【運動報告】

地域社会に自律的社会的事業所とそのネットワークを

柏井 宏之


◆息を吹き返した日本の官僚支配のもとで

 「格差」社会の広がりと新たな貧困の深まりのなかで、さまざまな負の連鎖による対処が複雑さを増している。その処方箋は鳥の目論だけでも虫の目論だけでもむつかしく、また世代ごとにバイアスがかかっている下では、日本社会の傾向性をおさえ、未来に眼をむけた思いきった統合的・創造的視点が求められている。それには、明治以来の官僚制の下に、市民社会がタテ割に展開された諸運動のタコつぼ状況を外に拓き、格差にあえぐ排除にあう人々に関わるステークホルダー関係を重視して就労の場としての社会的事業所を、それぞれのアイデンティティをかけて事業自立させることにある。それらが地域社会に複層的な5重にも6重にも多方向にループのように展開し、連帯のネットワークを創ることに関わろう。それは同一方向に向くのではなく複雑な社会にリゾーム状の多方向性に拓いてやわらかく回転する事がキーとなる。

 自公政権のもとに息を吹き返した日本の官僚支配は、それら領域の見取り図は自らの専売特許と、一時は市民社会の自律的な連帯の噴出に行政はどうあるべきかと逡巡したことも忘れ、今では保守回帰のなか、潤沢な資金をもってそうした知の人材育成に熱心だ。それはちょうど1975年、スト権ストがその後の労働運動からストを失っていくように、2009年、民主党政権成立後、障害者法制をめぐる当事者のさまざまな参加型の議論で市民社会に祭りの後のような徒労感を残してしまっているのも事実。そこに諸運動の世代交代が重なっている。

 4月から本格実施に入る「生活困窮者自立支援法」で、格差社会の広がりと新たな貧困の深まりには市民社会が解決すべき課題として「福祉」に限った施策の実施に入ろうとしている。そしてそれは地域社会の保守的組織に期待を寄せ、それを補完するものとして行政指揮の下での市民組織の関わり方を注視しているのが現状だ。これが「地方都市消滅」をそう遠くない時間帯の中での保守権力が考える社会基盤づくりの処方箋にみえる。あまりに官治型政治にかなった方式ではないか。これは就労創出を掲げた社会的ヨーロッパとも韓国とも違う方式だ。なぜなら21世紀の格差=貧困問題は、社会的に不利な立場の人々への社会的包摂としての就労創出を社会連帯の課題としてつきだしてきた。

◆就労困難者支援と労働統合型社会的企業の役割

 2008年末の年越し派遣村以降、ホームレス・シングルマザー・障がい者・刑余者・薬物・アルコール依存者・移民・ニート・ひきこもりなどのプレカリアートの顕在化とその解決方法は施設ではなく就労を通して当事者が「普通に働く、普通に暮らす」ことにあり、市民社会のさまざまな自律的共同体と行政が対等にコラボして地域社会の多様なコミュニティに迎え入れ、連帯を創出することにおいてきた。日本の社会運動もまたこの政策的方法を重視してきた。
 この分野では、反差別運動の障害者運動と部落解放運動が自らの運動を外に拓いて大きな役割を果たしてきた。本来、その中心にあったホームレス運動は、高度成長期の底辺労働を担った地方出身の日雇い労働者は後期高齢化し、住居・医療・介護などの生活支援が重要になった。大阪・難波のネットカフェ火災死者に象徴された「若年不安定就労・不安定住居者」はNPO法人釜ヶ崎支援機構と大阪市大の労作として聞き取り調査報告書―「若年ホームレス生活者」への支援の模索として寄せ場におこった劇的変化としてまとめている(2008.3)。今や若者のニート・ひきこもり、さらにはスネップ(孤立無業者)の就労の場づくりがテーマとなった。関西では阪神大震災以後、共生型経済推進フォーラムはそれらをつなぐプラットフォームの役割を果たしてきた。

 共同連と韓国障碍者友権益研究所は、アジアにおける社会的排除にあう当事者のネットワークとして日韓社会的企業セミナーとフィリッピン・ベトナム・中国・台湾との障がい者団体との独自交流を拡げてきた。このアジア的民力の蓄積の意味は限りなく大きい。
 福原大阪市大教授は、2010年、大阪での第2回日韓社会的企業セミナーで「日本における就労困難者支援と労働統合型社会的企業の役割」を強調した。派遣法によって労働市場が内部と外部に分断され、その外部にワーキングプアが発生、そこから失業と生活困窮者の三層の労働市場構造が出来上がった図を示した。これは共同連がローマの社会的協同組合B型連合会にマロッタ氏を訪ねた時、ベルルスコーニの「ビアージ法」というフレキシブルな労働の強調はワーキングプアを世界に発信した「日本発」と語ったのと重なる。それはまた最近、山崎憲が『「働くこと」を問い直す』(岩波新書)で1980年におこった“日本の「働かせ方」が壊したもの”の分析でつとに強調する論点でもある。
 福原教授は阪神大震災後の復興事業の「中間的就労」を提唱、これが受けいれられていれば東日本大震災の時の国の復興事業に必要で現実的な就労施策となる方式であったが、民主党政権の瓦解で実現の機会を逸した。この日韓セミナーでは、韓国のチャン・ウォンボン教授の「再分配・市場交換・互恵の複合経済として社会的企業インセンティブ構造の現実と課題」の提起はアジアに先駆けた韓国の社会的企業・社会的経済の立ち位置と今後の展望を示すものであった。とりわけ「社会的企業が、国家と市場に対する同等な共同生産の主体として登場することができるが、その反面、国家行政のための質の低いパートナーとして動員の対象となったり、利潤メカニズムによって市場化される退行性の可能性を持っている」として警告したことは日本のその後にとって示唆的な内容であった。

◆昔日の感あり 「福祉から就労へ」

 12月、「普通に働く、普通に暮らす」とは厚労省の村木厚子次官が高知から東京に出てくる時の私の思いだと「就労支援フォーラムNIPPON2014」に久しぶりに登場、2004年の「障害者就労グランドデザイン」案が「福祉から就労へ」を掲げてはじまったことをなつかしげに語った。当時、イタリアの社会的協同組合B型の労働統合型の就労が知られ、就労による社会統合が大きな流れの時代。それは共同連が昨年「どうなる、どうする障害者・生活困窮者自立支援法」の集まりで福祉基盤課福祉人材確保対策室の関口彰氏はグランドデザイン案が「労働法規に位置付けられた移行が強く意識されていた」と証言している。しかしそうはならず2005年「障害者自立支援法」は就労を福祉に位置付け直すものとしてスタートした。この頃に日本を訪れた台湾・台北市の張基煜労働副局長は、その「福祉から就労へ」に示唆を受け、台北市で社会的に排除されている人々の就労の場として庇護工場と社会的企業の取り組みを行ない、市民社会からは勝利財団が障害者就労の場を企業と行政と連携しつつ大胆かつ多角的に展開している。韓国では自活センターの就労が福祉的就労にとどまったので、2007年、労働省が前に出て「社会的企業育成法」を成立させる。アジアでの就労支援の別れ道はこのころであった。日本では、社会的企業そのものを支援する法制策は大企業・経産省・連合に拒否された。「協同労働の協同組合法」の不成立に象徴される。そのため新しい働き方への道筋のないまま連発された緊急雇用対策の空撃ちの後、今の日本の当事者にとっては就労の場に至らない福祉的就労やこれからの人たちには「中間的就労」の教育・訓練の状況に何百万人という人が放置されている。今や就労は遠い河岸に追いやられている。

◆圧倒的多くのB型の月額14,190円をどう打破するか!

 日本の障がい者総数は身体障害者366万3千人、知的障害者54万7千人、精神障害者320万1千人、人口の6%で740万人をこす。そのうち稼働労働力は400万人、一般就労に100万人が働くが、300万人がいわゆる作業所にかよう。日本の障がい者は成人すると、大半が就労継続支援B型の福祉的就労の8千か所にでかける。2014年度のそれは日本ヘルプ協の調査(図表)によると月額平均14,190円、時給178円である。賃金とは呼ばれず工賃と呼ばれる。これでは生きていけない。就労継続支援A型は一般就労が困難な障害者の働く機会の提供とその継続に応えるべく生まれた制度で最賃以上の待遇をめざしている。日本の多くの社会的事業所はこのA型に挑戦、事業経営で苦労しているが、そこに今、「悪しきA型」が当事者の短時間通所で、一日分の給付金取得狙いと「特開金」目当てが急速にはびこる状況。韓国のチャン教授の「利潤メカニズムによって市場化される退行性」をあらわにしている。

 図表 平成24年度平均工賃(賃金)
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 施設種別        月額  時間額  施設数 23年度平均工賃(賃金)
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 就労継続B型事業所  14,190円  176円  7,938  13,585円
 就労継続A型事業所  68,691円  724円  1,554  71,513円
 就労継続型事業所平均 21,175円  258円  9,492  19,315円
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◆「農福提携セミナー」で浮かび上がった「社会的共通資本」

 共同連は、「生活困窮者自立支援法」のなかに、排除にあう人が一般就労ではなく福祉的就労でもない「第三の働き方」としての「社会的事業所」認定が織りこめるように努力して東京で2回にわたって全国大会を開いたが、安倍内閣のもとではその見通しがないとして、新潟・熊本そして今年は北海道・夕張での開催で、厳しい地方で奮闘する人々と手をつないでいる。
 そうした中、認定NP0法人やまぼうしの伊藤勲理事長は「共同連 農福提携セミナー」を昨年の埼玉での開催に続いて、2月、自らの東京多摩地域で開催した。近年の農福連携事業は、ある種のブームの如き現象となっているが、日本の農業の直面している危機的状況と社会福祉事業の存立基盤の危うさも反映している。業界の「延命策」ではなく、本来の農業と福祉の在り方を問い直す機会と捉え、都市部と農村部の生産者・消費者の新たな結合を担う仕事を「社会的事業所」の構築に向けた事業課題として法政大学内のエッグドームのやまぼうしの障害者就労を実現したレストランで開催した。

 やまぼうしは、1985年に療護施設に入居していた重度脳性マヒ者3人が自らの地域での働く場づくりを求めて、車椅子での自然食品の行商、屋台販売を開始したことを原点として出発。当時、介護を必要とする重度重複障害者の働く機会は全くなく、隔離型収容施設で「社会的に生きる権利」を奪われていた。その後、障害当事者と支援者による「仕事おこし」が各地で取り組まれ、一定の事業基盤を獲得してきていることに注目して奮闘。障害当事者(重度脳性マヒ・筋ジス・盲聾・知的障害)と障害を持たない人(元入所施設職員・高齢者・子育て中の女性・リタイアした高齢者・障害者家族)が皆創設時の主力メンバ-だ。
 現在、従業員数は93名。やまぼうしの会員は約300人。事業所数は16で小規模・地域分散型の事業展開。主要事業科目の内訳は、通所事業系48.5%、グループホーム事業系34.7%、総合生活支援事業系16.8%で、事業費収入総額は3億円余。就労支援事業部の生産・販売事業収益は7,644万円。今後も公的助成金だけに依存せず、「障害者を含む誰もが人間としての尊厳を認めあい、支えあう」関係づくりを推進、地域社会に絶大な信頼を築く。それらの多くは、それぞれの地域の特性を生かした事業であると同時に、その「地域性」を超えることは困難な状況にあることも明白だった。

 一昨年の8月、新潟で開催された第30回共同連全国大会の記念シンポで「農・障害者・若者~農村と都市」をテーマに「都市部と農村部との事業所交流から事業連携への促進プロジェクト立ち上げる」ことを提案。昨年の2月に埼玉で「第1回共同連 農福セミナー」を開催したのを機に、個別的な交流の域を超えられなかった各地の取組みが一堂に会する機会をもち、今回の第2回セミナーでは、構想を軸とした「問題提起」と各地の取り組みが絡み合った議論をした。
 私はその司会進行を担当し、昨年のJA共済総合研究所の濱田賢司さんの「農福連携だけでなく農福商工連携の6次産業化で地域のみんながハッピーになる」提起に共感、しかし実態として苦しい個々の事業が事業として成立していくためには、事業の中間支援機関コンソーシァムの実務的機能が問われているとして、伊藤さんのスローワールド事業と物流の構想、生活クラブ生協東京の村上彰一専務理事の地域での「社会的企業」支援の構想、そして再度濱田さんには「農福連携事業」の現状と工賃(賃金)改革の課題をお願いした。また個別報告では、山梨・八ヶ岳名水会のはら楽団施設長の仁田坂洋子さんから「地元の農家との提携による多機能型事業所」で施設外就労という働き方をしている就労継続Bと就労移行のサービスの実践報告を受けた。14名が一般就労へはまだ難しいが、継続Bでは少し物足りない、就労へ向けた社会での訓練が必要な人たちが農作業を行っている実習先、養鶏作業、トマト農家、それ以外にも製造業の工場などの地方報告を受けた。なかでも埼玉・見沼田んぼ福祉農園協議会おらんどの猪瀬浩平さんから宇沢弘文の壮大な「社会的共通資本」をヒントとする農の自然と親しむ障害者との関係が論じられて、大都市部における農の役割が浮き彫りになった。

 「福祉」に位置付けられた就労の問題点は「切らない、分けない」「共に働く」という障がい者運動のヨコの理念に対し、「スタッフ」と「当事者」に分け、支援という名のもとに関係性をタテに分断してしまう流れが強まっていることだ。そして日本の障害者の支援組織の多くはそのことを当然とし、それはまた行政指導が貫徹するものとなって、市民組織が民主性と当事者の参加を欠く権威的なものとなっていくことだ。そこに次世代の社会性重視ではなく専門性重視が加わって、地域社会でのヨコの社会連帯ではなく市民組織のタテ型二分法の囲い込みが進んでいる。日本の社会福祉法人やNPOがそのことの自覚を欠くとき、限りなく行政依存型組織になる。

 最後に今なぜ精神障がい者が5大疾患に数えられるほど急増しているかだ。『クレイジー・ライク・アメリカ―心の病はいかに輸出されたか』を書いたイーサン・ウォッターズはアメリカ精神医学会(APA)の重責を担った人だが、最新のAPAの精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-V)は、従来の病気・障がいを定義する範囲が広くなり、診断が増加する危惧に警鐘を鳴らしている。中でも日本の「うつ病」をメガ・マーケット化しつつあると指摘、その背景にアメリカの製薬会社のマーケティング戦略を見ていることだ。この警鐘は堤未果の『㈱貧困大国アメリカ』(岩波新書)に描かれたフード戦略と切売りされる公共サービスと合わせてみておくことが大事だろう。ここにアメリカの貧困戦略のグローバリズムが見えてくる。

◆ビルメン産業に「総合評価入札」で障害者雇用の風穴

 長い反差別の解放運動と仕事おこしの闘いからおこった大阪・西成にはまちおこしのエル・チャレンジがある。2月28日、冨田一幸代表理事はその果たした役割を5点強調した。

 1つは正式名称「大阪知的障害者雇用促進サービス事業組合」の存在だ。1999年設立。社会福祉法人と一般財団法人、株式会社からなる当時では日本初の事業協同組合。コンセプトは「働く意欲は、働くことから」だ。手法を「施設のない授産」(職業訓練)と名づけ、公共施設やユニバーサル・スタジオ・ジャパン等から地方自治法にもとづく「政策的随意契約」で清掃業務等を受託、60を超す現場で2.5億円の事業を展開する。概ね1年間の就労支援を経て、15年間で約650人の障害者雇用を実現した。4月施行の「生活困窮者自立支援法」で取り上げられている、いわゆる「中間的就労」の先駆であると胸をはった。就労を実現させたその力はすごい。

 2つは「総合評価入札」の提唱と実現である。当時、公共施設等の競争入札は、価格破壊のダンピング競争状態で、障がい者雇用どころではなかったという。そこで「障害者雇用は罰するより競う」をコンセプトに、「価格より雇用を競う」入札改革を提唱したことだ。「ビルメン労働者生活調査」や業界・福祉関係者・議員や行政関係者による「自治体ビル管理契約研究会」を何度も開催。その結果、2004年から大阪府及び15以上の自治体で「総合評価入札」が導入される画期的状況を実現した。この入札は「価格50点/技術14点/環境6点/福祉30点」の総合点を競い、当該職場は5人に1人の障害者が雇用される。応札企業の障害者雇用率は10%までに上昇し(ユニクロの8%より高い)、予定価格に対する落札率も80%台に落ち着き、「複数年契約」や「落札企業による継続雇用」も定着してきたという。今では大阪のビルメン産業の雇用率は現に府や市で18%を超える実現を達成するという劇的な変化を生んだ。イギリスのソーシャルファームは20~25%を実現しているからそこまでは可能だと胸を張る。

 3つは「就労支援費込労務単価」の提唱である。「総合評価入札」で障害者や就職困難者の雇用は前進(10年弱で160人以上)したが、「官製ワーキングプア」「最低賃金」とヤユされる低賃金構造はある。そこで、国交省「建築保全業務労務単価積算基準」への対案として「就労支援費込労務単価」を提唱し、全国で「政策入札研究フォーラム」を実施。大阪府は「福祉推進費(労務単価の3~5%)」を加算しているという。大阪ビルメン協会とエル・チャレンジは共催で「養成講座」を実施、会員企業は「就労支援スタッフ」を配置。エル・チャレンジは、いま「障害者労働者共済」を検討しているという。

 4つは釜ヶ崎支援機構などとの「都市公園管理共同体」の設立である。公共施設の業務委託方式に市場化、民営化の「指定管理者制度」が導入されていく時代。大阪府立公園の管理者選考にあたって、非営利団体と営利企業による「都市公園管理共同体(JV)」で応札、公共の外郭団体や一般企業とは違う「第三の道」を提唱し、いま18公園のうち4つを受託。「公園で寝てる人から公園で働く人へ」「人が優しくなれる公園」等が「都市公園管理共同体」のコンセプトという。「新しい公共」の地道な実現がここにある。

 5つめはビルメン産業=「雇用企業」論だ。全国のビルメン産業は約2.5兆円200万人雇用で、その内、公共物件は約25%を占める。労働集約的産業で、(1)雇用創出力が高く、(2)ミスマッチを解消し易く、(3)不況対応性もあり、(4)環境等社会性もある。価格競争で消耗させず、「雇用産業」としての価値化することが有益であると訴えている。また、労働力に流動性がある産業で、企業ごとより「ビルメン産業をまるごと社会的企業」をめざそうと発想し、障害者雇用がその先駆を担うと考えてきたという。また、当初から労働組合(全港湾等)とも共闘し、自治労の「公契約条例」制定運動には、「賃金」より「就労」を押し出し、また「賃金と効用」の二兎を追うという立場でも参画しているという。

 この間、豊中方式と呼ばれる市の就労支援は、2003年以来の10余年、解放運動の地域就労支援事業の経験と仕組みをベースに地元企業との橋渡しをする無料職業紹介所が労働市場へのアプローチを行なって、「生活困窮者自立支援法」のモデル事業の先進例として紹介されてきた。昨年、深田恭子がNHK『サイレントプア』でコミュニティ・ソーシャルワーカー(CSW)を演じたが、その脚本のモデルはこの豊中の、根底に「働く」ということは自己実現や社会参加と結びついた「権利の回復」という認識があり、「働く意欲は、働くことから」をベースとする寄り添い方のマッチング、定着支援、中間的就労として強調されている。しかし今の生活困窮者支援ではこの「働く」ということでの「権利の回復」という認識がモデル事業を受託する事業体には薄く、挨拶や訓練での寄り添い方や支援の専門的技術論にかたよってはいないだろうか。
 この点に関し、奥田知志ホームレス全国センター代表は、昨年秋の共同連全国大会で「生活困窮や就労困難を個人の問題とする傾向があり、北九州のNPO抱撲館建設に地元の反対があり、当事者を包摂する社会をどう創りだしていく社会連帯がキー」と強く訴えている。

◆「貧困がみえなくなった」時代に何が求められているか

 「貧困がみえなくなった」と強調するのは山谷の企業組合あうんの中村光男さんである。大阪で開かれた「グローバル社会的経済」の集会参加のため、彼と一緒した。私は、あうんを訪ねるたびに、フードバンクの大きな倉庫の二階がたまり場になっていて、各地のシングルマザーに食料品を配送する人たちの忙しそうな姿を見ている。が、かねがねフードバンクが排除にあう人たちの運動団体の共有物にするためにどんな仕組みと構想があるかと思っていた。というのも最近、山梨のフードバンクの生活困窮者向けの配送がテレビで放映され話題になった。連合総研の研究会で「フードバンク」が取り上げられたが、そこに山谷の事例がでてこなかったので不思議に思ったからだ。中村さんは、「派遣村直後に山谷のフードバンクは湯浅誠と私が相談して創った。そのあとリチャードがやってきたが、別に分かれてつくることになった」とのことだ。

 フードバンクの格差社会に果たす役割は大きい。日本の場合、不二家の期限切れ牛乳使用事件に対し、フード連合が食べられる食品まで破棄するのはもったいないとして無償配布をした。日本で捨てられる食品は年間500~800万トン、食品ロスの中で、フードバンクに活用できる量は300~400万トンもある。そこには日本の食品流通業界の商習慣、製造日から賞味期限までの3分割ルールがあり、災害時に備える面も含み過剰生産・過剰廃棄が構造的に織り込まれている。「フードバンクと連携したフード連合」の産別の強みを生かした社会活動は大きい。静岡のフードバンクふじのくにの事例では、食品製造・缶詰業界と提携し事技用推進委員会には多くの障害者・生活困窮者・子ども・ダルク支援と連携しているのも多い。しかし、今日の「格差社会」の底に沈んだ人たちにフードが届くためには、縦割りの範囲で出会う団体にとどまるのではなく、その当事者の全国ネットワークとの協定がもっと力強く推進されなければならないだろう。

◆当事者組織の全国ネットとそれを包む社会連帯組織の創出を

 韓国での社会的排除にあう当事者の日韓社会的企業セミナーには、在野の社会的経済連帯会議が、いつも連帯支援する仕組みができている。共同連が「社会的事業所推進法」で呼びかけたホームレス支援全国連合、日本ダルク、マック、シングルマザー、刑余者などとの共通テーブルを設け、当事者組織そのものがフード配布や運営をがまかすことがなければ、行政と提供企業の監視とチェック、切実な当事者よりは多くの福祉団体への配布とその記録だけて自己満足に留まるだろう。
 この点で、連合総研の研究会で、私は、連合が労福協のパーソナルサポートの実例をほめたり、協同組合が協同組合の生活困窮者支援を評価しているだけでは、今求められている労働運動や協同組合の課題に応えたことにはならないとして、もっと切実な現場にいる異質な団体との円卓テーブルに打って出てほしいと要請している。

◆ポストIYCはどでかい夢構想を異質なものとの協働で!

 最後にみておきたいのは、協同組合間連帯での新しい展開への期待である。2012年の国際協同組合年を受けて全国実行委員会(IYC)が生まれた。韓国の「協同組合基本法」がこの記念年を意識して小規模協同組合の形成を既存の大規模協同組合の法制を棚上げして成立させ、わずか1年で3000を超す協同組合の誕生をみたほか、社会的協同組合や労働者協同組合、さらには新たな連合会を生みだしつづけていることに刺激を受け、また安倍内閣の農協攻撃に対し、協同組合の価値の再認識が全国各地にそれまでほとんど縦割りで推移してきた日本の協同組合間の連帯の波としておこった。
 そしてそのまま解散するにはもったいないとして、IYC記念全国協議会が残され、その中心を担うのがJA全中に新たに設けられた協同組合連携課課長の若い前田健喜氏である。このポストIYCは「協同組合基本法を含めて協同組合に関する共通政策」を検討テーマ深堀として取り上げているのが「格差問題」への取り組みでそのことに期待したい。事務局団体は生活クラブ生協連、日本生協連、全中。事務局メンバーの名字がいずれも田がつくそうで「田んぼ三兄弟」を自称しているという。ぜひ大胆な夢を描いて挑んでもらいたい。

 そのためにはそれぞれの協同組合連合会がその枠の中にとどまったまま窓から手を振るような連帯ポーズの取組みでは川崎のシングルマザーとその子どもの「新しい貧困」の連鎖によってやさしい少年を襲った悲劇の暴発は止められないだろう。そこに必要なのは、「農福連携事業」の「見沼田んぼ」のところで飛び出した、今の競争主義と利益主義むき出しの社会と経済とは異なるプラン、どでかい「社会的共通資本」の価値に立つ夢ある描きであろう。それは協同組合連合会内ではなく外に拓いて排除にあう異質な団体との円卓テーブルを必要としよう。よそ者をしりぞけつつ〈常民〉の上から目線での支援などというタテ意識ではなく、社会連帯でのぬくもりの行為として一人ひとりの孤独と絶望の〈無告の民〉に人間連帯の日常性が地域社会に育つことにある。煉獄を生きる〈無告の民〉のきびしい日常に私たちは教えられまなぶ〈常民〉の自己変革なしに、日本の市民社会の明日はない。

 (筆者は共生型経済推進フォーラム理事・共同連運営委員)

※ 当事者や団体の発言や記録から引用させていただいています。


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