【「労働映画」のリアル】

第14回 労働映画のスターたち(14)

清水 浩之


 《大地に根を張って生きる アメリカン・ガールの半世紀》

 アッと驚く結果となったアメリカ大統領選を記念し(?)、今回はハリウッド・スターが初登場。労働映画の名作『ノーマ・レイ』(1979)と『プレイス・イン・ザ・ハート』(1984)で、アカデミー主演女優賞に2度輝いたサリー・フィールドをご紹介したい。垂れ目のタヌキ顔が特徴で、洋画ファンには陽気なヤンキー娘(『トランザム7000』1977)や、気丈なお母さん役(『マグノリアの花たち』1989)などで親しまれてきた彼女。近年はスティーヴン・スピルバーグ監督の大作『リンカーン』(2012)で、派手好きで激しい気性の大統領夫人・メアリーを演じて注目された。いずれの役柄も、アメリカの大地に「根を張って」生きる、たくましい女性たち。各地の町や村で平凡な人生を歩みながら、全身で喜怒哀楽を表現することができる「魅力的な庶民」だ。

 1946年、カリフォルニア州生まれ。トランプ、ヒラリーと同じ「ベビーブーマー」世代。父は軍人、母は女優。娘も10代後半から演技の道に進み、1965年のテレビドラマ『ギジェットは15才』で、主人公のサーファー娘に抜擢される。続く『いたずら天使』(1967~70)では「空を飛べる修道女」に扮し、行く先々で珍騒動を巻き起こす姿が人気を集める。20代はキュートなコメディエンヌとして活躍した。

 1976年、テレビドラマ『Sybil (失われた私)』で解離性同一性障害の女性を演じ、「カワイコちゃん」から演技派女優へと脱皮。バート・レイノルズとの陽気な掛け合いが楽しいカーアクション映画『トランザム7000』の後、一転して紡績工場で働く女性が労働者意識に目覚めていく姿を描いた社会派映画『ノーマ・レイ』に主演する。

 ノーマは子持ちでバツイチ。彼女が暮らす南部の町は典型的な企業城下町で、家族みんなが同じ職場で働いてきた。しかし、全米繊維組合から派遣されてきた男(ロン・リーブマン)と出会い、劣悪な労働環境の中で終わっていく人生に疑問を抱く。工場内での組合結成に向けて奔走し、初めて警察に逮捕された夜。家で待っていた子供たちを集めて「あなたたちに、同じ人生を歩んでほしくはないの」と語る場面は、自らの意志を持った労働者が誕生する瞬間として忘れがたい印象を残す。

 2度目のオスカー受賞作『プレイス・イン・ザ・ハート』の舞台は、1930年代のテキサス。保安官の夫を事故で失い、子どもを抱えてどう生きていくか途方に暮れた主婦・エドナが、恐慌で職を失った黒人(ダニー・グローヴァー)らの協力を得ながら、綿花の栽培に乗り出す。借金の取り立て、自然災害、人種差別主義者の暗躍など様々な試練に直面していくエドナ。綿花の摘み取りは手にトゲが刺さって痛いそうで、泣きながら摘み取りを続ける彼女の表情が、多くの観客の共感を呼んだ。

 サリー・フィールド自身の半生が投影されたような傑作が『パンチライン』(1988)だ。地方のライブハウスで漫談を演じていた主婦・ライラが、天才的な若手芸人(トム・ハンクス)に才能を見出され、「一緒に都会に出よう」と誘われる。堅物の夫がいる家庭生活との板挟みに悩むライラ。やがて彼女は、妻であること、母であることとともに、「芸」もまた生きがいなのだ!と家族に宣言し、この街で生きていくことを選ぶ。笑って泣けるこの作品は、「空を飛べる」才能で人々に幸せを運んだ『いたずら天使』の、20年後の続編にも思えてくる。

 3作品のいずれも、ヒロインが自立すると、彼女の生き方を「変えた」男性は去っていくという展開が興味深い。置かれた場所に根を張って、枝を伸ばしていく女性たちのたくましさが、海外で支持されるアメリカ映画独特の魅力なのかも知れない。

 その後もコメディからサスペンスまで、様々なジャンルの映画に出演。夫に代わってバリバリ働く妻を演じた『ミセス・ダウト』(1993)。障害を抱えた息子を励まし続ける母に扮した『フォレスト・ガンプ』(1994)。テレビでも『ER 緊急救命室』(2000~06)や『ブラザーズ&シスターズ』(2006~11)のエキセントリックな母親役が人気を集めた。

 去年は、60代独身女性のラブコメディ(!)『ドリスの恋愛妄想適齢期』(2015)で久々に主演。母親を看取った後の「2度目の独身生活」で、突然の恋に舞い上がる主人公のドリスを、リアリティを保ちつつキュートに演じられるのは、彼女しかいないだろう。

 今年11月に70歳になったサリー・フィールド。今後も新作が待ち遠しい存在だ。願わくば、フィクションだけでもいいから「女性大統領」役を実現させてほしいなあ…。

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信

◎働く文化ネット第34回労働映画鑑賞会~労働映画の源流を求めて~
・開催日:2016年12月8日(木)18:00~ (参加費無料・申込不要)
・会場:連合会館 201会議室 (地下鉄 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
・上映作品:
 (1) 明治の日本 1897-99年/白黒 【労働映画百選 No.1】
 1897年から99年にかけて日本を訪れたフランス・リュミエール社の技師コンスタン・ジレル、ガブリエル・ヴェールの二人が撮影した日本の風物の中から、当時の仕事と暮しの一端をうかがえる作品をいくつか取り上げます。また、参考として、19世紀末フランスの仕事と暮らしの記録映像も併映します。(制作/リュミエール社 撮影/コンスタン・ジレル、ガブリエル・ヴェールほか)
 (2) 隅田川 1931年/20分/白黒 【労働映画百選 No.35】
 昭和初期の隅田川で、船での運搬に働く父と、その息子の小学生の、一組の親子を中心に、川を行く各種の船、そこでの仕事の様々、水辺の生活や風物のいろいろな断片を織りこんで、当時の隅田川を巡る仕事と暮らしを伝える記録映像。(企画/文部省 脚本/雨夜全 撮影/藪下
 泰次、斎藤宗武)

◎【上映情報】労働映画列島!11~12月
※《労働映画列島》で検索! http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/00161103

◇新作ロードショー

『メン・イン・キャット』 《11月25日(金)から 東京 日比谷 TOHOシネマズシャンテほかで公開》
 猫に変身してしまった大企業の社長の衝撃的な猫ライフを、ユーモアたっぷりに描き出す。オスカー俳優ケヴィン・スペイシーが“猫”になりきる。(2016年 アメリカ 監督:バリー・ソネンフェルド)
 http://mic.asmik-ace.co.jp

『海賊とよばれた男』 《12月10日(土)から 東京 有楽町 TOHOシネマズ日劇ほかで公開》
 百田尚樹の小説を映画化。明治から昭和にかけて、数々の困難を乗り越えながら石油事業に尽力した男の生きざまを描く。(2016年 日本 監督:山崎貴) http://kaizoku-movie.jp/

『ニーゼと光のアトリエ』 《12月17日(土)から 東京 渋谷 ユーロスペースほかで公開》
 1940年代のブラジルで、心理療法の常識を覆し、愛と芸術で患者たちに光を取り戻させた実在の医師、ニーゼ・ダ・シルヴェイラの物語。(2015年 ブラジル 監督:ホベルト・ベリネール)
 http://maru-movie.com/nise.html

◇名画座・特集上映

【東京 池袋 新文芸坐】 11/20~29 「台湾ニューシネマの魅力」…風櫃の少年/恋人たちの食卓/珈琲時光/他
【東京 シネマート新宿】 11/26~12/16 「ポーランド映画祭2016」…大理石の男/ユナイテッド・ステイツ・オブ・ラブ/他
【東京 シネマヴェーラ渋谷】 11/26~12/16 「妄執・異形の人々 文芸篇」…蟹工船/怒りの孤島/聖職の碑/他
【東京 京橋 フィルムセンター】 11/29~12/25 「知られざる東ドイツ映画」…臣下/石の痕跡/建築家たち/他
【東京 御茶ノ水 アテネ・フランセ文化センター】 12/5~10 「オタール・イオセリアーニ特集」…四月/素敵な歌と舟はゆく/他
【川崎市市民ミュージアム】 12/3~25 「ケン・ローチ初期傑作集」…キャシー・カム・ホーム/まなざしと微笑み/他
【会津若松市文化センター】 12/2~4 「会津シネマウィーク2016」…駅前旅館/スポットライト 世紀のスクープ/他
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 11/19~12/16 「監督・川頭義郎」…涙/かあちゃんしぐのいやだ/あねいもうと/他
【宝塚シネ・ピピア】 11/19~25 「第17回 宝塚映画祭」…王将(1948)/放浪記(1962)/花のれん/父子草/他
【広島市映像文化ライブラリー】 12/7~15 「バリアフリー映画週間」…息子/あん/渚のふたり/最強のふたり/他
【福岡市総合図書館・シネラ】 12/1~25 「イラン映画特集」…友だちのうちはどこ?/街の陰/未熟なざくろ/他
【北九州 門司市民会館】 12/10・11 「第8回 門司シネマフェスタ」…青い山脈/また逢う日まで/真昼の暗黒/他

◎日本の労働映画百選

 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催 (働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション (働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf


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