等にも取り組むと語っている。

 (ロンドン駐在・国際運輸労連ITF内陸運輸部長)

※この記事は『私鉄新聞相鉄版』663号(2018年3月8日)から了解を得て転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。

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