【沖縄の地鳴り】

勢いづく沖縄保守

平良 知二

 11月の県知事選に向け、沖縄の保守陣営が強気に転じている。逆に翁長雄志知事を推す「オール沖縄会議」側は、知事の体調問題もあって一時期の勢いに陰りが出てきた。今のままでは「辺野古新基地」黙認・承認の新知事誕生も十分あり得る状況だ。辺野古現地ではキャンプ・シュワブ前での座り込み闘争が続いているものの、基地建設の海上護岸工事も進んでおり、新基地反対派には容易ならぬ事態になりつつある。
 こういう状況の中、新基地建設の賛否を問う県民投票への動きがやっと表面化した。「『辺野古』県民投票の会」が発足し、投票実施を求める条例制定に向けた署名活動を開始すると発表した。署名活動が今月中旬に始まる。

 条例制定には有権者の50分の1(2万4,000筆)が必要だが、同会では「10分の1(11万5,000筆)は集めたい」と意欲を見せている。署名活動を通じて、座り込み現場以外ではやや沈滞気味に見える新基地反対運動の勢いを取り戻すことができるか、正念場となる。
 県民投票については知事を支える「オール沖縄会議」や有識者の間で一種の対立が続いている。「いまさら県民投票でもあるまい。知事による早めの埋め立て撤回こそ有効だ」という意見と、県民投票で県民の新基地反対の意思をはっきりさせ、知事の埋め立て撤回とその後の裁判を有利にすべき、という意見である。
 沖縄タイムス、琉球新報の地元二紙では、それぞれ意見を表明し、論争が続いている。法律論の専門的なところまで踏み込んだ論争は、読む人を大いに刺激するものであったが、“内部対立”のイメージも与えてしまったようにも思う。論争の過熱に反して運動全体に停滞感が出ているからだ。

 その象徴ともいえるのが、経済界の二つのグループの「オール沖縄会議」からの離脱である。二つのグループは明確に新基地反対を表明し、各種大会を盛り上げてきて、「オール沖縄」の一方の核であった。今後も翁長知事支持は変わらないとしているが、新基地反対運動にとって大きな痛手である。県民投票を主張したものの受け入れられなかったというのが主な理由で、県民投票をめぐる確執は深い。「オール沖縄」を中核で担う県議会の知事与党(社民、共産、社大党など)は県民投票に消極的といわれている。

 このような状況が政治情勢に変動をもたらしたのか、今年に入っての市長選挙は1月の南城市長選は別として、3連続で保守の大勝利が続いている。

 2月の名護市長選は「辺野古反対」を直接問う重要な選挙であったが、現職の「オール沖縄」側の候補が敗れた。負けたこと自体、「オール沖縄」に大きな衝撃であったのだが、差も開いた。パーセントで55対45。強いと言われた現職がこの差になった。完敗であった。何か、流れが変わったことを印象づけた。
 続く3月の石垣市長選では保守が現職含め2人立候補、革新側は1人で、通常なら市政奪還の大きなチャンスであったが、これも大差負けだった。当選した現職との比率(3人全体での比率ではない)が59対41。自衛隊配備の問題が主要な論点であったものの、配備反対に支持が集まらなかった。
 そして4月の沖縄市長選。これは65対35と保守現職がダブルスコアに近い差をつけた。これまでの各地の市長選でこのような大差は記憶にない。当選した現職を「投票率は低いのに(過去最低)得票は伸びた」とうならせる票差であった。「オール沖縄」側の候補選びが遅れるなどいくつか敗因はあるが、那覇に次ぐ第2の都市でのこの勢いが今の保守を物語っている。

 保守側はすでに5、6人が知事候補に挙がっている。2年ほど前までは誰が出馬しても勝てないと言われていたのに、今は「誰が出ても勝てる」と豪語する声もあるのだという。大きな変化だ。

 県民投票に向けた署名活動は大きなうねりをつくり出せるのか。「オール沖縄」が主導するわけではないとしても、閉塞状態を打ち破る“起死回生”の運動をつくり出せるのか、注目を集める取り組みとなる。保守側はこの運動に否定的で、場合によっては明確に反対を打ち出す可能性がある。「オール沖縄」内部も一枚岩とは言いにくい。冷めた目の県民も少なくはない。しかし「新基地反対」と秋の知事選に直結していくだけに、一日一日が関心を集める署名活動となるはずだ。

 (元沖縄タイムス編集局長)

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