【海峡両岸論】

対米協調するが拭えぬ相互不信

~中ロ同盟は復活しない
岡田 充

 ウクライナ危機で国際政治の文脈から注目されるのは、対ロ経済制裁によって地球規模の経済が分断され、ブロック化していくかどうかだ。バイデン政権は中国とロシアを「グローバルな世界秩序の変更」を目指す「専制国家」として同一視し、「民主国家」との経済切り離しを進める。「経済安保」はそのテコになる。中ロ両国は「反米」で戦略的利益を共有するが、その一方、歴史や地政学上の相互不信は拭えない。同盟復活はあるのか。

 ◆ 中国はロシア寄りか
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 「中国とロシアは強大な軍事力を使い、現在のグローバル秩序を改変しようとしている。世界は不安定化し、大きな国際的衝突の危険が増大している」― 米軍制服組トップのマーク・ミリー米統合参謀本部長(写真上、左端)は、米連邦下院軍事委員会の2023年度国防授権法案公聴会(4月5日)でこう証言した。公聴会にはロイド・オースチン米国防相(同、右端)も出席した。ミリーの認識は、米中対立とウクライナ危機を経た米軍事トップの中ロ観と言っていい。

 多くの米欧日メディアは、中国のウクライナ侵攻に対する立場を「ロシア寄りの姿勢」[注1]と見なしている。その理由は、中国がロシアを非難せず、米欧日による対ロ制裁に反対していること、国連緊急特別会合が採択した非難決議(3月2日)でも、中国が棄権したことにあろう。
 非難決議では国連加盟193カ国のうち141カ国が賛成、反対はロシアを含め5カ国だった。だが、注目すべきは棄権が35カ国に上り、中国に加えインド、南アフリカなど新興国を代表する5カ国の頭文字をとった「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のうち、ロシアを入れた4カ国が決議に同意しなかったことだ。

 国際政治が専門の中西寛・京都大教授[注2]は「反対と棄権の40は絶対的少数とまではいえず、中国だけでなく西側との関係が悪くないインド、ベトナム、イラクも入っている。賛成国でも例えばトルコやイスラエルは対ロ制裁に完全には参加しておらず、賛成国が反ロシアで完全に結束しているわけではない」と分析した。

 ◆ 双方に配慮の「絶妙ポジション」

 では中国のウクライナ政策はどのようなものか。
 侵攻翌日の2月25日、王毅外相はトラス英外相らとの電話会談で、中国のウクライナ政策を次の5点にまとめた。

① 各国の主権と領土の一体性を尊重・保障し、国連憲章の目的と原則を誠実に遵守
② 安全保障は他国の安全保障を犠牲にしてはならない。北大西洋条約機構(NATO)の5次にわたる東方拡大を受け、ロシアの安全保障に関する正当な訴えは重視され、適切に解決すべき
③ すべての当事者が自制を保ち、大規模な人道危機を防止すべき
④ ウクライナ危機の平和的解決に資するあらゆる外交努力を支持
⑤ 国連による武力行使と制裁を認める安全保障理事会決議に反対

 ①は、侵攻がウクライナの主権と領土の一体性の侵害と国連憲章違反にあたり、中国は「支持しない」という意味だ。中国外交の「平和5原則」に基づくウクライナ問題への第1原則と言っていい。一方 ②は、NATOの東方拡大に対するロシアの懸念を理解し解決すべきという主張であり、ロシアへの配慮だ。
 ロシア・ウクライナ両国と良好な友好関係を保つ中国は、ウクライナ外相からこれまで、2回にわたって停戦仲介要請を受けた。停戦交渉の橋渡しをしているトルコも、非難決議に賛成したものの、対ロ制裁には全面的には賛成していない。中国はウクライナ問題で「絶妙」のポジションに立っている。米欧のようにウクライナ支援の「準戦争当事国」になれば、停戦から和平構築に至るプロセスのイニシアチブはとれない。

 ◆ 中ロ協力は無限と強調

 バイデンがいま、中ロ緊密化を警戒するのは、北京冬季五輪直前の2月4日、プーチンが北京で習近平国家主席と首脳会談(写真)し、共同声明に「両国の友好関係に限りはなく、協力関係の分野で『禁じられた』ものはない」と明記し、軍事も含めた広範な協力深化を確認したからである。

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  プーチンが北京で習近平国家主席と首脳会談~ロシア大統領府HPから

 共同声明では ①北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対 ②米政府のインド太平洋戦略は地域の安定を脅かす ③中ロの新国家間関係は、冷戦時代の政治的および軍事的同盟よりも優れている。両国の友好関係に限りはなく、協力関係の分野で『禁じられた』ものはない ④政治と安全保障、経済と金融、人道的交流の3つの主要分野での協力を拡大―をうたった。

 プーチンは、首脳会談が行われた時点で期日はともかく、ウクライナ侵攻を決めていたと思われる。一方習もプーチンとの会談で、ロシアが軍事侵攻を含む強い対応に出ることを知ったに違いない。
 では、反米で戦略的利益を共有する両国の関係は、「同盟復活」に発展するのだろうか。少し歴史を振り返る。

 米ソ冷戦下、軍事同盟を結んでいた両国は1960年代初め、社会主義路線闘争が顕在化し鋭い対立関係に入った。経済建設の指導に当たっていたソ連技術者が中国から引き揚げ、69年には国境のウスリー川の中州「珍宝島」(ダマンスキー島)で武力衝突するまで関係は悪化した。
 1976年毛沢東の死去に続き江青ら四人組が逮捕され、文化大革命は終結した。鄧小平の下で改革開放政策に舵を切った中国は、80年代初めから対ソ関係改善を模索した。1989年5月、ゴルバチョフ党書記長が、大規模デモで揺れる北京を訪問。鄧小平との首脳会談を経て、中ソの国家関係と党関係は正常化した。

 旧ソ連を継承した新生ロシアと中国は2001年7月、江沢民国家主席とプーチン大統領が「中ロ善隣友好協力条約」(有効期間20年)を締結。条約は2021年に自動更新された。条約には、一方が攻撃を受けた際に他方が支援する『相互援助』(自動参戦)条項はなく、軍事同盟とは呼べない。

 ◆ 目立つ軍事協力

 米中対立が激化する一方、中ロ間では軍事協力が目立っている。最近では、2019年7月23日、竹島(韓国名 独島)上空で起きた中国とロシア軍機の編隊飛行(「合同パトロール」)がある。中ロの軍用機が同時に韓国防空識別圏(ADIZ)に入ったのは初めてで、「中ロ同盟」のリアリティを一気に高めた。
 19年7月といえば、日本政府が元韓国徴用工訴訟の判決に絡み韓国への輸出優遇措置を見直し、半導体原材料の輸出規制を強化した時期だ。香港では7月1日、民主派のデモが過激化し、立法会議場に乱入、米中対立が激化したころにあたる。
 「合同パトロール」の狙いは、日米韓の防衛協力体制の「揺らぎ」に乗じ、それが「機能しているかどうかを試そうとした」のだろう。

 ちょうどそのころ中国政府は「新時代における中国国防」(国防白書)を4年ぶりに発表(2019年7月24日)、中ロ軍事交流を対外軍事交流のトップに挙げた。白書はロシア軍との協力を「世界の安定に重要な意義がある」と明記、軍事訓練や装備、技術面での連携を深めると書いた。
 具体的な協力として ①2012年以来、中ロ両軍は計7次にわたって戦略協議を実施 ②18年8、9月、中国軍がロシア軍の求めに応じ初めて「ボストーク」(東方)戦略演習に参加 ③中国軍は19年9月16~21日、中央アジアでのロシア軍演習「ツェントル(中心)2019」に参加―を挙げた。
 海上演習も、2014年に「海上連携2014」が東シナ海で実施され、15年には中国艦隊が黒海のロシア海軍基地を訪問した。16年の「海上連携2016」は南シナ海で実施され、北極版の「氷上シルクロード」 計画でも、ロシアとの協力を鮮明にしている。

 軍事協力は尖閣(中国名 釣魚島)周辺にも及んだ。16年6月9日、中国フリゲート艦とロシア駆逐艦3隻が、約3時間の間に久場島と大正島の接続水域を相次いで航行。中国側は「接続水域に入った自衛艦を追尾した」と説明した。
 直近では21年10月、中ロ海軍艦艇が日本列島を周回。11月、中ロ空軍爆撃機が日本海や東シナ海の空域で合同パトロールを行っている。「合同パトロール」は常態化しつつある。

 ◆ 根深い相互不信

 しかしロシアにとって中国は、1989年の関係修復以降も「仮想敵」だった。中国の国防白書が触れた18年の「ボストーク」演習(写真)は元来、仮想敵の中国および日米両面を対象にする演習。中国軍の初参加で、中国は「仮想敵」ではなく、「友軍」として扱われるようになったことになる。

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  「ボストーク」演習~中国軍網から

 日本の防衛関係者によると、21年8月の中国内陸部での演習では、ロシアは中国より格段に少ない軍人しか参加させず、中国が最新鋭ステルス戦闘機「殲20」を投入したのに対し、ロシアは最新装備を出さなかったという。
 防衛関係者は「米欧と対立するロシアは、中国との連携を見せつける必要がある」とする一方、ロシアは演習で「手の内」をさらけ出さず、中国側は合同演習からロシア軍の一体性を「学習」しているとみる。「同床異夢」なのだ。

 中ロ軍事協力の活発化だけをみて、「同盟復活」と即断してはならない。中国外交関係者は、「中国は自然災害に見舞われた1960年代に、ソ連が技術者を引き揚げたのを忘れていない。中国はあらゆる同盟に反対しており、代わってパートナーシップ協定を結んでいる」と説明する。
 ウクライナ侵攻でも、中国は事前にロシアから侵攻時期を知らされていなかった。中国の国際政治専門家は「中国とロシアの相互不信は、周囲が考えるよりはるかに根深い」と指摘。

 ◆ 友好協力条約の性格

 ロシアでは2019年ごろから「中ロ善隣友好協力条約」に「相互援助」(自動参戦)条項を盛り込み、「軍事同盟に発展させるべき」と主張する学者も現れた。学者だけではない。プーチンは19年10月3日、ソチで開いた有識者による「ワルダイ会議」で、中国を「同盟国」と呼んだ。真意は不明だが、両国が「同盟関係」構築を進めているシグナルを米国に送り、揺さぶりをかける狙いだろう。
 中ロ両国とも同盟復活を公式には否定している。習とプーチンは2019年6月5日、モスクワで発表した「グローバル戦略安定強化に関する共同声明」で「同盟関係の構築の拒否」を明確にしている。

 そこで「中ロ善隣友好協力条約」の中身を点検する。条約には、ロシア軍事技術の中国への供与が明記され、第9条は「一方が平和への脅威を受け、侵略の脅威がある時は、双方は脅威を除去するため直ちに接触し協議を進める」と定める。事実上の防衛協力協定だ。
 9条に基づき、侵略の脅威除去の協議をした結果、「脅威を除去する」ため共同軍事行動をとることは可能だ。中国政府は、改革開放政策の下で外国との同盟構築を否定し、代わりに「パートナーシップ協定」を結んでいる。

 2021年6月28日の中ロ友好協力条約調印20周年の共同声明では、中ロ関係を「全面戦略協力パートナーシップ」(第7条)と呼び「軍事および軍事技術協力を進める」とうたった。
 「自動参戦」条項を盛り込み「軍事同盟」にすれば、米国の強い警戒を招くだろう。それだけではない。バイデン政権の「新冷戦」思考にはまり、地球規模の経済切り離しを加速する結果を招くことになる。中国は「新冷戦」に反対しており、同盟復活の選択肢はない。

 しかし2022年2月の中ロ首脳会談の共同声明が「両国の新国家間関係は、冷戦時代の政治的および軍事的同盟よりも優れている」と書くように、同盟関係にはなくても実質的にはそれを上回る緊密な関係を構築できるとすれば、名称にこだわる必要はないだろう。
 名ばかりで実態がないことを意味する4字熟語「名存実亡」をもじって、「名亡実存」の同盟関係と言えないか。中国人民大学の米国専門家、時殷弘教授は両国関係を「準同盟関係」と呼ぶ。これらを総合的に判断すれば、中ロの同盟復活は少なくとも名目上はないことになる。

 ◆ 対米が最重要課題

 ウクライナ危機をめぐり中国では、上海交通大学の胡偉・特任教授が3月13日、共産党指導部に「早期にプーチンと手を切れ」と求める文章を中国SNSに投稿した。共産党内にも対ロ支援をめぐって異論が存在する。
 消息筋によると、党中央は3月5日の全人代開幕直前、幹部党員に「3つの指示」を出したという。それを並べると
 ① ロシア、ウクライナのどちらにもつかず中間の立場をとる
 ② 対ロ経済制裁を求められても応じない
 ③ 対米関係改善と経済貿易の推進を図る

 これを読めば、中国はウクライナ危機にもかかわらず、対米関係改善を依然として最重要課題と見ていることが分かる。バイデンは3月18日、習近平・中国国家主席との首脳対話(オンライン)で、対ロ経済制裁について説明し「中国がロシアに物資的支援をした場合の影響と結果について説明した」と明らかにした。首脳対話の狙いは、中国のロシアへの軍事支援に警告し、場合によっては中国が2次制裁の対象になると「くぎを刺す」ことにあった。
 バイデンは北大西洋条約機構(NATO)首脳会議後の記者会見(3月24日)で、習との電話会談について、中国が対ロ支援をした場合、中国経済が受ける影響について説明したのに対し、習は「理解した」と答えたと明らかにした。バイデンは「中国は自分たちの経済関係が、ロシアより西欧諸国に近いことを理解している」とも語った。

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 ◆ 経済発展損ねずが最重要

 中国にとって対ロ関係は、欧米との厚い経済関係とロシア支援の価値とのバランスにある。同時に、外交と内政に関する基本スタンスは、米中対立が激化しても経済を損ねないようハンドリングすることにある。
 国際通貨基金(IMF)によると、ロシアの名目GDP(国内総生産)は2020年に1兆4,834億9,778万ドルと世界第11位と、世界の名目GDPの2%弱を占めるに過ぎない。貿易総額も世界貿易額の約1%である。米欧日との経済関係を犠牲にロシアとの同盟を急ぐわけにはいかない。

 秋の20回党大会で総書記3期目を目指す習近平は、「共同富裕」の実現に向けて2035年に「社会主義現代化を基本的に実現」し、建国100年の2049年には、「中華民族の偉大な復興」と「世界一流の社会主義強国」を実現する、二段構えの目標を設定している。

 コロナ感染の再拡大に直面した中国指導部は、「ゼロコロナ」政策を維持して最大の経済都市、上海を都市封鎖した。ウクライナ問題で、経済発展の足を引っ張られると5%台の成長も危うい。対米関係改善の順位が高い理由は、経済発展を順調に進め、内政の安定を図ることにある。
 中国は対ロ制裁に与していないから「制裁破り」も存在しない。ただ上記のような基本スタンスに沿えば、少なくとも殺傷兵器は対ロ供与しないだろう。さらに西側との経済関係を損ね、それが国内経済に跳ね返る恐れがあるような「制裁破り」は自重すると思われる。

 中国の力の源泉は、軍事力ではなく経済力にある。一方のロシアの力の源泉は、エネルギーと核を含む軍事力と対照的だ。反米スタンスでいくら協力しても、両国の体質の差は大きい。同盟復活の可能性は低い。もし同盟関係になるとすれば、米ソ冷戦期とは異なり、今度は中国が「兄」、ロシアが「弟」の関係になるだろう。誇り高いロシアが、そんな関係に甘んじるだろうか。中国にとってもそれは負担になるはずだ。

[注1]「対ロ制裁、中国に「妨害するな」EU首脳が要求」(『中日新聞』22・4・2)
 (https://www.chunichi.co.jp/article/445761
[注2]中西寛(『日経』22・3・31「大戦・内戦リスク排除できず ウクライナ危機と世界」)
 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD280L60Y2A320C2000000/

 (共同通信客員論説委員)

※この記事は著者の許諾を得て「海峡両岸論」137号(2022/04/09発行)から転載したものですが文責は『オルタ広場』編集部にあります。

(2022.4.20)
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