【オルタの視点】
安倍の暴走を止めよう
【阿部知子】(以下、阿部) 今、小林先生の声を聞きたい、お考えを聞きたいと言うことが、民意というか、国民の広い思いなんだと思います。本日は実は民進党の結党大会が午後にありまして、名前も「民進」で、「民」が「進む」となっていますが、「民」と共に「進みたい」という思いを込めたものです。本当にそうなるためには、民の思いが今どこにあって、そこをがっちりつかまないと、「民進」党にはなれないわけです。先生がいろいろと回られている中で、有権者はいったい何を求めているのでしょうか。
【小林節】(以下、小林) 私ははっきりわかっている気がしています。ひとつは安倍政治に代わるリーダーを求めている。世論調査などにもはっきり出ていると思います。御用マスコミの世論調査でもはっきりしています。安倍政権に代わるものがないから、そこそこ人気があるんですね。
過半数は安倍さんは支持していません。40%台です。安倍さんがやっている政策については、過半数が反対か疑問を抱いています。ものによっては8割くらいが反対なんですね。ですから、安倍さんがやろうとしている、わけのわからないアベノミクスなどやめて、堅実な経済をしてもらいたい。戦争法もわけわかりませんが、彼らの主張はうまくて、中国に敵対する北朝鮮の脅威と言えば、何となく浸透しているようです。これも嘘だと私は思います。
いずれにしても、戦争に向けて国力を使っていくのはやめて、辺野古の問題もやめて、原発再稼働もやめて、消費税再増税もやめて、法人減税もやめて、と、いくらでも国民の意向ははっきりしています。安倍さんが個別に打ち出している政策全部が否定されている。日本を売り飛ばすTPPもそうです。
そして、一番残念なのは民進党ですけれど、とにかく安倍さんに代わりうるリーダーやチームが出てくる、というわくわく感を、国民は求めているけれども、わくわく感に出会えない。こういう状況が続いていると思いますね。
【阿部】 代わるものがない。代わって任せて大丈夫かどうか、という点については、たしかに民主党の政権運営の失敗の後ということもあるでしょう。しかしそこから見ても、もう4年近くがたとうとしているわけですから、代わるかたちというものが出てこなければいけないし、民進党がそれになれるかどうかについては、わくわく感がないと言われると、私は下を向かざるを得ないと感じています。
先生はもともと自民党の政治の中で、イデオローグとして、自民党側の頼るべき知識人としての経歴がずっとおありです。長いこと自民党政治をバックアップしてきて、自民党のみなさんも、小林節先生に大変に頼っていたと思います。でもその先生が、この政治、特に安倍政治だと思うのですが、「これはおかしいな」と思われたきっかけは何で、いつ頃だったんでしょうか。
【小林】 30年くらい、自民党の党本部や議員会館での勉強会に付き合ってきました。その過程で何が起きたかというと、私は年を取っていった、向こうはどんどん世襲議員の比率が高くなっていった。その世襲も「私は3世です」「私は4世です」と、競い合うような時代になってきている。例えば、「先生は3世議員ですか」と聞けば、「母方から数えて4世です」と、こういう世界になって、(世襲が)ブランドになってきています。
彼らは権力者の家庭に生まれ育って、家業としての権力者になっているから、はっきり言って、国民の生活を知らないんですよね。そういう人たちが、「誠実な国民大衆の幸福を増進する」なんてことができるはずがないんですね。だから、政治家であれば、人と面会するときに、面会料を取っていいとか、そういう不思議な世界にどっぷりつかっています。
彼らは自分たちが憲法に管理されて、法律を改廃して、予算を作り修正・補正して、ということを忘れて、法律を改廃する感覚で、憲法も改廃して、それで国民大衆を管理するという発想になってきています。彼らが大日本帝国のエスタブリッシュメントの子孫ですから、だんだんそういう感覚になってきているのでしょう。第二次世界大戦は悪いことではなかったとか、いろんな不気味な議論が若い人から出てくるようになった。
そして、一番決定的だったのは、彼らに党の部会などで、上座に座って基調報告をしますよね、意見が合うときは、「さすが大学の先生はいいことを言う」となりますが、意見が合わないと途端に、世襲貴族たちは「小林さん、あんたねえ、政治は現実だよ。あんた現実はわかるのか、学者のくせに」となる。
去年の憲法審査会だって、学識経験者としての意見を聞きたいと言われ、行ったわけでしょ。問われたから答えてあげたら、途端に場外から「決めるのは政治家であって、学者ではない」。あの傲慢な2世議員、高村さんですが、私はその傲慢さに耐えかねて座っていました。憲法観が全く違う。憲法っていうのは、主権者国民大衆が、わずかな数の人間、権力者を管理するために特別に作った法なのに、権力者たちが、憲法を使って「国をああしなさい」「家族を愛しなさい」「国旗を敬いなさい」と言う。わけわからないですよね。安倍政治になってからは、それが多数派になっています。
私はアメリカで訓練を受けましたから、議論することの力とか可能性を信じていました。自民党もずっと論争をしてきたんですよね。しかし、小泉政権のころから、自民党内で説得するなんてむりだと感じ、実際に「もう来なくていい」と言われましたし、公然と批判を始めたわけです。小泉政権がイラクに航空自衛隊を派遣して、米軍の送迎をやっていた、インド洋に海上自衛隊を派遣して、米海軍の海上給油をした、あのときから9条違反の戦争参加です。
【阿部】 私はもともと社民党にいましたし、インド洋への自衛隊派遣も反対をしていました。ずっと革新系、左翼系でいると、そこでがらっと変わったと言うよりは、ずっと自民党の政治の中で、どんどんなし崩し的に、自衛隊が派遣されたりしてきていて、それがまた進んだもの、と、どうしても思ってしまいます。
先生が今ご指摘されたように、おそらく大きな転換点は、イラク戦争のときの日本の対応と、第二次安倍政権になって、さらにむき出しに、憲法ネグレクト、「憲法? そんなもの関係ないんだ」と、憲法なんて歯牙にもかけないというかたちで、数の多数を制したことによって、「おかしくなったな」と思われたときだと思うんです。従来の革新系だけじゃなくて、保守王道にいらしたみなさんから同じように思われている。
最近、山崎拓さんとお話しすることがありました。山崎さんご自身は、自衛隊のイラク派遣の時は、自民党にいらして、自衛隊を送る側だったんだけれども、いま改めて、ここまでずっと流れを見てくると、イラクのときの情報も偽りだったし、サダム・フセインが大量破壊兵器をもっているといって、攻撃に突っ込んでいって、それを日本が後方支援をする、といったところから、やっぱりおかしかったんだ、とおっしゃっていました。いま、小林節先生の話を聞いて、改めて、保守系と言われた方たちが守ってきた規範すらも、実際に政治を司ってきた保守系のまっとうな流れからも、ゆがんでしまった政治が今なのかなあ、と私も改めて気がつきました。
【小林】 大事な点を整理しますと、私の考えでは、PKOは憲法上問題なくできるんですよ。PKOは戦争が終わった後で、国を再建しようとしている混乱状態にあり、治安をきちんと維持できていない国における、建設支援なんですよ。建設省のお手伝いなんですね。ですからそれはふつうの行政の範囲内に入るのですが、ただそれは、戦争直後だから、自己完結的な装備をもっていないといけない。ホテルもなければ、ほか弁もないところですから、それで自衛隊が行くのはいい。
だけれども、海上自衛隊の海上給油というのは、アメリカ海軍と一体化して、海軍の戦争を途切れさせないための作戦じゃないですか。それから、イラクでの空輸も、駐屯地はクウェートですが、クウェートを基地にして、イラクに送迎したのは、アメリカ軍の突撃部隊ですから、これはもう戦争参画です。決定的に違うんです。あのときもそう言ったんですけれども、返ってきた答えは「先生、論調を変えてくださったら、お仕事差し上げます」と。駄目だこりゃと思いました。もう頭悪すぎですよ。
【阿部】 野中広務先生が、今から2年前、平成26年2月19日に参議院で、参議院国の統治機構に関する調査会に参考人としていらっしゃいました。このとき、すごく明確に安倍総理の政治を批判されていて、「行政権、内閣が肥大化して、立法府を踏み越えて何でも走って行く、独走していく、独裁していく政治になっているのではないか」。この国の統治機構ということを取り上げる委員会の参考人で、そうお話しされた。日本がアジア太平洋戦争に突入していったときの行政権の肥大、もちろん軍部がそこにあって、時の内閣総理大臣、東条英機も軍出身の人でしたし、軍が関与はしていたけれど、構造としては、行政が肥大化することによって、立法が蔑ろにされて、民意の代表である立法府は、ほとんど機能しなかった。
【小林】 今と同じじゃないですか。
【阿部】 そうです。その通りだと思ったわけです。ですから、それも踏まえて考えると、第二次安倍政権で、約2年前の7月に、集団的自衛権を含む武力行使を認める閣議決定があって、今の安保法制につながっていくわけですが、このあたり先生は、どのように思われていますか。
【小林】 2点あります。第1点は議会制が機能していない。さっき先生がご指摘のとおりですよね。私はこれを王様、王政と呼んでいます。明治憲法と全く同じですよ。明治憲法の時も、帝国議会はあったけれども、実は正確に読むと、議会に立法権はないんですね。立法権は天皇が持っていて、議会は天皇の立法を協賛、協力・賛成するだけの機関。今も国会運営を見ていると、安倍さんがこうすると決めたら、国会は全く議論による修正なしで、最後は力任せで、人間かまくらのラグビー試合で決まるという。それで安倍さんが本会議で何かしゃべると、与党議員が立って拍手する。北朝鮮みたいじゃないですか。協賛機関です。こういう議会制民主主義が破壊されて、明治憲法的な運用になっている。これがひとつ。
それから、どう考えても自民党の中ではずっと、日本国憲法が、特に9条が敵だったんですね。自民党憲法調査会で一番簡単、簡便な憲法改正は、9条2項の削除です。なぜかというと、2項は軍隊をもっていない、交戦権を行使できない、つまり、国際法上の戦争に行く道具と法的資格を奪っている。だから、どう考えても、海外でドンパチできない。海外でドンパチすると、海賊と山賊になってしまう。それをなくすために、9条2項を削れば、自衛のために必要といえば、どこへでも出て行って、戦ができる。海外なら海外でも行ける。海外派兵で言えば、アメリカの求めに応じて、集団的自衛権で出撃できる。
そういう議論がなされていて、私は安倍さんが官房副長官の時に、その点について、40分間ふたりでお話ししました。そのときに「やっぱりいま、憲法のことやるのは無理ですよ、改正しなかったら海外には行けませんよ」と言って別れた記憶があるんですね。安倍さんもうなずいて聞いていましたけれども。だからこそ最初、(安倍政権は)憲法を改正しようとして、条件が厳しいから、条件を下げる話をしたじゃないですか。
【阿部】 96条ですね。
【小林】 そうです。あれは安倍さん流にまっとうだったんですよ。改正するしかできないってわかっていたんですよ。ところがそれが、裏口入学で通されちゃったら、もう狂ったように憲法などを無視することにしてしまった。これは本当に安倍さんがまさに独裁者になった瞬間なんですよ。これは我々としては、この時代にたまたま生きている、最低限の教養のある者としては、大げさな言い方ですけれど、命かけてでも抵抗しなければ、のちのち恥になりますよね。この時代に生きていた者として。
【阿部】 そうなんですよね。おそらく先生が寸暇も惜しんで各地でお話をされるところの原動力は、そこにあるのかなあと。やっぱり憲法の肝は主権在民で、国民が決める。そして、アジア太平洋戦争の反省は、本来主権者である国民が全然関与しないままに、情報も操作されて、治安維持法とかいろんなものがあったから、命令に反することはできなくて、結局、(戦地に)送られていって殺し殺されたっていう結果になった。平和憲法って言うのは押しつけって言われるけれども、この憲法を持ったときの国民は、もう空から爆弾が来ない、という意味の平和を得たということもあるし、自分たちが決めていくという息吹を感じていた。そんな話を、私より年長の戦争を経験された方から聞くわけですよね。
よく私の民主党の先輩である藤井裕久さんがおっしゃるんですけど、国会議員の中で、戦争を経験したり、戦争のことが身近であった世代が、ほとんどいなくなっていく、このこと非常に強い危機感を覚えている。こうした状況の中でいろんな論議が進んで、戦争立法も作られていくし、武器輸出を可能とするような閣議決定もするわけですよね。集団的自衛権も閣議決定で変えてしまう。
先生がおっしゃったように、安倍総理は最初、96条改正を目指して、3分の2じゃなくて、2分の1にハードル下げて、ルールを変えて憲法を改正しようと言っていたのに、「それってちょっとずるなんじゃない?」と言われたら、途端に「それじゃあもう、そういうことなら、解釈で何でもやってしまおう」となった。そのときから、行政権だけになってしまった。安倍内閣の思うがままになっていっているんだと思いますね。
去年の安保法制に反対するみなさんのたくさんの声、デモの声もそうですし、今も続くみんなの思いは、これからもう一度主権者の意思を打ち立てていくために、もう一度憲法のルールをしっかりと土台にして、(憲法を)変える変えないはその土台の上で論議しよう、と考えているのだと思います。
民主党の代表の岡田さんを評価する点は、「安倍総理のもとでは憲法改正はしない」という点です。これはすごく意味がある言葉だと思うんです。なぜならば、安倍さんは憲法をいやしめていて、本来国の規範である、国民の血であがなった憲法を、おとしめた上での論議では、(議論は)成り立たないですよ。憲法改正そのものは、民意ですからあり得る。だけど、「(憲法を)だめなやつなんだ、捨ててしまおう」という土台のもとで議論をしたら、国民のこれまでの自負とか、国民の尊厳が否定されてしまう。だから、岡田さんは明確に安倍総理のもとでの改憲はゼロ、改憲はしないと言うんですよね。私はそこを評価して、党首選でも岡田さんを推しましたけれど、他のことと違って、憲法って土台だから、これを崩しちゃうと、すべてルールがなくなって、法治国家でなくなってしまうと思います。
憲法学者のみなさんが憲法調査会で安保法制のことを聞かれて、あのときからがらっと、やっぱりみんな気づいたんですよね。それまで、もやもやっとしてて、「何かこれ、次々閣議決定しちゃうし、憲法違反? 何か変かも」と思っていたんだけれど、権威ある憲法学者の先生がこぞって、いろんな立場があるでしょうけど、みんなこぞって憲法違反だっておっしゃったんですよね。
今この憲法の土台をもう一度、再確認するという意味で、先生の活動はどんなふうになっていらっしゃるのでしょうか。
【小林】 どこに行っても、素直には伝わっているなあという感じがするんですね。だから500人とか1000人とか、そういう人たちの前でも、最初は緊張感が漂っているけれども、終わったときにみんな、「そうだよね、元気出して戦おう」という気分になっている。もちろん私がことばで乗せているんではなくて、安倍さんがやっていることはおかしいと言うことを、事実と論理で説明して、みんなの腑に落ちて、「これは大変なことだ」と、「国の主権を取り戻そう」という気持ちになって、立ち上がってくれてる姿が見えるんですね。どこに行ってもです。だから、安倍政権のやっていることはまずいし、こちらのたたかいが体力勝負であることも正しいと思うんですね。
憲法9条のもとで、海外派兵はやっぱりできないですよ。押し付けられたって言うけど、たしかに岸信介さんみたいに、明治憲法下のエリートにとっては、負けたんだから押し付けられたんですよ、当たり前ですよ。彼らは明治憲法の延命を図ったんですから。押し付けられているんですよ。
だけど、民衆としては、さっき先生がおっしゃったように、受け入れたんですよね。日本の当時の当局は、負けっぷりが悪くて、日本国憲法のようなものを作れなかったけれど、アメリカの助言でああいうものを押し付けられても、民衆は歓迎して受け入れて、根付いて今日まで来てるじゃないですか。
それを旧体制のエリートの子どもたちが、あれは押し付けられたもので、情報統制されたものでと言ったところで、先生もご指摘のように、あの愚かな戦に突入していった日本は、当時の当局であった岸信介さんたちに、情報統制されていたんですよね。だから自分たちの先祖がやった情報統制がよくて、アメリカがやった情報統制はおかしいって、ダブルスタンダードで、おかしいと思いますよ。
権力ってそういうものなんですよ。きちんと明治憲法下の国民が情報を与えられていて、かつ、人権があって発言できたら、あんなばかな戦争しなかったと思いますよ。同じ間違いをまたおかそうとしているんですよね。
【阿部】 憲法を取り戻すというと変ですが、自分たちが決めていくんだって言う流れができたことが・・・
【小林】 ぼくも今、確信持って燃えていますよ。
【阿部】 そうですね。安倍政治のおかげかもしれないとみんな言いますけれど。
【小林】 そうです、そうです。
【阿部】 あまりに憲法をないがしろにする、今度の緊急事態条項なんかも同じで、国民の基本的人権は国家の緊急事態においては、一時なりとも停止していい。
【小林】 従う義務がある。
【阿部】 従う義務があるってことで、これを打ち出してくること、あるいはどれもこれもそうなんですけれど、ほんとにそこまで言うか、そこまで露骨か、そこまでやるかって感じます。安倍政治が言い出すものは、国民も何か変だと、ちょっと違うぞって。
【小林】 あの緊急事態条項ってひどすぎますよ。総理大臣が緊急事態だと言いたいと言えば・・・
【阿部】 何でもいいんです。
【小林】 ええ、閣議で逆らう人はいないわけですから。緊急事態になって、国会の承認と言うけれど、国会も逆らえない状態になってるわけですから、行政権に加えて、今度は国会の持っている立法権と財政権まで握って、地方自治体の首長に対する命令権ができて、国民はそれに従う義務がある。王様じゃないですか。こんなのいらないですよ。危険すぎますよ。
安倍さんのもとでの憲法改正論議というのはすごい自己矛盾ですよね。憲法に何て書いてあろうがやりたいようにやる、憲法を無視する、と言っている安倍さんが憲法を改正しようと言っている。逆ですよね。岡田さんが安倍さんのもとでは憲法改正論議に加わらないと言っている、これは正論ですよね。まず、国民が憲法を守らない政治家を排除する、選挙で勝って先例を打ち立てて、政治家っていうのは憲法を守らなければならないんだ、という政治的関心を確立しなければならないです。
憲法って道具ですから、時代に合わなくなってきたからメンテナンスをする、車をモデルチェンジすることはあり得る。だから9条(の改正)はある。この議論は安倍さんを排除してからはあり得るけど、安倍政治のもとでそれを仕掛けていくっていうのは、ほとんどギャグですよ。憲法になんて書いてあってもどうでもいい人なんでしょ。
【阿部】 そうなんですよ。「ぼくはこう思ってるから、ぼくはこう解釈したから、それが憲法」。
【小林】 安倍さんは憲法が何か知らないでしょう。憲法なんて踏みにじるものと思っているんだから。
【阿部】 今度の参議院選挙で、安倍総理が一番、そしてずっと狙っているのは、やっぱり憲法を改正したいんだということ。それは岸信介さん以来の思いかもしれないし、そのために3分の2を取りたいと。消費増税とかいろいろあるけれど、また、アベノミクスすら付随的で、彼の頭の中心は憲法改正ではないか。
【小林】 それはそうですよ。彼は公言してるじゃないですか。憲法改正は自分の歴史的使命であると。だから衆議院は3分の2を持ってるから、今度は参議院で3分の2をとる。これは彼の最初の目標設定でしたよね。実際どうですかね、なかなか難しいと思いますけどね。
【阿部】 国民は安倍政治はいやなんだけれど、どの政党を選ぶのか。この間の主張に関しては、共産党は明確だし、先生もそうですが、共産党を評価しますよね。
【小林】 見直しましたよ。
【阿部】 そうですよね。今まで悪く言えば、唯我独尊、我は我で。
【小林】 偏屈で。
【阿部】 そう言っていたのを、「やっぱり協力しなくちゃ、手を握らなくちゃ、勝てないよ」って言い出されて、ほんとにその通りです。逆に言うとそこまで追い込まれてきているっていう感覚を、正しく持っているのが共産党のみなさんで、他の野党は、まだ何だか「後がある」「まだ大丈夫」、みたいに思ってるけど、全然そうじゃない。よく共産党といっしょにやるかどうかっていう話が出ると、悪魔と手を結ぶという話が出るけれど、悪魔は安倍だと。
【小林】 そうです、そうです。
【阿部】 そう思ったら、誰と手を結ぶかということもおのずとわかるはずだし、志位さんは国民連合政府っていう言葉を言われて、民主党を始めとして、みんなどん引きしたけれど、私はそれはあり得ると思います。実際、政権を一緒にやれば難しいと思いますけど、でもそこに、暴走をまず止めるんだっていう意識として、共産党のみなさんと、共闘をどんどんしたらいい。
私が今一番民主党にいて歯がゆいのは、共産党のみなさんとの共闘に非常に後ろ向きなんですよね。政党の歴史があることですが、もう今は、政党という枠を超えて、国民の意思を汲む選挙にしなきゃいけないと思うんです。国民しかこれを止められない。安倍さんの暴走は国民しか止められない。国民がそれを止められるために、政党は何をすべきか。今までの論理は、政党はこう考えるからこうすべき。政党っていうものがあるんだから、そうすべきなのかもしれないけど、そうじゃなくて、止めるために政党が何をすべきかっていうことです。
【小林】 もう答えははっきりしているんです。選挙制度は国会の多数派しか変えられない。だからこの制度でいくんですよね。いわば敵が作った土俵です。だけど、よく考えたら相手は自民党と公明党がくっついて、43%の得票で7割の議席を取っちゃった。小選挙区っていうのは勝ったものが全部取りますから、計算して足せば、43%以上の票が出るんですよね。
だから、今度は「安倍ちゃん気持ち悪い」という特殊な空気が流れていますから、野党もまとまれば勝てるし、まとまらなきゃ勝てないですよ。そのときに好きの嫌いの言っているんですよ、いまだに。本来は「安倍よりいいだろう」で一致できるんです。いわば緊急避難所を建ててね。これやらないと負けますよ。しかも寄せ集まったところで、全力で戦わないと負ける。
だから、民主党の態度は非常に悪い。「共産党が候補者出さなきゃいいんだよ」と。そうしたら、共産党もふてくされます。「はやいとこいっしょにやりましょう」って言えば、共産党もがんばって、しかるべき票が出て、僅差で自公に勝てるんです。今のように「共産党さえどいてくれればいいんだ、おれたちがやるから」だと僅差で負けますよ。ますます惜しいことになる。
【阿部】 そうですね。私も本当にそこが肝だと思いますね。共闘できるかどうか、本当の共闘ができるかどうか。共産党の方はある種、もっと大人で、例えば民主党の側が、「あんたがどいてくれればいいの」と思っていても、「皆で勝つためにどきましょう」っていうくらいの度量があるんですね。二重にすごいなと思ったんです。
もちろん共産党は共産党の組織論というか、長い歴史のある政党だから、ただ思いつきでやっているんじゃなくて、今はそういう風にしてでも、いわゆる党利党略を一歩おいたとしても、この大きな合流を取っておかなければならないと考えているのではないか。結局、第二次世界大戦に向かうときも、まず共産党以外の政党が弾圧されて、最後に共産党をぎゅっと締めれば、これで誰も何も言えないだろう、という流れになっていったわけで、共産党のみなさんも、戦ってきた分だけ、次に起こることって言うのがわかる。このたたかいに勝てなければ、自分たちが築いてきたものもなくなるだろうと思うからこそ、英断をして、今の共産党のいろんなスタンスってあるんだと思うので、あとは、他の野党がそこをもっと大胆に協力していく態勢って言うのをお願いしたいと思います。
いま世界中が試されていて、これまでのような国家同士の戦争ではなくなって、国というけど国ではないイスラム国のように、いろんな格差の中で不満を持った若者が、流れ込んで吸収されていく先ができている。民主主義的な、お互いが相手の存在を否定しない多様性のある社会をどう作っていくのかっていうことが、全世界で問われている。日本でも、実は同じ現象が生まれてきている。そしてその民主主義のうねりのひとつに、小林先生がいらっしゃるように思って、大変期待しています。
【小林】 私もびっくりしているんですけれど、タクシーなんて都内に10万台以上いますよね。タクシーの運転手さんに出会うなんて、ひとり1回が普通だと思うんだけど、タクシーでよく運転手さんに名前を言われるんですよ。「小林先生、おっしゃること正しいと思います、がんばってください」って。ぎょっとしますけど、すごくうれしいですよね。
それから、地下鉄を使って通勤してるんですけど、駅で老婦人が私の前を遮って、ていねいにお辞儀してくれる。明らかに私にお辞儀しているんです。お辞儀を返すとうれしそうにしますしね。いろんなところで声をかけられます。
長年、大学教授をやっていましたし、言論戦もやっていますから、多少顔は知られているんでしょうけど、ふつう声はかけないですよね。「あ、あの人だ」と。声をかけられるってことは、かなり親近感を持ってくれている人も多いってことですよね。だから、語ってきたことはよかったなと思っています。通じてるってことです。
安倍さんに対して、みんなが知的に情的にちゃんと裏付けのある怒りを持っている、それが広がっていると思うんです。だから民進党に期待なんですよ。岡田さんがんばってくださいよ。大事なことです。わくわく感を演出するのが第一野党の責任でしょ。不景気な顔をしないで、わくわく感を演出してくださいよ。
【阿部】 政党の論理が先立っていたら、このわくわく感は生まれないんですよね。だって国民は政党の外って言うか、自分たちと距離のあるものと思っている。今大事なことは、ふつうの女性が先生に声をかけてくれる、タクシーの運転手さんが声をかけてくれる、みんな何か言いたいし、関わりたいし、何かしなくちゃって思ってるんですね。それに対して、今回の合流、後退とは言いませんけど、政党同士が一緒になるって言うのは、自分と関係しているって思えないんですよ、残念ながら有権者のみなさんにはね。
だからわくわく感っていうのは、自分との関係、何かそこに感情とか、関われるっていう仕組みが必要で、本来選挙もそうなんだけれど、ずいぶん日本の選挙制度は枯渇しています。民主党が政権を取るときは、みんながわくわくしていたと思うんですけど、でもそれ以外は、ほとんどもうどっちでもいい。「とりあえず安倍ちゃんしかいないから、自民党にしとこうかな」っていう程度です。自分の生活に関わっている、自分の将来に関わっている、自分の子どもたちの未来に関わっているという感覚を、つないでいないと思うんです。
【小林】 民主党の失敗に関する分析と注文をしておきたいと思います。民主党が政権をとったとき、私も投票しました。何か世の中が変わるようなわくわく感がありましたよね。旧態依然たる自民党の利権政治、世襲政治が変わるんだって。
ところが、政権を取った民主党は、運営にしくじった3年間でした。しくじりのひとつは、官僚と自民党がつるんで世の中を悪くしてましたから、官僚と業界と族議員のトライアングルを切るために、官僚を遠ざけて、政務三役が何でも決めるとしました。ところがそうしたら、官僚はしたたかですから、一番情報持っていますから、逆にサボタージュ方式でやれば、民主党を困らせることができる。
困った民主党が何をしたか。これも愚かだと思うんですが、政権を持つということは自分たちは未経験である、だから経験豊富な自民党のまねをすればいいんだ、と考えたように見えたんです。役人とやっぱり仲良くしようとし始めたわけです。そうすると役人は、したたかですし、自民党と水脈がつながっていたし、意地悪された恨みもあるし、いいように叩かれちゃって、民主党政権を終わらせた。ちゃんと裏には自民党とか業界がついていた。
原発の問題だって、民主党の責任ではなくて、誰がやってもああなったんだけど、それは長いこと自民党と業界と経産省がつるんで、仕掛けたことの結果じゃないでしょうか。辺野古の問題だって、自民党の族議員と族官僚と業者とがつるんで、基地の仮設移転よりも、どうせなら新しい基地を作った方が、お金もかかるし、業者もたくさん増えるし・・・といったそんな話ですよ、私の推測はこうなるわけですよ。ということ全部を民主党のせいにされてしまったんですね。それを民主党もきちんと切り返すべきだったと思いますよ。「われわれは未熟でありましたけれど、今回学びました、それはこういういきさつで、本当に未熟だったけれども、これから改めますから、もう一度期待してください」とは言えないんですよね。
民主党が政権を失ったときに、幹部のひとりが、私を赤坂に呼んで、「万年野党でいる気はない。絶対に政権を奪還します。万年野党でいるなら、私は政治家を辞めます」と啖呵を切ったわけです。ところが、彼が実際にやったことは、今回は野党がひとつにならなきゃいけないのに、小沢さんが嫌いだと言っている。また分裂の話になっている。
小沢さんが嫌いだとしても、ぼくは安倍さんがもっと嫌いなんです。危険な安倍さんをやっつけるために、小沢さんの経験を取り入れるくらいの度量がなかったら、万年野党ですよ。民主党の幹部を見ていると、百数十億とある国庫助成金を管理する役を手放さない限り、個人的には豊かな老後なんですよね。万年野党幹部であり続けようという行動に出ているようです。民主党の情けないところです。
【阿部】 私自身は、民主党になってまだ1年で、それまでは小さな政党をずっとやってきましたが、その私から見ても、中途半端な大きさで、それで存続できると思う気持ちが、どこかにあるんじゃないなかあと思います。しかし、そんなものも吹っ飛ぶぐらいに今度の選挙というのは、民からの風というか、民意が本当の受け皿を求めて動くときだと思いますね。むしろ、そういう意味では、ほんとはチャンスだし、逆に負けたら、安倍政権はブルドーザーですから、なぎ倒して何もなくしていくでしょう。ですから、小林節先生も言われるとおりで、私もすごく同意します。
今回のベルギーのテロの問題でも、本当は原発施設を狙ったんじゃないかと言われています。民主党が政権の時に原発の事故を経験して、いっときは国民の思いも、「やめなきゃいけない」「やめるためのプロセスを踏んでいくんだ」と思ったにも関わらず、安倍政権は原発は残したいし、特に核武装の問題があるから、再処理してプルトニウムを取ってやっていきたい、と考えていて、着々と進めています。民主党の失敗の中で、今大変残念に感じていますが、民主党が本当の骨太な、これからの世界の平和や人類の共生のための、対抗軸っていうものを打ち出せていません。原発についても、あいまい化しようとしている。せっかくの野党なのに、野党というのはある意味でいい立場で、言うべきことを言える立場なんですよね。
【小林】 そうそう、正論を言える。
【阿部】 そこにたどりつくまでの道は、与党になったときには苦労を背負うわけですけれども、正論を言わなくなった野党だったら、いらない野党になってしまいます。民進党には二つの課題があって、まず、正論を言うこと、次に本当に度量を広く、共産党を含めた勢力と、手をつなげるかどうかということ。それがこの党の浮沈に関わっていると思います。
【小林】 すごい本質で、私も聞いていてよくわかります。そうなんですよ。与党だか野党だかわからない、あいまいな議論をしているんですよね。あれだけ悪政の与党なんだから、真反対のことを、ぱんぱんぱんぱんと言えばいいんですよね。辺野古反対、消費増税反対、法人減税反対、原発ふざけるな、使っちゃいけない、廃止路線に入る、TPPはとりあえずわけわからないし、止めて再考する。これをぱんぱんと言えばいいんですよ。
【阿部】 なかなかそれができないところのもどかしさ、ありますけれど、私も身を置いた限り、この党をよくしていくことに努力し、できなければ、また新しい次の枠を国民の民意のもとに作りたいと思っています。政治家ってそういうものだと思いますから。特に民主党は今日で20年の歴史を終えて、民進党に名前だけ変えるんではなくて、次のステップをいきたいと思います。
◆対談者略歴
小林 節 慶応大学名誉教授 弁護士
阿部 知子 衆議院議員(民進党) 小児科医師
※の原稿は2016年4月13日に衆議院議員会館で行われた対談記録を原稿にしたもので文責はオルタ編集部にあります。