【コラム】
中国単信(87)

中国茶文化紀行(24)中国宋代茶復古点茶実験――茶沫色の「淡化」

趙 慶春

 中国宋代の茶人が茶の沫を愛して、沫で闘茶をしたり、弄んだりして、沫そのものを楽しんでいたことはすでに述べた。宋代の茶人が沫を判定する際、色は重要なポイントの一つで、そのため、現代茶の茶湯(浸出液)を点てて、沫の様態を観察する「点茶実験」を行なった。大きく分類すると、四種類の沫色が確認でき、さらに沫の色の「淡化」現象、つまり、沫が次第に淡くなっていく現象が確認できた。
 そこで、四種類の沫色と「淡化」現象を紹介することにする。

<1> 白い沫。
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(「竹葉青」緑茶の湯色と白い沫)点茶過程の沫色の「淡化」現象:暗い黄色沫→ 明るい黄色沫→ 黄色が薄くなり、練乳のような色→ ほぼ純白沫。      
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(「刮風老寨」プーアル生茶の湯色と白い沫)点茶過程の沫色の「淡化」現象:ココア色に近い黄色沫→ 薄い黄色沫→ ほぼ白い沫。

<2> 黄白沫      
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 (「大紅袍」ウーロン茶の湯色と黄白色の沫)
 点茶過程の沫色の「淡化」現象:薄いミルク紅茶色→ 豆乳のような色→ 薄い黄白色の沫。

<3> 青白沫
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 (日本金子園の「金粉入煎茶」の湯色と青白色の沫)
点茶過程の沫色の「淡化」現象:黄色を帯びる緑色→ 黄色を帯びる薄い青汁のような色→ スイカ皮の裏側のような青白色。

 画素、画質、撮影時の光線などで、写真では沫の「白」「黄白」「青白」の区別が明瞭ではない。肉眼でははっきり確認できるため、ここで使用した「金粉入煎茶」はあえて細かい屑(粉茶に近い)を多く含んだものを選んだ。そのため、湯色は煎茶より粉末茶に近い濃い緑色になった。
 また、より正確に「青白沫」の色を理解してもらうためには、日常生活で身近なものがいちばん分かりやすいが、なかなか見つからない。日本人には少し薄い緑色を帯びた豆乳の色と言えば理解できるだろうか。日本人には馴染まないが、「緑豆糕」という中国の菓子を湯で溶かした色が最も近いと思われる。

<4> 黄紅沫
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 (「雅安蔵茶」という黒茶の湯色と黄紅色の沫)
 点茶過程の沫色の「淡化」現象:コーヒー色に近い暗い赤色→ ミルクコーヒーのような色→ 薄いミルク紅茶のような黄紅の色。
    
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(日本で市販されているティーパックの「日東紅茶」の湯色と黄紅色の沫)
点茶過程の沫色の「淡化」現象:ミルク紅茶のような色→赤色を少し帯びるバター色→ミルクをたっぷり入れた薄い紅茶のような黄紅の色。

 点茶実験から沫の色を分析すると、6種類の茶と4種類の沫との結びつきに必然性は確認できなかった。一方、茶湯の色と沫の色の関係には、一定程度の確認ができた。以下の4点にまとめられるだろう。

 1)黄色い茶湯(中国緑茶、白茶、黄茶など)は白い沫、あるいは
   白に近い黄白の沫がよく生じるが、純白は意外に少ない。
 2)薄い赤い茶湯(ウーロン茶など)はよく黄白の沫が生じる。
 3)濃い赤い茶湯(紅茶や黒茶熟茶など)はよく黄紅の沫が生じる。
 4)黄緑の茶湯(日本緑茶など)はよく青白の沫が生じる。

 ただし、上記4パターンに収まるわけではなく例外もある。例えば写真13と14は「蒙頂黄芽」の陳茶で、湯色が赤色だが、沫は真っ白である。
      
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 (「蒙頂黄芽」黄茶陳茶の湯色と白い沫)

 茶湯の色と沫の色に関する本格的な化学的分析や研究はまだ行われていないが、テアフラビン(茶黄素)やテアルビジン(茶紅素)などの含有量と浸出率に関わると思われる。つまり、同じ製法、種類の茶でも産地の土壌、気候によって変わる可能性が十分考えられる。一方、基本的に緑茶製法で作られた宋代の茶は異なる沫色が生じるのはなんら不思議ではない。

 宋代茶の沫色について、当時の権威的な文献の記述を見てみよう。
 宋代徽宗の『大観茶論』の「色」の項に「点茶之色、以純白為上真、青白為次、灰白次之、黄白又次之。(点てる茶の色は純白を上等とし、真の色とする。青白を次とし、灰白がこれに次ぎ、黄白はまたこれに次ぐ)」とある。
 沫の「灰白」色は筆者が実験し、まとめた4種類の沫色に含まれていない。おそらく「純白」の不純色であり、「青白」の暗い色ではないだろうか。筆者の推測が間違っていなければ、文献に見える宋代茶の沫色の「純白」「青白」「黄白」はすべて点茶実験で確認でき、再現できたことになる。「黄紅」色が宋代茶に見られないが、宋代には紅茶はなく、黒茶の熟茶がなかったためであろう。

 宋代の茶は「蒸し製緑茶」が基本で、「蒸し製」を主とする日本の緑茶に通じるところが多い。つまり、「青白」色の沫は最も一般的な色のはずで、「純白」はより精製した結果だと思われる。「黄白」は陳茶の色ではないだろうか。そのため宋代の茶人は沫の色で茶の品質を判断することを基準としていたと推測できる。

 (大学教員)

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