【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(56)

入管法から「難民」「避難民」「在留資格」を考える②

坪野 和子

 前回の続きである。数か月前に大学の通学路で見かけたウクライナ人留学生と思われる学生たちをまた見かけた。今度はハンバーガーショップの窓の向こうでソフトドリンクを飲みながら談笑している穏やかな様子だった。この土地に慣れたのだろうか。なんだか安心したような気分になった。だが、本当はこの子たちがどこの誰かは知らないのだが。
 さて、2023年も半分が終わってしまった。読者のみなさまはどのような半年だったのでしょうか?私自身は何かと人権について考えることが多かった。その中で本題と微妙に関係するエピソードを3つほど。

◆私のインド人日本語学習者(生徒さん)が職務質問を2度も経験したそうだ。
 真夜中1時に公園で友達とおしゃべりしていたら職務質問をされたそうだ。しかも「財布を見せて」と言われたらしい。また結婚したばかりの奥さんの来日直前にSuicaを駅で購入しようとしていてもたもたしていたら職務質問をされたとか。本人ケロっと「言われたなら見せなくっちゃ」と。どちらのケースも在留カード提示が必須だ。現地コロナ・ロックダウンで警察に何度も止められただろうから何とも思っていなかったのだろう。見た目外国人、職務質問される確率が高そうだ。以前、私も同伴の外国国籍の友人と一緒に職務質問をされた。友人は在留カードを持っていた。私にも求められ、「私は生まれて一度も持ったことがありません。日本人ですから」と言ったことがある。これが外国出身の帰化した友達と一緒だったら両方とも在留カードも運転免許証もない場合どうなったのか?

◆有楽町辺りを歩いていて「オールジェンダー(またはジェンダーレス)・トイレ」を呼びかけている人たちに遭遇した。
 私自身は昔男女なし公衆トイレに不快を感じた経験がある。キタナイ落書き、それも卑猥な性的表現だった。女子トイレ廃止でなく、1個だけ共有トイレがあればいいのではないか?LGBTの人たちの人権はわからなくもないが、ストレート女性の人権は?理屈を越えて肉体が疑問に感じた。

◆同国人が犯人と思われる窃盗被害に遭った友人に伴われて警察へ被害届を出しに行った。
 行ったのは昨年の終わりごろだ。「届け」ではなく「相談」として扱われた。その後、3度ほど警察とコンタクトを取った。防犯カメラが作動していなかったので犯人特定ができないと言われた。それを言われたのは「相談」の3週間後だった。時間がかかった理由はゆうちょ銀行との書類のやりとりに時間がかかったからだと言われた。個人情報とか人権の問題もあって日本の警察はドラマや外国の警察のように簡単に出動するわけではないようだ。電子化しても紙が優位な国だから。

0.【分析】「難民」のイメージと定義[国際誤解]
◆「難民」イメージと現実
 どうも日本人一般がイメージする「難民」はその実態と異なっているような気がする。おそらくそれは国連UNHCR協会*による広告やその動画から植え付けられたものではないかと感じることが多い。またこれに類似する各種協会・団体(日本ユニセフ協会など)の発信にも見られる。これら団体・協会は被災者・避難民をクローズアップさせ、飢え・水不足・病気・乳飲み子を抱える未亡人・衣類や毛布の不足などとともにテントを張ったキャンプ地と思われる風景でのロケだ。被災者・避難民は難民ではない。故郷に戻れる人たちである。
 こういう広告は実際の難民たちとの現実とはかけ離れている。ロヒンギャの場合だと、こんな生易しいものではない。あまりに悲惨でネットから次々と消されていった。また私が当事者たちから聞いた、1959年から数年かけてインドへ亡命したチベット人たちの話し。インドへ亡命した際には、寒いチベットからあまりに暑いアッサムを抜ける森の中で人間(チベット人)がゴムのように溶けて転がって異臭の中を歩いて行ったなど、チベット語がわかる外国人である私に語ってくれた。
 その逆に難民や難民申請者は貧しいとは限らない。島国日本にどうやって来たかといえば、飛行機や船であるはずだ。歩いて来たり泳いで来たりすることなどない。日本に来る前に自腹でなくても借金ができる・支援を受けることができる環境を持っているということだ。例えば政権により地位を追われた役人や軍人、民間経営者とその家族の知識人などが挙げられよう。或いはアフガニスタンの日本大使館職員やスポーツアスリート(主にミャンマー)。またはすでに親戚が何等かの形で入国し定住者・永住者・帰化している等。様々なケースを羅列すると長くなるのでここで留める。
画像の説明
 よくある「※イメージです」の字幕のようなハンコを押したイラスト。
 個人的には好きな絵だが。

※国連UNHCR協会 UNHCR=国連難民高等弁務官事務所ではなく、民間の支援団体である。寄付を集める業務を行っている。国連〇〇協会は、ほぼ全て同様。本家UNHCR日本のウェブサイトでは難民・国内避難民・無国籍者と分けている。また庇護希望者という聞きなれない表現もある。

◆外務省ホームページから[引用]
(1) 条約難民とは
 難民条約(1951年の難民の地位に関する条約)に定義された難民の要件に該当すると判断された人を「条約難民」と呼んでいます。難民条約第1条A(2)で定義された難民の要件は、以下のとおりです。
(a)人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有すること
(b)国籍国の外にいる者であること
(c)その国籍国の保護を受けることができない、又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者であることhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/nanmin/main3.html

◆日本語翻訳は読み手に誤解・勘違いをつくる
 翻訳の追及は次回以降に送る。誤訳はまったくないのである読む必要があり、読み手が正しく理解せぬうちに読むと本来の意味から外れた解釈が生じてくる。特に「人種」「特定の社会的集団の構成員」「国籍国」といった言葉は掘り下げて読む必要があると感じている。これは追々述べていく予定だ。文末にUNHCR=国連難民高等弁務官事務所による英文を引用掲載する。

1.【過去→現在】紆余曲折の日本入国事情
 このところパキスタンの経済状態は悪化し続けている。1990年代前後に日本上陸し、10年くらい日本で仕事をし、それぞれの事情で帰国した50代後半のちょっと年下のおじさま達の友人が数人いる。熱血純情おじさまだ。考え方も日本人っぽい。ガソリン・砂糖・小麦などの物価高騰と通貨の下落。経済が家計・経営に直撃したり、災害が起きたりすると決まって電話をかけてくる。彼らは短期滞在日本再入国、最低でも観光だけでも、できることなら知人訪問してかつて勤めた会社に戻ってまた日本で仕事を得たいと話す。私は彼らに「給料が上がらないのに物価が高い。健康保険料も税金も高い。そんなにいいことはない」と言った。しかし彼らは「それでもパキスタンよりずっといい」というので「昔の日本とは違う」と言ったが納得してもらえない。50代後半の彼らはどこか日本化しているからかもしれない。
 彼らが日本で仕事をしていた頃は、バブル直前からバブル期だ。彼らの話しから昭和の職人の親方は饒舌な日本語では決してなく、口が悪くても外国人でも伝わる何かがあったのだと思う。また塗装でもいわゆる土方仕事でも口数少なくとも親身になって仕事を教え、惜しみなく技術をつけさせ、兄弟のようにかわいがってくれていたそうだ。景気も上向きだった。そして入国だが、その当時は、相互ノービザでだった。パキスタンだけでなく、イランなどいくつかの国もそうだったし、観光から仕事を見つけ、そのまま就労ビザに切り替えができた。在留期間が過ぎても「次は期限のうち来てくださいね」と言われるだけでハンコがもらえたそうだ。今のように即刻不法滞在とはならなかったようだ。そういう緩い時代のうちに家庭の事情で本国に帰ったため、いいところしか覚えていないように感じた。彼らが帰ったあとの時期くらいから観光で入国も在留資格取得も厳しくなった。彼らがそれを知らない訳ではない。厳しくなった理由も不法残留や外国人禁止就労が横行したことも知っている。こういった国々の国籍を持つ人たちに対してはコロナ禍前まで観光でさえも入国審査が厳しかった。コロナ上陸規制がなくなった現在、インバウンドを増やしたいのか、観光ビザだけは極端に緩くなっている。留学生も比較的書類審査が通りやすくなっている。

2.【入管法の改正(?)審議2021】
 なぜか1人だけクローズアップされた柳瀬氏出入国管理及び難民認定法の改正(?)が衆議院で可決されたのは2023年6月9日のことである。その後の報道でクローズアップされたのは、2021年4月21日の衆議院法務委員会での柳瀬房子氏の参考人の証言だ。
画像の説明
 衆議院 2021年04月21日 法務委員会 #03 柳瀬房子(参考人 特定非営利活動法人難民を助ける会会長) https://www.youtube.com/watch?v=vE87wYGLecI
 ↓動画視聴でなく文字でご覧になりたいかたはこちらへ
 [議事録]第204回国会 法務委員会 第16号(令和3年4月21日(水曜日)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000420420210421016.htm
 そして前回も挙げたが参考リンク
画像の説明
 TBS:「申請者に難民がほとんどいない」発言の参与員、全体の25.9%(1231件)を担当…難民審査のあり方に疑問の声「彼らの命、重みをどのように思ってるのhttps://www.youtube.com/watch?v=IU8CeefOPqY

 ここで私見を述べたい。柳瀬氏が話されていることは現実であるが、TBSの指摘も理解できる。だが、25.9%の書類を1人に渡したのはなぜか?推測だが却下する候補や白黒がわかりやすい書類ばかりを柳瀬氏にお任せしたのではないのだろうか?他の審査された方のお話しも伺いたい。

 また柳瀬氏の話しの中で、
1).難民申請者がコピペのような主張をしているという話しはどのくらい通訳の日本語能力を信用しているのか?通訳の語彙には問題がないのだろうかという疑問が生じた。
2).よその国に逃げ込んだ、地名も都市名もわからない…わからないこともあると思う。ジャングルや砂漠を経由したらわかりようもない。歩くかトラックをヒッチするかしてみればわからないことくらい明白だ。
3).不倫で難民を主張するのは、ほとんどおかしいことではあるが、名誉殺人や身分差別も伴った場合、まったく日本とは違う残虐な一家滅亡もありうるのだ。そこまで調べているのか?
4).合理的な理由がないということでさえも、申請人が発達障害だったり、無学であったりすれば、理路整然と話せるとはいえないのだ。偽装難民が多いのは事実だが、そう判断された申請人の中に本当の難民がいる可能性が高いようにも思う。柳瀬氏には無関係だが、偽装難民にならざるを得ない事情を持つものには、別途の在留資格を創設すべきではないだろうか?ウィシュマさんも偽装難民ではあるが婚約者のDVでこの申請をせざるを得なかったのだから、

3.【偽装難民のつくりかた】
 ビザブローカーの甘い罠。もしも日本在留に興味がある外国人が個人で直接、ネット公式ページ(偽装)などで在留資格を作ると話しを持ってきたら、最終的に「難民申請」という言葉をたくみに使って誘導されるだけ誘導されてしまうこともあり得る。詐欺かどうかチェックして騙される・騙されないということになるだろう。ほとんどが怪しいと思って騙されないのであるが、騙されるという選択肢で「騙されてでも日本で暮らしたい」と考える人もいるようだ。

◆ある国の男性舞踊家が公演やレッスンのために日本に滞在していた。
 当然チヤホヤされるし、みんな親切だ。ファンも増え「もっと長くいてほしい」「他の地方でも公演やレッスンすればいいのに」とお世辞と本気の半々をいろいろな人から言ってもらえた。ところが、悪い人もいる。大抵は同じ国出身の旅行代理店もしくは芸能マネージメント会社だと名乗る。こういう芸術家を狙うビザブローカーが存在するのだ。費用は100万円くらいから。偽装結婚をそそのかす、または難民申請をそそのかす者もいる。そういうビザブローカーにこっそりと話しを持ちかけられた。しかし本人は冷静だった。これは短期滞在だからだし、日本以外でどのくらい自分が通用するかを知りたいと考えていたこともあってのことである。帰国後、そういう形ではなく、レッスンプロとして日本に来たいので日本語を教えて欲しいと連絡がきた。悪い人がいて大金取って最後は知らん顔して責任を取ってもらえないのは目に見えていたから耳を貸さないで帰国したんだと言った。コロナ禍で出国できないうちに気が変わったらしく、その後は連絡ひとつくれない。

◆特定技能制度が始まる前の話しである。
 日本語学校の学生を中退させたビザブローカーがいた。現地日本語学校の経営者だ。もともと現地の日本語学校のレベルが低い場合、授業についていけない。学生は悩んだ末、ビザブローカーに相談した。ビザブローカーは「難民申請すれば審査が終わるまではずっと日本にいられる。それまでに仕事を見つければいい」相談者の学生は、難民申請中の「特定活動」はビザステータスを変更できないことを知らない。ビザブローカーもそこは言わない。日本語学校を中退するということは「留学」の在留資格では日本にいられず、変更をしなければならない。異性との結婚だけが変更可能という噂が出たりもしたが、結婚でも簡単に変更が認められるとは限らないのだ。これは複数の国である。見聞だけの話しと実際に難民申請して帰国して数年経過したがもう一度日本語学校に入りたいとの相談を受けたこともある。

4.【難民・移民】モデルケースを利用してみる
 学校が襲撃されたからといって海外へ出かけ、難民申請・移民希望。これは隠しても国がわかるだろう。今回2度目のパキスタンのトピック。熱血純情おじさま達とは異なる。事実を利用してズルしてでも外国で暮らしたい若者たちがいる。
 そう、マララ・ユスフザイ(結婚後はマリク姓を持つ)の模倣である。これは日本だけというのではなく、欧州や英語圏で行っている。マララ(「ちゃん」とか「さん」付けで呼ばれ続けていることに私は・・・)については、パキスタン人の中には「BBCで有名になり(パキスタン版徹子の部屋のような番組出演)テロリストに銃撃されて英国で手厚い手術を受け、まんまと移民に成功した一家の操り人形。「英国ではノーベル賞の操り人形」という人もいる。また学校襲撃は女子だけを狙ったかのように思わせているのも気に入らない人が大勢いる。当時同時期に狙われた男の子がいて、その子はパキスタンで手術を受けたが身体機能の一部は不随である。マララはどちらかというと嫌われ者だが、そう言いながら、実際の襲撃をきっかけに、この国には居られないと国外へ出た若者がいる。本当に学校襲撃があって申請していた若者たちは、同じパターン同じ言い回しで(国によって通訳を介して)主張するのだが、誰が本物で誰が偽装かは場合によっては本人もわかっていなかったり、ブローカーにそそのかされたり、先住の経験者の話しをインプットしてそのまま話したりと、どの国も審査は難しいかもしれない。日本のように疑わしい者を書類でどう判断しているのかはわからないが。テロリストの襲撃や原因不明の爆発事故など日常茶飯事の国境地帯に住んでいるのだから、本当でもズルでも難民になりたいと思う気持ちが強くなってのことかもしれない。ここのところは、誰も本当のことを話してはくれない。(続く)

【参考】国連ホームページ英文
Convention relating to the Status of Refugees Article 1 - Definition of the term "refugee"
(2) As a result of events occurring before 1 January 1951 and owing to well-founded fear of being persecuted for reasons of race, religion, nationality, membership of a particular social group or political opinion, is outside the country of his nationality and is unable or, owing to such fear, is unwilling to avail himself of the protection of that country; or who, not having a nationality and being outside the country of his former habitual residence as a result of such events, is unable or, owing to such fear, is unwilling to return to it.
In the case of a person who has more than one nationality, the term "the country of his nationality" shall mean each of the countries of which he is a national, and a person shall not be deemed to be lacking the protection of the country of his nationality if, without any valid reason based on well-founded fear, he has not availed himself of the protection of one of the countries of which he is a national.
https://www.ohchr.org/en/instruments-echanisms/instruments/convention-relating-status-refugees

(2023.7.20)
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