■俳句; □ 富田 昌宏
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躓づきて老いと向き合ふ今朝の秋
秋出水農夫の背の震へをり
秋の蝉落ちては五体投地めく
穂芒に風なぎ重さありにけり
かりんの木がむしやらに実をつけにけり
天高し僧も蕎麦食ふ深大寺
虫しぐれ手ぶらの客を囲みけり
賞罰のなき履歴書や文化の日
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□ 太田 澪々子(博夫)
─────────────────────────────〔妻を偲ぶ句〕
さくらさくまでのいのちやさくらさく
病む妻の声のみ若し蝉しぐれ
手を握るのみの看取りの霜夜かな
秋霖や術なき妻の再入院
もの云えず眼で「さようなら」冬ざるる
凍て星にいのち召されて妻昇天
骨になりし妻抱き帰る冷えし家
木守柿妻逝きひとり暮らしかな
妻小さくおさまる壷や梅白し
骨納むわれもおぼろの浄土かな
落椿散華の大地へ接吻す
もう来ないひとを待ちつつ蓬摘む
ひとり寝の寒の門燈あかあかと
春の夜や遺影の妻よ眼を閉ざせ
妻の忌くる地に曼荼羅の桜しべ
ででむしやおとこやもめは米を研ぐ
老ひとり暮らしになれて梅は実に
手繰りても遠のく妻の凍宵花
寄り添える妻の影消え流れ星
わが米寿祝う妻なき無月かな