【コラム】
酔生夢死

台湾でもポピュリズム指導者

岡田 充

 「軍艦マーチ」を大音響で流しながら、目抜き通りを走る街宣車。街宣車の上で絶叫するタスキ掛けの中年男性。こう書けば誰もが右翼の街頭活動を連想すると思うが、そうではない。今から30年以上も前(1986年)、台湾初の野党、民主進歩党(民進党)が誕生した直後の立法院(国会)選挙の風景である。
 その選挙の投開票日の夕、台北中心部にある小学校の開票作業を見に行った。投票箱が開かれ、職員が候補者名を次々に読み上げていく。別の職員が、候補者名を発声しながら黒板の候補者名の下にチョークで「正」の字を一画ずつ書き足す。まるで小学校の学級委員選挙。特派員仲間と思わず顔を見合わせ、微笑んだのを覚えている。軍艦マーチにタスキ、「正」の字―。いずれも日本時代の名残りだった。

 それから32年後。ことし11月末行われた台湾統一地方選挙で、与党の民主進歩党が惨敗した。では国民党が大勝したのかと言えば「NO」。選挙で話題をさらったのが、民進党の牙城だった南部の高雄市長選挙である。当選した韓国瑜氏はSNSを駆使し「ディズニーランドを誘致する」とうそぶき、ハゲ頭をシャンプーしながらインタビューに答える始末。
 トランプ米大統領を思わせるハチャメチャなスタイルで「韓流ブーム」を起こしたのだった。国民党には違いないが、政党枠にとらわれないポピュリスト的資質が有権者を引き付けたのだった。二大政党政治が続いてきた台湾だが、民進、国民両党の支持率は下落し続け、合わせて50%程度。最大勢力はいまや5割を占める「無党派」である。「首都」の台北市長選では、無党派の柯文哲市長が再選された。

 韓支持を年齢別にみると20-29歳のミレニアル世代が64%と最も高い。60歳代の支持率は49%で、高年齢になるにつれ下降傾向にある。新有権者になるミレニアル世代は毎年、有権者の7%程度を占めるから無視できない。ポピュリストの韓氏を当選させた原動力は、確実に増え続ける無党派層のなかのミレニアル世代と言えるだろう。
 ではなぜ彼らは二大政党に背を向け始めたのか。台湾の選挙で常に付きまとうのが「中国の影」。両党とも「現状維持」を主張し、「台湾独立」傾向の民進党も「現状維持」の枠に閉じ込められ跳びだせない。ミレニアル世代の約半数が、中国大陸での就職を希望するとの調査結果もある。理由は「(大陸のほうが)賃金など待遇が台湾より高く将来性がある」。

 中国は、民進党惨敗を歓迎しているが、2020年総統選で無党派総統が誕生するとなると安心ばかりしてはいられない。組織工作になれた共産党は、政党相手ならいくらでも揺さぶりをかけられる。しかしポピュリストで「非定型」の指導者となれば、これまでの方程式は通用しない。ポスト民主化以降の台湾政治の展開は、予想以上に速い。

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高雄市長に当選した“ポピュリスト”韓国瑜氏~ Wikipedia から

 (共同通信客員論説委員)

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