市民社会に改革の橋頭堡を築いた横田克己さんを偲ぶ

    -先進的な構想を独創的な業績に結実させた稀有な理論家
初岡 昌一郎                       

 横田さんのお具合がよくないと共通の友人である仲井富さんから最近聞いてはいたが、見舞いの声をかける機会を得ないまま、急逝の報に接してしばし放心状態に陥った。会うたびに彼の衰えることのない精神的な若々しさに感銘を深くしていただけに、同時代人として親しかった友人が先に逝ってしまった喪失感をかみしめながら、追悼の意を込めた小文を書くことになった。

 横田さんと私は、1960年に結成された社会主義青年同盟(社青同)に当初から参加していた。しかもイデオロギー対立の激しかった組織内で、政治思想と路線を共有していたのに、その当時は個人的な接触がなかった。彼といつ知り合ったかは定かに覚えていないのだが、長洲一二神奈川県知事のブレインだった岸本重陳(横浜国大)先生の会合に再三同席したころから、非常に親しくなった。それより少し前から横浜に住むようになっていたので、横田さんとその仲間のユニークな活動に特別な関心を寄せてはいた。

 横田さんと私は同じ政治的な思潮に身を置いていたが、その頃労働組合運動に埋没していた私は仕事の上での関係がなく、直接接触する機会はあまりなかった。だが、1970年代後半から政治的な会合や研究会などで顔を合わせる機会が次第に増え、しかも非常に共通した意見を持ち、同じ立場をとることが多かったので、次第に個人的にも意見交換をする機会が増えていった。振り返ってみて、横田さんと政治的な意見で一度も対立したことはなく、いつも大筋で完全に一致していた。半世紀を超える政治・社会運動の激動期の中で、ほとんど一貫して同じような流れに身を置き、時間と空間をほとんどシェアしていないのにも関わらず、常に身近に感じていた友人はそう多くはない。横田さんはその中でも特に大切な友人であった。

 私が横田さんのお役に立ったことはほとんどなかったと思うが、横浜に広いネットワークと人脈を持つ彼に助けてもらったことは少なくなかった。横田さんの市民的な政治・社会・福祉活動は地域を基礎にしていたが、常に広い視野を持ち続けており、彼の視点は地域・国内・国際を同心円的に貫くグローバルなものであった。

 長洲知事の「民際外交」活動の一環として、武者小路公秀先生をキャップにした「アジア・太平洋のローカルネットワーク」プロジェクトが、東アジアの経済的発展と民主的変革を契機に、神奈川県の後援を得て立ち上げられたのは、1990年代の初頭のことであった。その中から生まれ、その後30年も続くことになる「ソーシャル・アジア・フォーラム」が、創立総会を新横浜の生活クラブ会館で開催できたのは、資金もなく猪突猛進していた我々に横田さんが協力の手を差し伸べてくれたお陰であった。韓国の労働運動・市民運動と協力するうえでも、横田さんとは折に触れて情報と意見を交換してきた。韓国やアジア諸国からの訪問者たちの受け入れや、市民的活動に関心を寄せる国外からの友人たちに、横田さんたちの生協・福祉・市民活動に関するブリーフィングをいつも心よく引き受けてもらった。こうした追憶がいまも走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

 横田さんは、社青同時代には東急労組組合員だったが、その後まもなく会社を辞め、それまで行っていた牛乳の共同購入を足掛かりに仲間を募り、横浜みどり生協を発足させたのは1971年のことだった。それから半世紀の間に彼の活躍はまさに八面六臂、目覚ましいものだった。食の安全と環境を重視する「生活クラブ生協」を柱として、共済、福祉、介護などの分野に次々と新しい協同組合型で、それぞれが自主独立的な組織を分権的に立ち上げていった。そのほとんどは現在もユニークな社会的機能を市民社会の中で果たし続けている。

 彼は天才的にアイデアを尽きることなく生み出した。だが、彼の傑出した才能は、それらのアイデアを自ら率先して実践に移し、そのための組織を作り、育てることに全力を傾注したことに最も良く発揮された。それだけではなく、彼は一貫して思索の人であり、彼の構想力と実践力を時に応じて理論化する作業でも刮目すべき業績を残した。特に、彼の代表的な著書『オルタナティブ市民社会宣言 もうひとつの「社会」主義』と『愚かな国のしたたかな市民』は現在も尽きない光芒を放っており、市民社会の将来を考えるうえで最良の指針であり続けている。

 横田さんはメールマガジン『オルタ』創刊にも深く関わっていた。彼の寄稿した論文は理論的に高い水準のものであっただけでなく、常にはっきりした目的意識に裏付けられていた。
 最後に付言すると、『オルタ広場』にも引き継がれてきた横風人川柳欄が、彼とともに姿を消すことも惜しまれる。

(2023.8.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧