【オルタ広場の視点】

人類を脅かした疾病の歴史 戦争の死者数をはるかに上回る

仲井 富

天然痘で南北アメリカ8,000万人 ペストでヨーロッパ2,500万人死亡

 人類が最初に遭遇した疾病は天然痘だが、スペイン人が持ち込んだ天然痘によって南米先住民の大量死を招いた。山本紀夫著『コロンブスの不平等交換』によれば、天然痘の流行によって、中部メキシコの先住民人口は、1519年には2,500万人だったが、1568年には75万人程度、すなはち征服される前の人口の3%にまで減少した。1500年当時の地球の人口は約4億人、このうち8,000万人から1億人が南北アメリカにいたとされる。が、その世紀の半ばには1,000万人しか残っていなかった。

 今日、コロナ騒ぎで世界中が慌てふためいているが、コロンブスが持ち込んだ天然痘や、アメリカ大陸の死者の比ではない。
 同書によれば、コロンブスの航海土産である梅毒がヨーロッパに広がったのが1490年代であった。これはコロンブスの第1回の航海の際、持ち帰ったとされる。1493年以降、ドイツ、フランス、スイスに出現し、ヨーロッパ全域に広がり、中国、日本へと伝播したのが1912年のことである。

 著者の山本氏は当初は半世紀前の1968年、アンデスの植物調査に参加した。しかし、植物からアンデスの先住民文明に関心が移行した。そしてアンデスの歴史を知るべく現地に、ときには住み込んで調査研究に没頭した行動派の学者だ。
 私はいまやコロナ禍で図書館すべて閉鎖の中で、偶然明治大学図書館でこの本を発見した。その明大図書館もいまや閉鎖状態だが、この本にめぐり合わなければ書けなかったというわけで、そのめぐり合いにも感謝したい。

 以下の、世界を席巻した疾病の歴史を簡潔にまとめている大塚薬品健康情報局の<資料① 人類を脅かす感染症のパンでミック>を参照されたい。

 ペストではヨーロッパを中心に1日1万人の死者が出た。14世紀、黒死病といわれたペストの大流行では、ヨーロッパだけで、全人口の4分の1~3分の1にあたる2,500万人が死亡といわれる。
 19世紀以降の歴史では、1918年に新型インフルエンザのスペイン風邪で世界で4,000万人以上が死亡(当時の世界人口18億人)。1957年、アジアかぜの大流行世界で200万人以上の死亡と推定される。また新興感染症エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV)によって過去20年間で6,500万人が感染、2,500万人が死亡というのも驚きだ。

 後半の<資料② 図表「世界の主な戦争及び大規模紛争による犠牲者数 16世紀以降」>を参照されたい。

 第一次大戦で約2,600万人、第二次大戦で約5,355万人の犠牲者だが、世界の疾病の犠牲者数の比ではない。にも関わらず、世界を何十回も破滅させる核兵器と原発の存在を疑わないバカな政府とこれを支持する国民の存在だ。その一つの典型が日本の政府だ。以下はAERAの記事だ。

 ――安倍首相は、自衛隊に導入する兵器として、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35を105機、約1兆2千億円かけて追加で“大人買い”することを表明している。トランプ氏は来日最終日に、海上自衛隊横須賀基地で護衛艦「かが」に搭乗し「日本は同盟国の中でも最も多い数のF35を持つことになる」と歓迎した。トランプ氏にとっては、おもてなしの心などよりたまらない、金銭的勝利だろう。「安倍首相との会談は、すごくうまくいった」という訪日最終日のトランプ氏のツイートには、嬉々とした様子が表れている。(ジャーナリスト・津山恵子 AERA 2019年6月10日号)――

<参考資料>
 『コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史』山本紀夫/著 KADOKAWA、2017年/発行

◆ <資料① 人類を脅かす感染症のパンデミック(世界的大流行)>
  大塚薬品健康情報局

 人類は紀元前の昔から、さまざまな感染症と戦ってきました。
 原因も治療も十分に確立されていなかった時代には、感染症のパンデミックは歴史を変えるほどの影響を及ぼしてきました。感染症をもたらす病原体や対処方法がわかってきたのは、19世紀後半になってからで、その後、感染症による死亡者は激減しました。
 しかし、1970年頃より、以前には知られてなかった新たな感染症である「新興感染症」や、過去に流行した感染症で一時は発生数が減少したものの再び出現した感染症「再興感染症」が問題となっています。発展途上国ばかりでなく先進国においても、脅威となっております。

▼[天然痘~人類が根絶した唯一の感染症]
・紀元前:エジプトのミイラに天然痘の痕跡がみられる
・6世紀:日本で天然痘が流行、以後、周期的に流行する。
・15世紀:コロンブスの新大陸上陸により、アメリカ大陸で大流行
 → 50年で人口が8,000万人から1,000万人に減少
・1980年:WHOが天然痘の世界根絶宣言

▼[ペスト]
・540年頃:ヨーロッパの中心都市ビザンチウム(コンスタンチノーブル)に広がる。
 → 最大で1日1万人の死者が出たといわれる。
・14世紀:ヨーロッパで「黒死病」と呼ばれるペスト大流行
 → ヨーロッパだけで全人口の4分の1~3分の1にあたる2,500万人の死亡といわれる。

▼[新型インフルエンザ]
・1918年:スペインかぜが大流行
 → 世界で4,000万人以上が死亡(当時の世界人口18億人)したと推定される
・1957年:アジアかぜの大流行
 → 世界で200万人以上の死亡と推定 
・1968年:香港かぜの大流行
 → 世界で100万人以上の死亡と推定
・2009年:新型インフルエンザ(A/H1N1)の大流行
 → 世界の214カ国・地域で感染を確認、1万8,449人の死亡者(WHO、2010年8月1日時点)

▼[新興感染症]
・1981年:エイズ(後天性免疫不全症候群、HIV)
 → 過去20年間で6,500万人が感染、2,500万が人が死亡
・1996年:プリオン病
 → イギリスでクロイツフェルト・ヤコブ病と狂牛病との関連性が指摘される
・1997年:高病原性鳥インフルエンザ
 → 人での高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)発症者397人、死亡者249人(2009年1月20日現在)
・2002年:SARS(重症急性呼吸器症候群)
 → 9ヶ月で患者数8,093人、774人が死亡

▼[再興感染症]
結核:世界で20億人が感染、毎年400万人が死亡
・紀元前:エジプトのミイラに結核の痕跡がみられる
・1935~:結核が日本での死亡原因の首位
・1950年:抗生物質により発生減少
・現在:抗生物質に対して抵抗性を示す結核菌が現れる

マラリア:世界で年間3~5億人感染、100~200万人が死亡
・紀元前:「マラリア」についての記録
・6世紀:ローマ帝国を中心に大流行
・1950年代:殺虫剤DDTなどによる根絶計画実施
・現在:DDT抵抗性のハマダラカが出現

◆ <資料② 世界の主な戦争及び大規模紛争による犠牲者数 16世紀以降>
  レスター・R・ブラウン『地球白書』

 主な戦争を見ると、第1次世界大戦以前ではフランス革命/ナポレオン戦争における死者数が490万人と最も多かった。しかし、第1次世界大戦の犠牲者数規模は2,600万人とそれ以前の戦争とはレベルを異にしている。第1次世界大戦では、それ以前の戦争の開戦から終戦までの全犠牲者数に匹敵する数の犠牲者が、局地戦ごとに出たと言われる(『地球白書〈1999-2000〉』)。

 第1次世界大戦がこれほど破壊的であった理由のひとつは動員された軍隊の規模の大きさである。「19世紀末にはほとんどの国で全員徴兵が通例的に行われるようになっていた。...直接戦いに駆り出されるヨーロッパ人の数は、100年前の戦争では全人口の1%だったのに対し、第1次世界大戦では14%だった。」(同前)もちろん、戦闘機、戦車、化学兵器と言った武器の発達によるところも大きい。

 第2次世界大戦は、第1次世界大戦の規模をさらに拡大させ、犠牲者数も2倍以上となった。約5,400万人が戦闘、爆撃、強制収容所における大量殺人、暴動の制圧、疾病や飢餓で死亡したとみられる。
 第2次世界大戦後の戦争は、世界大戦級の規模ではないが、朝鮮動乱の300万人など数百万人規模の犠牲者数を伴う大規模武力紛争が数多く起こっている。

 なお、バングラデシュ分離独立戦争の犠牲者が当図録の図表では100万人であるがバングラデシュ人の理解では300万人、あるいはそれ以上とされているように、犠牲者数については相互に異なる見方が存在している。
 この表の後、コンゴ民主共和国の内戦(1998~2003年)が起こり、犠牲者数540万人とされるので、朝鮮動乱を上回る戦後最大の規模となっている。

画像の説明 

 (世論構造研究会代表・オルタ編集委員)

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