【コラム】槿と桜(104)

増加する単身世帯――『聯合ニュース』から見えるもの

延 恩株

 単身世帯とは、わかりやすく言えば、”一人暮らし”のことです。未婚者だけでなく、家族との別居、配偶者との離婚・死別、子どもの独立などによって、家族と同居せずに一人で生活を営む人びとを指します。
 韓国では日本と同様に〝少子高齢化〟が大きな社会問題となっていて、特に少子化は深刻な問題と受け止められています。韓国統計庁の2023年2月22日の発表によりますと、2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子ども数)は0.78%で、統計を取り始めた1970年以降最低で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均出生率の半分に届かず、2022年の出生数は24万9000人となり(日本も80万人を割り込む)20年前の半分になったとのことです。この少子化については、ほぼ1年前の2022年6月に世論調査会社の韓国ギャラップ(한국갤럽)がおこなった調査で、韓国人成人の96%が事態は深刻だとすでに受け止めていました。

 こうした韓国社会の少子化への危機意識があるからでしょうか、2022年12月7日に韓国統計庁が公表した資料をもとに、韓国の国家通信社『聯合ニュース(연합뉴스)』は同日付で単身世帯について取り上げて報道していました。
 それによりますと、「2021年の単身世帯数が716万6000世帯、2020年比52万2000世帯(7.9%)増加し、単身世帯が全世帯数に占める割合が33.4%となっていて、年齢別では、29歳以下の単身世帯が19.8%で最多、70歳以上(18.1%)、30歳代(17.1%)、60歳代(16.4%)であり、地域別では京畿道(21.5%)に住む単身世帯が最も多く、次いでソウル特別市(20.8%)で、約4割がソウルとその近郊に住んでいることになる。住居形態は賃貸が最も多く、賃貸に住む単身世帯の割合(42.3%)は家族一緒の世帯(23.4%)を18.9ポイント上回った」というものです。
 韓国統計庁の公表資料に対するこの『聯合ニュース』の見出しは「3分の1が単身世帯 4割以上「結婚しなくてよい」」となっていました。
 韓国では少子化が大きな問題となっていますから、少子化を改善するためには単身世帯が増えていることは少子化改善とは逆方向にあること、しかもその単身者の「4割以上が結婚しなくてよい」と回答していることを報じるのはニュースとして価値があるのは言うまでもありません。通信社として少子化への警鐘を鳴らしていると言えます。
 したがって、このニュースの詳細を伝える中でも「単身世帯の割合が年々増加」しているとして……、
 2005年までは単身世帯は20%台だったのに、2019年に30%を上回り、20021年には全世帯数に占める割合が33.4%にまで上昇し、さらに増えるとしていました。

 『聯合ニュース』の視点がどこに向けられているのかは、記事の小見出しが「単身世帯の44%「結婚しなくてよい」となっていることからも明らかです。
 これから結婚すると思われる単身世帯の人びとのうち44%が結婚しなくてよいと回答していたことは、韓国人の結婚に対する意識に大きな変化が起きているらしいことを窺わせています。そして、結婚していない理由では「結婚資金の不足」が30.8%で最多だったとも報じていました。
 この「結婚資金の不足」は「結婚しなくてよい」(44.3%)と「結婚しなければならない」(47.1%)のどちらかで考えている人の30%余は、結婚する可能性があるわけですから、問題解決の方策を当事者だけでなく政治的な解決策も含めて、社会全体で考えていかなければならないことを示唆しているのではないでしょうか。
 もっとも単身世帯のうち12.3%は「結婚の必要性が感じられない」と回答し、「結婚しなくても子どもを持つことができる」と考える人が36.9%いたということで、ここにも結婚観の変化が見て取れます。

 以上のように2022年12月7日付の『聯合ニュース』では、これから結婚すると考えられる単身世帯の人びとに焦点を当てて報じていました。すでに述べましたように、韓国では少子化が大きな問題になっていますから、その点に注目した統計資料の読み方があっても当然だと思います。
 ただ私はこの『聯合ニュース』の記事からは「単身世帯」問題は少子化だけでなく高齢者問題が少子化と同様、あるいはそれ以上に深刻になるかもしれないことを教えていると思いました。
 単身世帯が全世帯数に占める割合が33.4%で、年齢別では、29歳以下の単身世帯が最多の19.8%、70歳以上が18.1%、30歳代が17.1%、60歳代が16.4%という数字になっているからです。つまり、29歳以下と30歳代の合計が36.9% 60歳代と70歳代以上の合計が34.5%でした。『聯合ニュース』が問題にしていたのは、未婚の単身世帯の人びとでしたが、そうした30歳代までの単身世帯と60歳以上の単身世帯の割合では、現在でも僅かに2.4%の違いしかありません。
 ところが、2022年6月28日に統計庁が公表した「将来世帯推計(全国編)-2020~2050年」によりますと、将来に向けての推計ですので、数字が変動する可能性はありますが、高齢化は深刻度を増していくようです。この推計では(ここでは60歳以上ではなく、65歳以上での統計)
 世帯主が65歳以上の高齢者世帯
   2020年→464万世帯
   2040年→1029万世帯
   2050年→1137万5000世帯
 2020年から比較しますと、2050年には2.5倍に増加すると予想しています。しかも、高齢者世帯のうち配偶者がいる世帯主が減少していきます。
 2020年→配偶者あり(60.7%)、未婚(19.6%)、死別(10.1%)、離婚(9.6%)
 2050年→配偶者あり(45.3%)、未婚(29.6%)、死別(11.1%)、離婚(14.0%)
 2020年では65歳以上の単身世帯は39.3%(この統計数字と半年後に同じく統計庁が公表した統計数字に少し違いがあります)ですが、2050年には54.7%となり、15.4ポイントも増加して、単身世帯の半数以上が65歳以上の高齢者になると予想しています。それに加えて未婚者が29.6%と2020年より10ポイントも増加するとしています。

 韓国では65歳以上の人口が2020年からわずか1年間で約45万人増加しました(2023年3月23日に統計庁が公表した「2022年韓国の社会指標」より)。冒頭に書きましたように、2022年の韓国の出生数は24万9000人でしたので、高齢者と呼ばれる人びとが約20万人も多く増えたことになります。今後、新生児の誕生数が20数万人で推移すると予測されていますから、高齢者の比率がさらに上がることはすでに述べてきた通りです。
 私が特に気になるのは、2050年には単身世帯の半数以上が65歳以上の高齢者になると予測されていることです。
 韓国人の2021年時点での平均寿命は83.6歳(男性80.6歳、女性86.6歳)と長寿化が進んでいます。それだけに65歳以上の人口が増えていくのは自然の流れです。そして、高齢になるに従い単身世帯が増加していくのもまた当然でしょう。でも、こうした一人暮らしの高齢者の面倒を誰が見るのでしょうか。
 たとえ単身世帯となって(死別、離婚、その他の要因)も子どもがいれば、まったく頼れる者がいないということにはならないでしょう。特に韓国の場合は親の老後は子供たちが面倒を見るという考え方が定着しています。私の家族の場合は兄が母(父は亡くなりました)と同居しています。そして、日本に住む私は経済的な支援をしています。ですから、たとえ親と同居していなくても、何らかの形で親の生活をサポートすることはできます。
 問題なのは未婚化が進んでいることです。2050年には高齢者の未婚率が2020年より10ポイントも増加し、単身世帯の約3割が未婚者になると予測していることは上述したとおりです。一度も結婚したことのない未婚の高齢者は兄弟姉妹などと同居しない限り、一人暮らしをせざるを得ません。未婚の高齢単身者は、配偶者も子どももいませんから、老後に頼れる人が存在しないケースがほとんどとなるでしょう。
 経済的にも安定し、精神的にも肉体的にも健康であれば、一人暮らしも問題ないかもしれません。しかし、高齢者になるほど貧困、孤独、病気、介護といった生活上のリスクを抱えるようになっていきます。これまでの韓国はこうした生活上のリスクに対して、家族が対処してきました。しかし、単身世帯として生活する限り、たとえ子供がいても日々の生活で共に暮らし、密着していませんから緊急事態への対応が万全とは言えません。ましてや未婚の高齢者には頼る人が誰もいませんから抱えるリスクへの適切な対処ができないことが日常化していく危険性が増大します。結局、介護などが必要な状況になったとき、誰が〝介護者〟になるのか、という問題に直面するはずです。
 今回取り上げました単身世帯の増加を報じた『聯合ニュース』の記事は、「単身世帯の平均所得280万円 借金は370万円」との小見出しも付けていました。
 単身世帯のうち2021年時点で何らかの仕事をしていたのは414万世帯(57.8%)、残りの約302万世帯(42.2%)は無職だったということです。しかも、平均370万円の借金も抱えているというのです。
 無職の中には失業中の30歳代までの人もいれば、年金生活者もいて、平均年間所得金額が低くなるのは仕方ないとしても「単身世帯者・未婚者・年金生活者」という枠組みの高齢者が現時点ですでに人口の2割近くになっている現実を忘れてはならないでしょう。
 介護や病気治療などが必要になったとき、たとえばこうした枠組みの人びとは他人に頼るしかなくなるのです。

 現在、韓国では少子化が大きな問題としてその解決のための政策がいくつか打ち出されています。しかし、同時進行で高齢化が進み、そう遠からず超高齢社会となることは避けられません。そして、頼れる家族のいない高齢者が増加の一途をたどることも、また避けられません。
 政治的には社会保障制度や医療制度の充実、介護制度や介護施設の充実などへの取り組みと、その積極的な推進は待ったなしのところまで来ています。
 でも、こうした政策とは別に私たちにも共助精神に溢れ、身寄りのない高齢者に手をさしのべ、孤独死などという言葉が死語となるような共生社会の実現を目指して、一人ひとりがその責任を負わなければならない自覚を持つという宿題が出されていると思えて仕方ありません。

大妻女子大学教授

(2023.5.20)
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