【コラム】中国単信(123)
中国茶文化紀行(60)
元代に「代茶飲」(代用茶)が確立?
趙 慶春
今から20年ほど前、喫茶文化の研究で博士号を取得すると友人たちが祝いの会を開いてくれたのだが、当時5歳だった息子が「パパがお茶に詳しいなら、ちょっと訊いていい?」と言った。周りの人たちも興味があるようだった。「玄米茶って何茶?」それが息子の質問だった。
「玄米茶はお茶ではない」と答えると、息子は信じられないという顔つきをして、呆れた口調で「もういい」と話を打ち切ってしまった。
息子は誤解をしていたのだが、「玄米茶」は茶の文字がついているがお茶ではない。「代茶飲」である。日本ではこの概念、あまり認知されていないが、「代茶飲」とは、「~~茶」となっていても茶は含まれていない飲み物である。中国では「代茶飲」は日本より広く知られていて、製品化されたものも多く、幅広く飲まれている。中国茶店に行けば、現在は「ローズ茶」(「ローズの花」)、「菊花茶」(「菊の花」)、「陳皮茶」(乾燥したミカン類の皮)などが置かれている。これらは「代茶飲」の代表格である。飲み方はお湯につけて飲むのがもっともポピュラーである。また、「菊花茶」は実際にお茶が入っていて、「代茶飲」ではなく、「花茶」に属する茶もある。
写真1 丁香茶 写真2「胎菊王」という銘柄の菊の花の「代茶飲」
写真3「荷葉粒茶」蓮の葉の「代茶飲」 写真4 韓国の「代茶飲」
「代茶飲」の名称はそれぞれだが、基本的には生活に根づいた「茶」の認知度、「茶」の飲みやすさ、手軽さなどに便乗して「茶」の名を付けて浸透させようとしたのだと考えられる。「代茶飲」(あるいは「代用茶」)という表記は今もって曖昧さがあり、定義そのものが定まっていないため、より吟味するべきことはすでに述べた。では、「代茶飲」の出現はいつだったのだろうか。
下記の茶詩を見てみよう。
黄溍「灤陽邢君隱於藥市製芍藥芽代茗飲號曰瓊芽先朝嘗以進御云」
(その一)
君家藥籠有新儲, 君の藥籠に新しい備蓄がある、
苦口時供茗飲須。 口に苦いときは茶と飲むべし。
一味醍醐充佐使, 一味の醍醐として飲用に充ち、
從今合唤酪爲奴。 これから「酪」を「奴」とよぶのにふさわしい。
(その二)
芳苗簇簇遍山阿, この芳しい苗が山々にいっぱいある、
珠蕾金芽未足多。 その珠蕾と金芽はまだ十分足りてはいない。
千載茶經有遺恨, 千年前の《茶経》に記載されず残念だが、
吴儂元不過灤河。 南方の文化はやはり北方の灤河に及ばない。
王沂《芍藥茶》:
灤水瓊芽取次春, 灤水瓊芽という芍藥茶は春の賜物であり、
仙翁落杵玉爲塵。 仙翁が杵を落として玉は塵のように粉々になる。
一杯解得相如渴, 一杯で司馬相如の渴病を解消し、
點筆凌雲賦大人。 凌雲の點筆を以て大人を賦す。
元代に「芍藥茶」という「代茶飲」が現れ、そのブランドとして「灤水瓊芽」も作り出された。しかも、黄溍詩のタイトルに「代茗飲」という固有名詞も登場している。つまり、「代茶飲」の概念及び「茶」の名が付いた「代茶飲」銘柄の登場はやはり元代である。
写真5 日本でも販売されていて、一定の知名度を誇る苦丁茶 (Ku Ding tea)である。「代用茶」の一種で強い苦みがあるものの、健康茶として親しまれている。
大学教員
(2024.1.20)
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