【オルタ広場の視点】

京都市長選 現職の門川氏4回目の当選~自社公民社民連合の再現

仲井 富

◆はしがき

 与野党が相乗りで推す現職に新人2人が挑んだ京都市長選挙は、2月2日投票が行われ、現職の門川大作氏が4回目の当選を果たした。しかし野党共闘をリードすべき立憲民主党は、自公の推す現職の門川大作氏を推薦した。過去の社会党は関西を中心に、自社公民連合で大阪や名古屋で首長選挙を戦い、没落した。その後は自公の推す首長候補に相乗りして、自公民社民連合という構図で選挙を戦い、自公は生き延びたが民主社民は没落の一途を辿った。その悪名高い旧体制連合を京都でも再現した。経過と結果から見えてくるのは野党共闘の中核を担う立憲民主党のだらしなさである。以下にその経過と結果を分析してみたい。(京都新聞 2020・2・3)

◆京都市長選挙の結果

 ▽ 門川大作、無所属・現当選。21万0640票。自公民国民社民推薦
 ▽ 福山和人、無所属・新次点。16万1618票。共産れいわ新社会党推薦
 ▽ 村山祥栄、無所属・新。   9万4859票。地域政党京都元代表

 自民党や立憲民主党など5党が推薦した現職の門川氏が、共産党とれいわ新選組が推薦した福山氏らを抑え4回目の当選を果たした。門川氏は、京都市出身の69歳。京都市の教育長を務めたあと、平成20年の京都市長選挙で初当選した。選挙戦で門川氏は、3期12年の実績を強調するとともに、外国人旅行者の増加に伴う混雑の緩和や、子育て支援の拡充などに取り組むと訴えた。
 門川氏は「オール京都、ワンチームで京都のまちづくりを進めていくことに、多くの方の共感をいただけたと思っている。健康や福祉、質の高い教育に京都府と協調してしっかりと取り組みたい」と述べた。
 投票率は40.71%で、前回・4年前の市長選挙と比べ、5.03ポイント高くなり、20年ぶりに40%を超えた。(京都新聞 2020・2・3参照)

 無所属の村山氏は、京都の地域政党の京都党前代表で市議5期のベテラン。福山氏と村山氏の得票合計は約25万票余で、現職門川氏の得票約21万票をはるかに上回る。ちなみに京都市議会の現有勢力は、自民党21▽共産党18▽公明党10▽民主・市民フォーラム6▽日本維新の会5▽京都党4▽無所属2となっている。

 今回の京都市長選挙の構造は、かつての自社公社民連合対共産党の構造が再現した。最も旧い選挙共闘方式で、東京・大阪など各地の自治体選挙では、2000年代は自公の与党勢力に民主党、社民党などが相乗りする自公民社民連合が定着した。結果は自公政権の補強にはつながったが、旧民主・社民は大阪・東京ではほぼ消滅した。
 いまや大阪市では市議会議員ゼロが定着している。府議会議員も1名。東京でも23区と三多摩地区を含めて都議会議員は5名に過ぎない。大阪では立憲民主党の辻元幹事長代行、国民民主党書記長の平野博文など要職に付いているが、地元は過去三度の参院選で当選ゼロという惨状だ。その後追いを福山立憲民主党幹事長の地元京都で行っているのだ。

◆参院選比例区票と選挙結果 自公民社民連合と共産れいわ共闘の結果

 それぞれの候補者を支持した政党の、直近の国政選挙で獲得した比例区票で見てみると以下のようになる。

  自由民主党 146,428
  公明党    61,894   合計  208,322
  立憲民主党  74,102
  国民民主党  19,940
  社会民主党  4,534   合計   98,576

  れいわ新選組 29,656
  日本共産党  96,883   合計  126,539

  日本維新の会 58,382
  NHKから国民を守る党 10,762

◆無党派層は福山氏がトップの38.7% 立民支持者は五党相乗りにノー

 2月2日投開票された京都市長選で、京都新聞社は投票所30カ所で投票を済ませた計1,583人に出口調査を実施した。全体の3割近くを占めた無党派層の投票先では現職門川大作氏が26.4%にとどまり、38.7%が新人福山和人氏、30.6%が新人村山祥栄氏をそれぞれ支持したことで混戦となった。最も重視した政策には「高齢者福祉・医療」を選んだ人が最も多く、このうち4割が門川氏を支持した。

 また政党支持率では以下の「支持政党別 この政党に投票」に見るように、自民支持34.0%、支持政党なし28.0%、共産11.7%、立民7.5%と続く。門川氏を支持した5党の支持率合計は46.1%。福山氏を支持した共産・れいわの支持率合計は14.0%である。得票率を見ると、門川氏の得票率は45.0%、福山氏の得票率は34.6%、村山氏の得票率は20.3%となっている。

画像の説明
  京都新聞 「支持政党別 この政党に投票」

 政党支持者別の投票行動でもっとも特徴的なことは、立民支持者の投票である。支持者の45.4%が共産・れいわの福山氏に投票。続いて29.4%が京都党の村山氏に投票。門川氏に投票したのは4分の1の24.4%に過ぎなかった。また社民党の支持者の100%が福山氏に投票したというのも、保革5党の推薦がいかに時代遅れかを象徴している。また N国支持層の80%が共産・れいわの福山氏に投票しているのも興味深い。保革5党の相乗り選挙がナンセンスということが見抜かれた選挙結果だろう。(京都新聞 2020・2・3参照)

 また第3位の地域政党京都党の村山氏の得票も約95,000票と健闘したといえる。地道に取り組んできた地域政党が、維新が態度曖昧な政党になって候補者も出だせない中で、維新の票も取り込んで存在感を示したといえよう。

◆ひと騒動の「大切な京都に共産党の市長は『NO』」の広告

 京都市長選に立候補している現職の門川大作候補の選挙母体「未来の京都をつくる会」が、1月26日付の京都新聞に出した選挙広告で、名前を連ねた推薦人から「事前に内容を知らなかった」などとの不満が出た。同会は「広告は市選管から事前に公選法上の問題はないとされた」としつつ、「推薦人にご迷惑をお掛けしたとするなら本意ではない」としている。

 広告は上段に「大切な京都に共産党の市長は『NO』」とし、下に同会の会長を務める日本商工連盟京都地区代表世話人の立石義雄氏(京都商工会議所会頭)を含む9人が顔写真付きで掲載されている。

画像の説明
  京都新聞 2020・1・26

 このうち1月28日までの京都新聞社の取材に、内容を承知していたとしたのは立石氏のみ。西脇隆俊京都府知事や有馬頼底臨済宗相国寺派管長は「事前に知らなかった」とした。映画監督の中島貞夫さんは「推薦人は了承していたが、広告の掲載や文言は聞いていない。共産党だからNOだとか排除するような考え方は間違い。きちんと政策を訴えないと逆効果」と語った。
 日本画家の千住博さんは自身のホームページで「特定の党を排他するようなネガティブキャンペーンには反対。この様な活動に同意しているような意見広告に、許可なく無断で掲載されたことを大変遺憾に思います」と記す。放送作家の小山薫堂さんの事務所もネットで「事前の説明も了承もなかった」とし、堀場製作所は堀場厚会長の掲載について「広告を出すと聞いていたが、本人も秘書も内容は全く知らなかった」(経営管理部)という。

 これに対し、同会の吉井章事務長(自民党府連幹事長)は「あらゆる広告物に推薦人の名前と写真を使用することは事前に了承を得ている。個別の広告物についての掲載確認は以前からしていない。ただ、推薦人にご迷惑をおかけしたとするなら本意ではない」と説明した。広告は同会所属の全政党のメンバーが出席する会議で決めたという。
 立石氏は「会の事務局に任せていたが、本人の了承を事前に得ていないのであれば申し訳ない。会長としておわびをしないといけないと思う」と語った。

◆「共産党NO」広告に反論の広告掲載 京都新聞 1月30日

 共産・れいわ側も1月30日の京都新聞に「大切な京都だから全ての市民の声を聴く候補者に『イエス』」という広告を出して反論した。

画像の説明
  京都新聞 2020・1・30

 国政で野党連携が進む中、立民の福山哲郎幹事長(参院京都選挙区)は1月28日の定例会見で「お互い(事情を)分かった上で戦っている」と述べ、野党間の協力に大きな影響はないとの認識を示した。福山氏は広告の内容について「事前相談はなかった。選挙戦は過熱することは理解するが、違和感を覚えた」と戸惑いも示した。だが地方選挙では自公と共闘して平然としている感覚が支持者から拒否されたことは選挙結果で歴然としている。

 共産の穀田恵二国対委員長(衆院比例近畿)は「(立民、国民両党などが)あちらの陣営に行くこと自体に無理があった」とした上で、「国政では安倍首相に対して一緒にやっているわけだから、私たちはいつでも戻っておいでと思っている」と述べた。全体的な野党共闘の方向を慮った対応をしている。

 遅くとも来年の、オリンピック後の総選挙を控えて、その一里塚ともいうべき政令都市の選挙で与野党5党の旧体制支持派が共闘した結果は、今後の野党共闘に大きな陰を落とした。消費税は4年間は上げないとの公約を破棄した菅・野田元首相、消費税値上げの総括討論をした辻元立民幹事長代行など、財務省の走狗となった関係者多数を抱える立民・国民関係者は、大阪では市議ゼロ、府議1名という惨状、東京は都議5名という無残な状況を見つめよといいたい。

 さかのぼれば1974年の蜷川府政7期目に、社会党右派の大橋和孝議員が、自公民などの支援を得て、共産推薦の蜷川知事に挑んで僅差で敗れた。以降、自社公民路線が定着していくが、自公政権は安泰だが、社会党は自社さ連立でなくなり、その後の民主党政権も完全に没落して行った歴史にも学ぶべきだろう。

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧