【コラム】風と土のカルテ(103)

医師の残業規制を前に始動した佐久での「病院間連携」

色平 哲郎

 医師の働き方改革の柱といえる、時間外労働の上限規制の導入が目前に迫ってきた。が、一般市民に、この問題の切実さはいまだ伝わっていない気がする。医師の勤務時間が 法律で制限され、もし救急医療が立ち行かなくなったら、、、と考えるだけで空恐ろしい。医療現場は混乱に陥るのではないか。

 医師の働き方改革で、何がどう変わるのか。
 基本的な情報を押さえ、私が暮らす信州・佐久地方での8病院による連携強化の動きをご紹介しよう。

 2024年4月、国は罰則付きで、医師の時間外労働(残業)の上限規制を適用する。各医療機関は、通常の時間外労働を月45時間以下・年360時間以下としつつ、「臨時的な必要がある場合」は原則として時間外労働を年960時間以下に抑える必要がある(都道府県の指定を受けた一部病院は年1860時間以下に緩和される)。
 年960時間とは、「過労死ライン」の月80時間に相当する。

 この労働時間については、常勤・非常勤の区別なく、一人ひとりの医師の「総勤務時間」が上限を超えない、そんなトータルな時間管理を必須としている。働き方改革が、医師の生命・健康を守って、地域医療を維持し、医療の質向上も図るという目的を掲げている以上、当然といえば当然だ。

 が、現実には多くの医師が大学医局からの派遣や副業(アルバイト診療)などで、常勤以外の医療機関で非常勤の職に就いている。非常勤医師たちが引き揚げたら、たちまち診療体制が崩れる医療機関は少なくないだろう。また、医師自身が非常勤での収入で生活を支えている場合もある。

 そこで、注目されているのが、医療機関の「宿日直許可」の取得だ。労働基準監督署から宿日直許可を得ている医療機関であれば、原則的に夜間・休日の勤務が労働時間に算入されないので、大学からの派遣医師の引き揚げや、非常勤医師の自主的な退職といった最悪の事態は避けられる可能性がある。

 ただし、宿日直許可を受けるための基本的な条件として、「通常ほとんど業務が発生せず、夜間に十分な睡眠を取り得る」こと、さらに「1人当たりの宿日直を、宿直は週1回、日直は月1回以内に収める」ことなどが示されており、医師不足などから条件を満たすのに苦労しているケースも少なくないようだ。
 この辺の状況については、日経メディカル Onlineの記事でも取り上げられている
「宿日直許可の取得に動く病院、現場はどう変わる?」 https://tinyurl.com/32tyey22

佐久地域の8病院が夜間・休日診療で連携強化へ

 こうした状況下で、佐久地域の公立・公的8病院(佐久総合病院3拠点、佐久市立国保浅間総合病院、川西赤十字病院、浅間南麓こもろ医療センター、軽井沢町国保軽井沢病院、佐久穂町立千曲病院)が対応の検討を始めた。
 具体的に言うと、各病院が宿日直許可を労働基準監督署から取得し、時間外労働時間を減らした上で、夜間・休日の診療に関しては「連携して、互いをカバーし合う」というものだ。

 11月22日には、佐久地域11市町村長と医療機関との非公開の会合が開かれ、各病院の「輪番制」による夜間・休日の救急患者の受け入れなど、検討状況が報告された。現在も、輪番制で夜間・休日の救急患者受け入れが行われているのだが、形骸化しており、当番以外の病院も救急の対応をしている。結果的に、安易に病院にかかる「コンビニ受診」が多くなってしまうようだと、医師の労働時間の長期化を招く。
 面積が東京23区の2倍半ある広大な地域ということもあって、おおむね3グループに分けて輪番制を敷くことも検討されているという
(信濃毎日新聞2022年11月23日朝刊)。

 このような仕組みを作れば、グループ内の個々の病院が輪番救急を担う日は宿日直ではなく通常勤務とし、輪番日以外の日について宿日直許可を得るなど、メリハリのついた労働時間の運用が可能になる。
 輪番日以外の日は時間外の受診患者が少なくなるので、宿日直許可を得やすくなる。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)が重要視される現在、働き方改革は待ったなし。
 特に、女性医師が増える中、各医師のライフステージに応じた柔軟な働き方ができるようにすることは人財確保の面からも重要だ。とはいえ、地域の医療体制が崩れては元も子もない。医師の時間外労働が制限されることで、住民にはどのような影響が表れ、一般の診療所や中小病院と地域中核病院はどのように協力し合うのか。また、輪番担当病院への受診アクセスに関し住民から不安の声が上がった場合、行政などがどう対応するのか──。
 まだまだ今後、詰めていかねばならない点が多いことだろう。

※この記事は著者の許諾を得て『日経メディカル』2022年11月30日号から転載したものですが、文責は『オルタ広場』編集部にあります。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/202211/577470.html

(2022.12.20)
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