北朝鮮の行動様式とわが国の対応     河上 民雄

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 北朝鮮との交渉にさいしては、その行動様式について、大筋のできる限り適確
な把握が必要であると、私は考えている。政治の現場を離れて十数年になり、北
朝鮮との交渉の体験もすでに四半世紀前のことであるが、北朝鮮の指導者の多く
は、第二次世界大戦中の抗日パルチザン的発想が今も尾てい骨のように残ってい
て、(一)極めて誇り高い、(二)絶えず意表をつく戦術をとる、(三)サバイバ
ル(生き残り)が最大目標であり、「玉砕」策はとらないと、私は見ている。こ
のうち(二)については一転して思いがけない柔軟策に出ることも含まれている。
 
もうひとつは、わが国でもピョンヤンを訪れ、観察したり、先方の指導者また
はそれに至近距離にあるスタッフと交渉した経験を持つ政治家、ジャーナリスト、
官僚、学者、市井の人の数は必ずしも少なくない。しかし、その体験が蓄積され、
分析され、今の対北朝鮮外交に十分に活かされているかといえば、必ずしもそう
とはいえないように思われる。もちろんわが国の北朝鮮ウォッチャーの定点観測
に基づく分析に教えられるところは大であるが、なんといっても、情報鎖国の国
を相手にしているところからくる限界は避けがたい。

 私の経験であるが、一時、金正日氏は交通事故の後遺症でものが言えなくなり、
人前には出られないのだとの噂がまことしやかに流布されていたとき、中国で金
正日氏の訪中に際し、中朝国境の駅まで出迎え、帰途もそこまで見送ったという
中国の党の幹部のひとりから、金正日氏はとてもオシャベリで、車中、お相手を
したその幹部は、途中で言葉をさしはさむことが困難であった、と告白していた。
その人物も相当に早口で、私が言葉をさしはさむにも困難を覚えたので、このエ
ピソードに苦笑を禁じえなかった。
 
韓国の金大中大統領の訪朝で、金正日氏の交通事故後遺症説は完全に否定され
た。要するに相手はなかなかタフな交渉者であることを忘れてはならない。
 それでも、私のささやかな体験上、外交は勝海舟が『氷川清話』で説くように、
その秘訣は“誠心正意”で、あらかじめ構えてかからないことが大切だと思う。
                       (筆者は東海大学名誉教授)
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