【沖縄の地鳴り】

国防軍への地固めか?
―危うい日米同盟と「島しょ防衛」

大山 哲


 「沖縄の基地負担の軽減」は長年、県民が訴え続けてきた、切実な願いである。ところがどうして、安倍政権は、これを逆手に鬼の首でも取ったように、口を開けば「負担の軽減」を唱える。しかも、新基地に反対する圧倒的な県民世論や翁長県政を攻略する手段として、判で押したように繰り返すのだ。このねじれ現象の所以は、いったい何なのか。

 掛け値なしの負担軽減なら、県民が反対し、抵抗するはずはない。実際に眼前で展開されているのは、負担の軽減どころか、県外移設を求める県民の要求を排除し「辺野古が唯一の選択肢」と一歩も譲らず、新基地建設に突き進んでいるではないか。

 東村高江(ヤンバル)の森林地帯に進行中のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)工事は、年内完成を目指し、あらゆる手段を使って強硬に進められ、まるで問答無用の異常事態である。
 全国から集められた機動隊約500人による抗議団の強制排除。法的根拠もあいまいな自衛隊CH47輸送ヘリによる工事用重機の異例の空輸。機動隊に援護された大型ダンプ2,000余台による土砂搬入(11月中旬現在)。地元記者(2社)を一時拘束した取材妨害。抗議団リーダーの逮捕。2万本余の貴重な立木の伐採、など。
 どれひとつとっても環境を破壊し、自治と人権を無視し、これが民主主義国家のやることか、と疑われる暴挙に映るのだ。

 菅官房長官は「北部訓練場の半分の4000ヘクタールが返還されるのだから、大きな負担軽減」と豪語する。たしかに面積は減る。しかし、返還地はもはや使用不可能な遊休地である。残り半分の未返還軍用地に建設中の6ヵ所のヘリパッドは垂直離着陸双発輸送機MV・22Bオスプレイが日常的に飛来し、水陸両用部隊とも連携する新たな軍事機能の強化・拡大である。菅長官から、その事実への言及はない。負担の軽減とは、似ても似つかない姿ではないか。

 辺野古に限らず、高江や伊江島訓練場も含め、安倍政権はなぜこんなにも強硬な姿勢を示すのか。安保関連法の成立が追い風となって、日米同盟の強化と自衛隊の増強で「戦争のできる国」へ、危険な道のりに一歩踏み出したとしか思えない。沖縄はその一環として「軍事要塞」の役割を担わされるのか。ことさら地理的優位性と抑止力を強調するところに、意図が隠されているように感じる。

 このところ、自衛隊と米海兵隊との共同訓練が目立つ。当初は「研修」「視察」の名目だったが、ついに安保関連法をバックに、本格的な統合演習が11月7日から3日間、沖縄の浮原島と周辺海域で展開された。
 「重要影響事態」の概念を設定し、遭難した米軍機の搭乗員を自衛隊が捜索、救助する流れを確認するもの。陸海空各自衛隊の2万5,000人、米軍約1万1,000人が参加する大演習である。
 辺野古も高江も、一見、日本から米軍への基地提供と受け止められるが、安倍政権の強硬姿勢の真の狙いは、新基地の日米共同使用への布石に違いない。12年防衛省内部資料「日米の動的防衛協力について」で、北部訓練場の日米共同使用計画が盛り込まれていることでも明らかだ。

 沖縄米軍基地の共同使用と並行して進む2015年4月改定の「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)に基づく自衛隊の「島しょ防衛」が、新たな波紋を呼んでいる。
 尖閣諸島への中国の進攻、北朝鮮のミサイル攻撃を想定した防衛体制の強化。奄美大島から沖縄本島、宮古島、石垣島、最西端の与那国島に至る琉球弧(南西諸島)に、約3,000人と迎撃ミサイルや監視レーダーなどを配備する計画。すでに那覇空港(共同)と与那国島は完了している。

 沖縄にとって、米軍だけでなく、自衛隊の増強は、政府の言う「負担の軽減」とは裏腹に、むしろ新たな基地の重圧と受け止められている。
 たしかに、尖閣諸島をめぐる中国の進攻への危機感から、抑止力を強調する自衛隊の配備に、与那国、石垣、宮古など保守系の首長や議会は、政府に同調し、自衛隊の受け入れを表明している。
 しかし、地元住民の間から ①抑止力の名のもとに、限りない軍拡競争に歯止めがかからない ②有事には島がミサイルの標的になる ③騒音や水源地汚染 ④地域の分断 ――など、根強い反対の声が上がっている。

 「島しょ防衛」の本格的展開で、米軍に加え、自衛隊が沖縄に新たな火種を点火することになった。この動向は、南スーダンへの自衛隊の「駆け付け警護」とも連動し、安倍政権がもくろむ憲法改正と自衛隊の「国防軍」への地固めの一翼を担うことになりはしないか。

 再び沖縄が「軍事要塞」になれば、かつて沖縄戦で県民が戦禍に巻き込まれ、10数万人の犠牲を生んだ、その元凶ともいえる「第32軍」の再来を想起させる。悪夢がまた、蘇る。

 (元沖縄タイムス編集局長)


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