■【沖縄の地鳴り】

埋め立てに遺骨の土砂

平良 知二

 「辺野古新基地」建設の埋め立て工事に沖縄戦戦没者遺骨収集の「ガマフヤー」具志堅隆松さん(67)が異議を唱え、県民の共感を集めている。埋め立てに使われる土砂が沖縄本島南部(島尻)の戦没者が眠る地から採取されようとしているからだ。「基地に反対か賛成か以前の、人道上の問題だ」として具志堅さんは先日、県庁前で1週間に及ぶハンガーストライキを決行した。県民が激励に駆け付け、玉城デニー知事も姿を見せた。

 土砂の採取場所は無名戦没者が眠る「魂魄の塔」に近い。この塔は住民らが中心となり、一帯に散乱していた遺骨を集め建てた塔で、戦後すぐの、県内で最も古い慰霊の塔である。現在では遺骨は摩文仁が丘の「国立墓苑」に祀られているが、戦後かなりの期間、塔の上の空洞から中の遺骨を見ることができた。
 無名の人たちが祀られているため、自分の家族、親族がどこで亡くなったか分からない人は毎年、この塔を訪ね、線香を立て祈っている。この塔が自分の家族の塔だという思いであり、慰霊シーズンの参拝者は「平和の礎」などに次ぐ多さである。

 筆者の祖母、姉たちも南部戦線で亡くなった。逃げ惑う戦場の犠牲者である。亡くなった場所ははっきりしない。このため遺骨はなく、慰霊シーズンのたびに遺骨が集められているこの塔にお参りに来た。
 塔は上方に直立して伸びる形ではなく、丸い蓋をかぶせた笠のような姿であり、笠には上ることができた。そのてっぺん近くに穴が一つ開いていて、底を見ることができた。少年時代、2、3度だったか底をのぞいた。数多くの頭蓋骨など骨が山になっていた。いま穴はふさがれている。それに遺骨は、もうない。「国立墓苑」に移された。
 少年とはいえ、お墓に上って底をのぞいたことを後で反省したのだが。

 そのような、犠牲になった住民たち(軍人も)が眠っていた塔、その一帯は沖縄戦の激戦地であり、発掘を続ける具志堅さんらが今でもたびたび遺骨を見つけ、収集している。その土が「辺野古新基地」建設に使われる。具志堅さんならずとも嫌な思いになる。
 土砂を採掘する鉱山関係者は採掘は表層の下の土であり、採掘後、表層は再び埋め土すると話しているようだが、遺骨も一緒に運ばれてしまう危険性はぬぐえない。

 採掘の手続きに景観問題などで県がかかわることができ、玉城知事がどう判断するか注目されており、具志堅さんは「戦没者の血を吸い込んだ土砂を新基地のために使うのは人道上、許されない」と強く訴えている。

 埋め立て工事については一部の工費が契約変更を繰り返し、当初の約1.6倍に増えていることも明らかになった。朝日新聞の調べであるが、当初の259億円から現在では416億円に増大している(1工区~3工区)。しかも、入札を経ずに増額を重ねてきている。理由も具体的には明記されていないという。
 このままでは工費は膨らみ続けると危惧する専門家もいて、防衛省の“カネ使い”は問題含みである。「辺野古新基地」建設の全体額はすでに1兆円規模になっており、朝日新聞によると、この総額は米軍岩国基地の新滑走路の3.6倍、既存の最新イージス艦5.5隻分に当たるらしい。

 自衛隊が共同使用するという日米軍事筋の合意があったなど、「辺野古」には県民、国民が知らされていない問題が隠れ潜んでいる。政府が繰り返す「唯一」の言葉の裏に隠されている。

 具志堅さんの提起はその一部を暴いたとも言える。戦(いくさ)を引きずって75年。無念の遺骨たちは土の中でなお息をひそめたままだ。軍事基地に一切手を染めぬ、手厚い情のこもった発掘をこそ待ち望んでいる。

 (元沖縄タイムス記者)
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