◇「解散・総選挙に思う」    岡田 一郎

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 8月8日、小泉純一郎首相は、参議院で優先民営化法案が否決されたのを受け、

衆議院を解散した。郵政民営化法案の否決を小泉内閣に対する不信任と捉えたた

めである。しかし、当たり前のことだが、衆議院議員の選挙をしても、参議院の

構成は変化しない。仮に自民党が今度の総選挙で大勝し、郵政民営化法案を再び

提出しても、参議院で否決される可能性もある。何のための解散・総選挙かとい

う声が、解散前からあった。

 

 この道理に合わない総選挙の強行で、小泉内閣そして自民党の命運は尽きるの

ではないかというのが解散・総選挙前の多くのマスコミの論調であった。

2004年の参議院選挙では民主党の獲得議席が自民党のそれを追い抜いた。そうで

なくとも、小泉政権下で、社会保障制度改革や道路公団の改革も中途半端に終わ

り、小泉首相はパフォーマンスだけの人間なのではないかという疑惑が国民の間

にも拡り始めていた。

 小泉内閣自身が、自分たちの支持者を、「主婦層、子供層、シルバー層など、

『具体的なことはわからないが、小泉総理のキャラクターを支持する』IQが低く

て構造改革にはポジティブな層」と分析して、馬鹿にしていることが、ある週刊

誌によって暴露された。このような情勢の中での解散総選挙では、民主党が単独

過半数をおさえ、民主党政権が出来ると予測した週刊誌すらあった。

 

 しかし、解散後の政治情勢は逆に小泉内閣の支持率上昇という形で、小泉内閣

と自民党に有利な形で展開しようとしている。小泉内閣が発行するメールマガジ

ンの受信希望者も久しぶりに増えたという。郵政民営化法案が参議院で否決され

る直前、小泉首相は衆議院を解散すれば、有権者は自分の改革姿勢を支持するだ

ろうと周囲に語っていた。一部の評論家たちはそれを小泉首相の「思い込み」と

揶揄してきたが、実際には小泉首相の「思い込み」どおりになっている。

 

 一体、これはなぜだろうか。それは、郵政民営化法案に反対を貫いた、いわゆ

る造反議員たちの姿があまりにも無様であったからではないか。党の決定に反し

たことを理由に、造反議員たちに次の総選挙で自民党の公認を与えないことを小

泉首相が明言し、「刺客」と呼ばれる対立候補をぶつけると宣言すると、たちまち

彼らは狼狽した。小泉首相が何らかの報復措置をとることは事前から予測できた

ことであり、あくまでも郵政民営化に反対するならば、造反議員たちは新党を結

成し、あくまでも自民党や小泉内閣に対決する姿勢を鮮明にすべきであった。

 

 そうすれば、小泉内閣の姿勢に不満を持つが、民主党など野党には投票したく

ないという人々の票を造反議員たちは吸収し、反小泉グループの急先鋒としてマ

スコミでも彼らを持ち上げたであろう。しかし、造反議員たちは自民党の公認に

拘泥し、公認をくれない小泉首相は独裁者だと騒ぎ出した。この主張には理はな

い。

 党の決定に逆らったのは造反議員たちであり、それでも処罰されることがない

と高をくくっていた彼らが甘いのである。

 造反議員たちがいち早く、新党結成に乗り出さなかった時点で、「小泉首相VS

造反議員」の勝敗は決した。大衆は政争の勝利者が誰か、鋭敏に感じ取り、いっ

せいに勝利者になびく。そして、敗者に対しては残酷性を発揮する。かくして、

小泉首相は勝利者として大衆の支持を集め、造反議員は敗残兵として石もて追わ

れるごとく、バッシングを受けることとなったのである。

 問題は、そんな大衆の動きにマスコミまでもが同調していることである。少し

前まで、小泉首相に対して批判的なスタンスを強めていたマスコミは、小泉首相

が造反議員に対して勝利をおさめると、今度は勝てば官軍とばかりに、途端に改

革の推進者として小泉首相を持ち上げ始めた。

 特に、テレビはひどすぎる。今やニュース番組は造反議員たちをつるしあげる

場になっている。さらに、キャスターたちは野党が政策を発表しても、「現実性

がない」「抽象的だ」と揚げ足とりに奔走している。

今頃、小泉首相は自分の支持者以上に、マスコミの節操のなさを心の中で軽蔑し

ていることだろう。

 

 今度の解散総選挙の本質は、小泉内閣がこの4年数ヶ月におこなってきた業績

を検証し、改革もどきを続けながら、パフォーマンスで国民をだまし続け、国家

財政をさらに悪化させ、社会的弱者を苦しめてきた小泉政治に終止符を打つこと

である。

 

 私は全面的に民主党を支持する者ではないが、民主党は愚直にそのことを有権

者に訴えていく戦略をとっていく方針だと聞いた。今は一時の小泉フィーバーに

浮かれている有権者も、総選挙までには熱気も冷め、政界のゴタゴタよりも各党

が掲げる政策を基準にして、冷静に審判して欲しい。民主党の政策は中長期的に

見れば、有権者の支持をつかんでいくと思われる。