◇北の便り(6)

人口の減少続く北海道~崩壊の危機せまる地域(ムラ)

     ~ 国勢調査の速報から ~     南   忠男
───────────────────────────────────
 道が8日発表した「2005年国勢調査結果の全道速報値」によれば、5年前の
調査に比較して人口が1,0%減少したことがあきらかになった。前回(5年前)
に引き続く減少であり、過去最大の減少率と言われる。
 
 深刻な人口減少はすでに予測されていたが、その予測を大幅に上廻る数値で、
いよいよ、北海道は「全国における人口減少の最前線地域」に位置付けられるこ
とになった。

 1,0%の減少は北海道全体の平均数値で、この中には、人口増の続く札幌市
(3,2%増)を含んでおり、札幌圏以外にも多少の例外はあるものの、その一部
例外地域を除けば、札幌市以外の全ての地域が人口減となっていると言える。

 地域の中核都市と言われる、旭川・函館・小樽・岩見沢・稚内・留萌・北見・
網走・室蘭・帯広・釧路・根室等の各市は押しなべて減少し、とりわけ、小樽市
の5.7%,釧路市の5.3%,室蘭市の4.8%、函館市の3.6%は(いずれも減少率)は
大きい。
 
  中核・中堅都市がこのようなありさまであるから、郡部の実態はさらに深刻
である。

 減少率の大きいワースト5を挙げると、(1) 音威子府(オトイネップ)村
(19.8%)(1.070人) (2) 中川町(14.5%) (2.106人) (3) 初山別(ショサンベ
ツ)村(14.3%) (1.511人) (4) 利尻(リシリ)町(13.6%) (2.951人) (5) 赤井
川(アカイガワ)村(13.3%)(1.311)となっている(括弧内は減少率と実人口数)。

 この5町村の内4町村が、私の住む道北地域となである。(北海道は大きく分
けて、札幌圏の道央地区~室蘭・苫小牧を含む~、函館のある道南地区、釧路・
帯広・北見のある道東地区の4地区になる。)
 
 人口減少が北海道からおこり、しかも、北端の離島・利尻町からはじまり、こ
の道北地域を経て南下する現象は皮肉な話である。隣の国、中国の近代化の風は
南方から吹いたと言われるが、日本国衰退の風は北から吹くのだろうか。 

 小泉内閣の容赦のない「弱者・地方切捨て」の政治が続き(三位一体改革の第
2弾は地方交付税の削減にある)今後、逆風がますます強まることは間違いない。
頼りにしたい北海道庁も、財政危機で「財政再建団体への転落寸前」の状態にあ
って全く頼りにならない。

 ここに到っては各町村とも自力で頑張る以外に道はない。幸い、さきにあげら
れたワースト5に入る町村は、いずれもユニークな「マチづくり、ムラ起こし」
運動を展開して過疎とたたかってきたツワモノどもである。

 赤井川村は小樽市に隣接している村と説明すれば分かりやすいだろう。去る
10月はじめ、北海道の美瑛町に道内からは赤井川村、山形県・大蔵村、岐阜県・
白川村、長野県・大鹿村、徳島県・上勝町、熊本県・南小国町の7町村が集まり
「日本で最も美しい村連合」を立ち上げた。

 この村連合はフランスにある活動を模範とした、「失ったら二度と取り戻せな
い日本の農山村の景観、文化を守る」運動を連帯してすすめようと結成されたも
ので、今後の具体的な運動の展開が期待されるが、赤井川村は比較的札幌圏に近
いので、その有利な条件を生かして過疎に歯止めをかける運動を展開してもらい
たい。
 
 ワーストワンの音威子府村は、<人口全国一最少の村>である。旭川から稚内
へ行く,JR宗谷線のほぼ中間点に位置している。かつては、留萌を起点にして、
羽幌・初山別・天塩と日本海沿岸を廻り、この音威子府を経由して東側を迂回し
て稚内に至る大動脈(羽幌線と天北線)が健在な時代は、音威子府が中継基地とな
り、車掌区・機関区・保線区等々があり、鉄道の街として繁栄していた。
 
 国鉄の民営化と共にこの、羽幌・天北両線が廃止され音威子府村の過疎化が急
速にすすんできたが、ムラ起こしに取り組む第一弾として、「森と匠の村」と銘
打って、木彫り彫刻家の砂沢ビッキを招聘して、廃校となった小学校をアトリエ
として提供すると共に、当時まだ定時制だった高校を全日制に昇格させ、「おと
いねっぷ美術工芸高等学校」を開校した。
 
 砂沢ビッキについては、多少でも彫刻に興味をもつ方はご承知と思うが、ここ
で簡潔に紹介する。先住民族アイヌの子孫として1931年に生まれ、木彫彫刻や
トーテムポールの作成では国際的にも名高く、彼の作品の展示会等はヨーロッパ
をはじめ、日本国内各地で開かれていた。1989年1月横浜で準備された展示会
では、癌に侵された身体で、車椅子の上から陳列の指揮をとり、この展示会開催
中の1月25日、入院先の病院で死亡した。彼の作品は音威子府村には沢山ある
が、「地域交流センター」の入り口にあるトーテムポール「思考の鳥」は、名作
中の名作と言われている。
 
 美術工芸高等学校も全国的にもユニークで、1学年30人の生徒は道内・道外
から集まり、木工芸品作成の分野に有為な人材を送り込んでいる。名実共に「森
と匠の村」である。過疎の村の一部を紹介し、「人口減には負けられぬ北海道」
をめざして私も頑張りたい。(筆者は元旭川大学講師・旭川市在住)

                                              目次へ