【オルタ広場の視点】

地方選挙 最後の堺市長選挙と地方議会のあり方を問う

仲井 富


 ① 堺市長選挙 維新勝利も僅差 都構想の可否を問わず
 ② 市長選挙結果は維新支持勢力低下現象を表現している
 ③ 橋下徹氏 公明党への恫喝から堺市長選結果に低姿勢の本音
 ④ 今後の課題1 報酬減らし家業化防げ 河村名古屋市長
 ⑤ 今後の課題2 議会改革 土日議会改革へ 古賀茂明「官々愕々」
 ⑥ 資料1 諸外国の議会制度 イギリス、ドイツ、フランスに関する報告
 ⑦ 資料2 土日・夜間 議会改革 このままでいいのか千代田区議会

◆堺市長選挙結果 維新勝利も僅差 都構想の可否を問わず

 ――4月の大阪府知事・大阪市長のダブル選の勢いを維持した大阪維新の会がついに「反都構想の牙城」を突き崩し、大阪のもう一つの政令市長ポストを獲得した。
 だが、初当選を果たした永藤英機氏が選挙戦で訴えたのは、竹山修身前市長が辞職を余儀なくされた「政治とカネ」問題からの決別。都構想の議論については「時期尚早」として争点化を避けており、都構想が市民に受け入れられたというわけではない。永藤氏は府市の「副首都推進本部」に参加し、府市との連携を強める方針を明らかにしているが、市民への丁寧な説明と、議会での十分な議論が求められる。
 市議会(定数48)で維新は最大会派とはいえ、議席は18と過半数に満たない。前市政での維新の立ち位置は「反市長派」で、「市長派」の他会派と全面的に対立してきた。刷新を掲げた新しい市政運営は、多難な船出となるだろう。
 しかし、議会審議が紛糾ばかりで停滞すれば、公約に掲げた行政改革の実現もままならなくなる。市議選と知事選、さらに市長選と、春以降の3つの選挙で激突した維新と反維新。新市長には今後は「けんか」ばかりでなく、理解を得ながら前向きな議論を進める行政手腕が問われることになる。(2019・6・9 産経新聞 古野英明)

◆市長選挙投票率は知事選より低下、得票率も大幅減の維新

 堺市長選挙 投票率40.8%と4月の知事選の49.49%を大きく下回った。前回の知事選挙では得票数約20万票で都構想反対派の得票数を約7万票上回った。だが市長選挙では維新の長藤候補の得票約14万票、都構想反対派の野村候補の得票約12万票余と僅差の結果だった。市長選挙結果は、以下の通り。

 〇堺市長選挙 投票率40.8%
  永藤英機 42 大阪維新の会      新 137,862票 50.0%
  野村友昭 45 無所属      新 123,771票 44.9%
  立花孝志 51 NHKから国民を守る党 新  14,110票  5.1%

 〇大阪府知事選挙 投票率49.49%
  吉村洋文    203,620
  小西たかかず  133,252

 永藤氏は、大阪都構想を正面から掲げず、市長選挙を戦ったが、知事選挙の7万票差の圧勝と比較して、約14,000票差であった。維新陣営にとっては意外ともいえる辛勝だ。この結果をうけて、自民・堺市議団は“都構想住民投票容認”の自民党大阪府本部渡嘉敷府連会長の「解任要求」を6月13日決議した。

 ――大阪維新の会公認で初当選を果たした堺市の永藤英機市長。就任3日目を迎えた12日、議長と副議長のもとを訪れ、今後の市政運営について協力を求めました。
 その後、市議会各会派をまわり、自民党などからは「大阪都構想」について念押しがありました。
 「4年間、都構想の議論はしないと言っていた。そこは守っていただきたい」(自民党 池尻秀樹市議)
 「しっかりとお約束します。各会派のみなさんと話をしながら、堺のために尽くしてまいります」(永藤英機市長) (2019・6・12 MBS)

◆橋下徹氏 公明党恫喝から一転 堺市長選結果に低姿勢の本音

 4月の知事、市長選挙後の橋下徹氏の公明党に対する恫喝はすざまじかった。大阪府知事・大阪市長のダブル選と府議選・大阪市議選で大阪維新の会が大勝したのを受け、同党前代表の橋下徹氏は4月8日朝、フジテレビの情報番組に出演。関西で公明現職のいる六つの衆院小選挙区について、「維新公認候補を全部立てていく。エース級のメンバーがもう準備できている。戦闘態勢に入っている」と話した。
 しかも橋下氏は、知事選に当選したばかりの前大阪市長の吉村洋文氏が次期衆院選でくら替えする可能性にも言及。「知事になっても次の衆院選になったら、公明党を倒しに行く。公明がちゃんと話をつけるのか」と述べ、都構想の是非を問う住民投票実現に向けて公明が交渉のテーブルに着くよう求めた。さらに改憲に非協力的な公明を相手にせず、自民と組んで憲法改正をする等々。常勝関西の伝統を守るために公明党は橋下氏の軍門に下ったのは周知のことだ。維新代表を退いても橋下氏は依然として大阪維新のオーナーであることを内外に明らかにした。

 だが、その後の衆議院補欠選挙、今回の堺市長選挙と、大阪維新の得票は激減している。それを自覚しているのか。あるいは公明を巻き込んだことで大阪都構想なれりという自信の現れか。少なくとも大阪維新はガラの悪い松井維新代表ではなくて、いまなお安倍・菅と橋下の絶大な信頼関係によって政局を動かしているのは周知のことだ。
 松井維新代表は、堺市の貴重な歴史遺産である仁徳天皇稜をイルミネーションで飾りお客を呼び込んで世界遺産にしよう、と呼びかけた。これが堺市民はもとより、正統右翼人士の大反発を買った。NHKの出口調査では、無党派層の支持が都構想反対派の候補に多く流れたとしている。「松井代表の家は商売が電気屋だから、儲けるためにやっているのか」などとの痛烈な批判にさらされている。

◆地方政治の課題1 報酬減らし家業化防げ 河村たかし名古屋市長

 今回の統一地方選挙はさらに政治の空洞化が進んでいることを証明した。史上最低投票率の更新、さらに無投票地域3割ということは、投票の権利自体が行使できないということだ。衆議院選挙では、民主党政権崩壊の2012年戦後最低となったが、続く2014年の総選挙でさらに最低記録を更新している。
 政治的無関心層と無党派層の増大がその証だ。地方政治をどう活性化するかを以下の章で考えたい。

 まず河村たかし名古屋市長の市民目線の議員歳費と定員削減論「家業化した議員の高すぎる歳費を家業にならんように、市民並に下げろ」という提案を聞いて見よう。これらはすでにヨーロッパ各国で実施されていることだ。

 ――地方自治は、首長と議会の「二元化代表制」と言われますが、議会の方が上です。予算にしても、条例にしても決定権は首長でなく、議会にあるんですから。民主主義では議員が一番偉いんです。10年前に市長になって、議員の報酬減や定数減、減税などを提案しましたが、嫌だという議員が多くてなんともならん。首長は議会を勝手に解散できんので、住民投票を呼びかけて議会をリコールしました。条例で議員報酬は半分ほどの800万円になりましたが、市議会で自民、民主、公明が3分の2を占め、1,455万円に上がる。プラス政務活動費が年600万円ですよ。

 首長の報酬も問題ですよ。名古屋市長は退職手当を含めて1年当たり約3,300万円です。わしは厚生労働省の統計で「60歳、大卒、男性」とほぼ同じ800万円にした。日本一給料の安い政令指定都市の市長だがね。報酬を納税者と同じにすることが哲学でないといかんのですよ。例えば、「住みよい都市」で有名なカナダのバンクーバー市議会は、市民の平均給与と同じにするルールがあります。

 予算案は首長が出しますが。多くの自治体では首長と議員がつるんでる。予算編成の前に、議員が「ここに予算をつけてくれ」「これやってちょ」言うて、首長がOKすると、「次の選挙応援する」って。だから、チェック機能なんかありません。首長も議員も報酬が高いもんで仲ようして、公務員の給料も上げて、税金で食っている方が楽じゃないですか。だから、みんな「家業」になった。普通の人はなかなかなれんでしょう。「プロの議員でないと役所はチェックできん」とか「河村や新しい議員が出てきて困ったことになった」って。なあにを言っとるのか。本当は家業化した議員の歳費の方が問題ですよ。

 家業にならんように、高すぎる報酬を市民並に下げればいい。嫌な人は辞めりゃあええ。いったん下げたけどまた上げられるという議員が残っている。なかなか思い通りうみゃこといかんですよ。これを阻止するためには、やはり報酬下げて、兼業を認めて、市民並に給与化、ボランティア化、名誉職化しなければいかん。そうすれば、新しい人が入ってくるし、女性議員も増える。会派の党議拘束ではなく、自らの信条で判断できるようになる。いい議員ももちろんいますよ。わしはこうみえても、議員を立派にしようしとるんです。(2019・2・5 朝日新聞 インタビュー聞き手/諏訪和人)

◆地方政治の課題2 「土日・夜間」の議会改革 『週刊現代』「官々愕々」 古賀茂明・元経産省改革派官僚

 筆者の住んでいる千代田区の区議会議員選挙で、土日・夜間の議会改革を掲げたグループが2名の候補者を立てた。1名は僅差で落選したが、彼らの問題提起には聞くべきものがあった。このことを古賀茂明氏が簡潔に紹介している。以下にその要旨を紹介する。

 ――統一地方選挙が全く盛り上がらないまま終わりそうだ。そんな折、東京都千代田区で偶然もらった「土日・夜間議会改革!」と書かれたパンフレットを見ながら考えた。
 例えば、地方議会で実際に審議を行う会期日数は、少し古いが、都道府県98日、市区85日、町村44日(総務省資料平成21年度)しかない。休みの日のほうがはるかに多いのである。首長が提出した議案を4年間で一度も否決・修正したことのない議会は50%、つまり半分の議会は全て丸呑みしている。議員提案の政策条例が一つもない議会は91%、ほとんどの議会が仕事をしていないことになる。さらに、各議員が議案に賛成したか反対したかを公開しない議会が84%もある(いずれも2011年1月の朝日新聞アンケート)。何もしていない議会に住民が関心を持たないのは当然のことだ。

 一方、何もしていないのに、町村を除き、なぜか議員報酬は高い。とりわけ、都道府県の平均では、報酬、期末手当、政務活動費、費用弁償諸経費を合わせると議員1人当たり、2,000万円を超える(地方議会を変える国民会議調べ)。
 仕事をしなくても高報酬となれば、議員であること自体が利権となる。議員であり続けるためには、利益誘導に熱心ということになってしまう。
 海外先進国と比較すると、日本の異常さがよくわかる。欧米先進国では、市町村議会が週末や夜間に行われることがごく普通になっている。また、先進国では、議員報酬は100万円未満が普通で(米国の大都市だけは例外的に高い)、中には無報酬というところもあるからだ。議員の仕事は、自治会役員の延長のような形で、普通の市民が兼業で議会に参加するという形だ。利権などになりようがない。政治が家業になっている人が多い日本の県議会などとは全く違うのである。

 このように、議会を平日昼間ではなく週末や平日夜間開催として、報酬を低く抑えることには多くのメリットがある。まず、住民が議会を傍聴することが容易になる。議員が家業ではなくなり、利権とならないし、特定グループへの利益誘導も起きにくい。他の職業を持つ人々が容易に議員になれるので、様々な分野で働く人々、一般住民など、非常に幅広い人材が議会に参加できる。地方議会が仕事をすれば、当然の結果として、住民が関心を持ち、投票率も上がるはずだ。そのために土日・夜間議会開催と報酬削減を突破口にしてはどうだろう。(『週刊現代』2015年5月9・16日号)

◆資料1 諸外国の議会制度 イギリス、ドイツ、フランスに関する報告
  「町村議会のあり方に関する研究会報告書 総務省平成30年3月」より抜粋

(1)諸外国の議会制度 兼職議員を前提とした制度
 諸外国に目を向けると、我が国とは異なる議会制度が存在する。たとえば、イギリス・ドイツ・フランスなどの基礎自治体の議会の議員は、名誉職的な性格を持ち、通常は議員以外の職務により収入を確保している。こうした国々においては、議員報酬は通常少額の手当や費用弁償等が支給されているのみである一方、議会運営については、他の職との兼業がしやすいよう、夕方又は夜間の開催が通例とされているほか、議員活動のために給料が失われた場合にはこれを補塡するための手当(給料補塡手当)などが設けられている。
 これら各国における地方議会議員に係る規制について、議員と公務員との兼職禁止に関しては、たとえばイギリスにおいては、一般の地方公務員については当該自治体の議員との兼職のみが禁止されており、管理職等の特定のポストにない限り、他の自治体の議会の議員との兼職も可能とされている。ドイツにおいては、「官吏」と呼ばれる特定の地方公務員については連邦議会議員及び州議会議員、当該自治体の議員との兼職が禁止されているが、一部の州では官吏がこれらの職に就任した場合は休職すればよく、議員としての職務が終了した場合は官吏に復帰することが可能とされている。
 異なる種類の議員間の兼職については、フランスでは地方議会議員と他の地方議会議員の兼職は1つに限り可能とされるほか、ドイツでは異なる議員間の兼職が多い状況にある。
 勤労者による議員としての活動についても、ドイツにおいては使用者は労働者に対して地方議員としての業務遂行のために必要な時間を与えなければならないことが規定されているほか、フランスにおいては議会への出席等の準備に必要な時間を一定範囲で与えなければならないことなどが規定されている。これらの制度は、兼業議員を前提とした、多様な人材の参画に親和的な議会制度であると言えよう。

(2)日本の議会制度 要因の分析 制度改正できぬ硬直性
 我が国の制度の沿革や諸外国の制度の例を踏まえると、現行制度の次のような点が議員のなり手不足を招来しているものと考えられる。
●[議決事件]
 地方議会は、長年の制度改正の積み重ねにより、地方自治法施行当初に比べ、また国会の議決対象と比較しても広範な事項を議決対象としているその結果として議員としての専門性がより強く求められるとともに時間的にもより拘束されるようになり、一般の有権者が議会に参画しにくくなっているものと考えられる。
●[定数]
 議員定数についても各市町村の規模によって大きく異なる。たとえば人口100,000人を超える規模の市(指定都市を除く)の平均議員定数については約30人程度であるが、人口1,000以上10,000未満の市町村においては約10人程度となっている。各市町村において議員定数の削減が進められてきた経緯にかんがみると、元々議員定数が少ない小規模市町村ほど、議員の負担感が増加してきたものと考えられる。
●[議員報酬]
 議員報酬は各市町村の規模によって額が大きく異なり、たとえば人口100,000を超える規模の市(指定都市を除く)の平均議員報酬月額については500,000円を超えているが、人口1,000以上10,000未満の市町村においては200,000円を下回っている。小規模市町村においては、会期日数は限られているとはいえ、他の職業と兼業するには議員活動に係る時間的拘束が大きい。その一方で、議員報酬だけでは生計を立てていけないという状況にあるものと考えられる。
●[兼職禁止及び請負禁止]
 地方議会議員に係る兼職禁止及び請負禁止は、それぞれその職務を完全に果たすための妨げとなる職との兼職を禁止すること、また議会運営の公正を保障するとともに、事務執行の適正を確保することを趣旨としている。しかしながら、小規模市町村においては、人口が少ないことに加え、事業所も限られていることから、公務部門の人材や市町村との取引関係がある事業者等が議員になり得ないことによる実態的影響が大きいものと考えられる。

◆資料2 土日・夜間 議会改革 このままでいいのか千代田区議会

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 (『オルタ広場』編集委員 公害問題研究会代表)

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