【沖縄の地鳴り】

名護市長選、「オール沖縄」に打撃

平良 知二


 注目の名護市長選挙(2月4日投開票)は「辺野古新基地」反対の現職・稲嶺進氏が政府・自公の推す新人・渡具知武豊氏に敗れた。1万6,931票と2万0,389票。3,458票差で、大差であった。基地建設反対を訴え続け、現職を応援した翁長雄志知事ら「オール沖縄」には大きな打撃であり、秋の県知事選の行方に暗雲が漂うことになった。

 現職の敗因はいろいろ言われている。市民の基地問題疲れ・基地問題離れ、公明党も加わっての政府・自民党の猛攻勢、若者を含めた両陣営の運動量の違い…等々。当選した渡具知氏は当初、東京の自民党本部から「勝てる候補者ではない。別の候補者はいないのか」と疑問視されたという。受けて立つ現職側に「組みしやすし」との慢心がなかったとは言えまい。

 渡具知氏は「辺野古」について賛否を言わず、係争中の国と県の裁判の推移を見守るという姿勢に終始した。公明党の支持を得るため、同党との選挙公約で海兵隊の「県外、国外への移転」を求めたため、自民本来の「辺野古移設やむなし」とは言えず、問題を脇に置いた。20年も「辺野古」で揺れ続き、いわば基地疲れ気味の市民に、この戦術は“癒し”となったのだろう、街づくりや子育て、閉塞感打破などで支持を集めた。

 名護市の公明党票は4,000票ほど、といわれる。前回、稲嶺氏は自民党候補に4,100票の差をつけた(公明は自由投票)。今回は逆に3,400票の差をつけられている。公明を引き寄せた渡具知陣営の戦術の勝利といえる。

 昨年10月の衆院選で、名護の自民は「比例票は公明党に」と運動したとささやかれた。結果は表れ、同市の各党の得票は1位が自民5,829票、2位に公明5,789票が続いた。自公の差はたったの40票(ちなみに3位は立憲民主党の4,254票、4位希望の党3,310票、以下社民、共産、維新)。

 一昨年7月の参院選(比例)では自民7,155票、公明3,907票であったから、衆参選挙の違いはあるものの、公明の伸びは大きい。自民は自らの票を大幅に落とし、公明に“貸し”をつくっていたのである。もちろん、市長選をにらんでのことだろう(自民党本部、政府の入れ知恵かもしれない)。

 <ちなみに、やがて石垣市長選挙がある。先の衆院選で県内10市のうち、公明が自民と僅差に持ち込んだのは名護市だが、石垣市のみは公明票が自民票を上回っている>

 安倍政権・自民党本部の攻勢も尋常ではなかった。一市町村の選挙に二階幹事長ら党幹部が次々訪れ、人気の高い小泉進次郎氏は2度も名護入りした。菅官房長官は名護だけでなく、全県の主な企業幹部等に直接電話をしたと伝えられる。「辺野古」がかかっており、なりふり構わずであった、と思われる。地元企業・団体などには大きなプレッシャーとなり、渡具知陣営にはずみがついただろう。“政府と沖縄県の代理戦争”といわれたゆえんである。

 以上のような要因が勝敗、票差につながったのは確かであろうが、現職側(オール沖縄)の勢いに陰りがあったのも事実だ。市長選を1カ月余りに控えた昨年12月15日、名護市で「オール沖縄」によるオスプレイ墜落事故1年の屋内集会が開かれた。冬の夜の集まりということもあったのだろうが、参加者数は予想したほどではなく、かつてのような熱気が感じられなかった。オスプレイがメーンだが、もちろん市長選目前、それに向けての決起集会である。盛り上がりが「イマイチだなあ」と気になっていたのを思い出す。

 大きな要因は「辺野古」の埋め立て工事にある。現地での「オール沖縄」による座り込み、資材搬入阻止の闘いは続いているものの、工事は進んでいる。選挙中「工事はもう止められないではないか」と諦める市民の声が少なからずあったといわれる。工事の進捗が影を落としたのである。辺野古の近く「二見以北」地区では、工事などの被害を前提に新たな組織をつくる動きもある、という。

 「あらゆる手段を駆使して『辺野古』を止める」という翁長知事の、有効な手を打つことができないいまの姿に、不満を感じた市民も多かったと思われる。この状態には県民の多くも“何とかできないのか”といらだちを募らせつつある。地元・名護が「辺野古」受け入れ市長となるため(渡具知氏がすぐ「辺野古」を承認することにはならないだろうが)、工事の進展は早まるだろう。翁長知事と「オール沖縄」の正念場が来ている。

 市長選挙を受けて、また秋の県知事選に向けて、知事による「辺野古埋め立て承認の撤回」を求める動き、あるいは県民投票への動きなどが急速に立ち上がってくると予想される。海兵隊そのものを問う動きも合わせ、今年は沖縄にとって大きな節目の年になる。

 (元沖縄タイムス編集局長)

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