【コラム】

フォーカス:インド・南アジア(15)

福永 正明


<一>

 原発輸出へ突き進む安倍政権は、海外原発建設事業資金の異例な「政府の全額保証」を決めたとされる。
 年初より主要紙が伝え、反対の声が燃え上がった。2018年1月3日に毎日新聞、1月11日に朝日新聞が大きく報道、朝日新聞は1月21日朝刊の『社説』にて、「原発輸出 国民にツケを回すのか」と強い反対の主張を展開した。 

 毎日新聞・朝日新聞の記事要点は下記の通り。

・日立子会社ホライズン社のイギリスにおける「ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所」建設計画の資金枠組みが決定[なお、メディアは、「ウィルファ」と表記している。しかし、地域語のウェールズ語では「ウィルヴァ」がより正確な表記であり、本稿も「ウィルヴァ」とする。なお日立も「ウィルヴァ」と表記する。]

・2017年12月、日英両政府が「資金支援枠組み」に関する「書簡」を交わしたとされる
・総工費は約3兆円規模、出資4,500億円、融資2兆2,000億円
・出資の4,500億円は、英国側1,500億円、日立1,500億円、日本側1,500億円(日本政策投資銀行(DBJ)、日本原電、中部電力など想定)
・融資の2兆2,000億円は、日英が各1兆1,000億円負担
・日本側の1兆1,000億円は、融資として国際協力銀行(JBIC)、日本のメガバンク3行(三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の各1,500億円)
・その他収入は3,000億円を見込む

・日本側の出資・融資の総額1兆1,000億円は、日本貿易保険(NEXI)が全額保証する
・日立は、本事業のため2,000億円を支出済
・日立は、2020年夏までに「事業最終決断」を行う予定 → カギは、事業を日立の連結決算から切り離し(簿外資産、オフバランス)を行う
・オフバランスにより、日立の出資比率は50%以下、33.3%まで低下する見込み
・日立による新規建設の原発2基は、2020年代半ばに運転開始をめざす

<二>

・2009年1月、ホライズン・ニュークリア・パワー(Horizon Nuclear Power、以下、ホライズン社)設立。同社は、ドイツの「エーオン(E.ON SE、デュッセルドルフに本社を置き電力・ガスなどを供給する大手エネルギー会社)」と、「エル・ヴェー・エー(RWE AG、エッセンに本社を置く大手エネルギー会社)」が、資本比率50:50により設立した。
 ホライズン社は、2015年までに英国に原発4~6基を150億ポンドの投資にて、イギリス中部ウエールズ地方のアングルシー島にあるウィルヴァ旧原発の建て替え新規建設、南グロスターシャー(South Gloucestershire)のオールドベリー(Oldbury)における新規建設を計画した。

・2012年3月、ホライズン社の親会社であるエーオン(E.ON SE)とエル・ヴェー・エー(RWE AG)が経営難となり、東電福島第一原発事故後のドイツ政府による脱原発政策のため売却を決定した。
・2012年11月、日立製作所がホライズン社全株式を6億7,000万ポンド(約850億円)にて買収した。
 ホライズン社を連結子会社とした日立は、「改良型沸騰水型原子炉(ABWR)」1,300MW級の原発をウィルヴァとオールドベリーに各2-3基、計5,400MW級以上の原発建設事業を計画した。ウィルヴァにおける計画が、「ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所(Wylfa Newydd)」新規建設事業である。

<三>

 世界各地の原発建設では、工事遅延、住民の反対、政府の政策転換などリスクは格段に大きい。当初計画通りの事業総額と期間での稼働原発はほとんどなく、ウィルヴァ原発計画でもこれら遅延や中心に備えて、「安全な出資・融資体制」が必要とされた。

 日英政府は、「資金支援枠組み」について協議を続けてきたが、昨年末に合意「書簡」(以下、詳述)したとされる。その内容が、毎日・朝日新聞が報じた「資金支援枠組み」である。
 最大の問題は、JBICとNEXIは株式会社ではあるが、国が全面的資金提供する「国営企業」であることだ。JBICやメガバンクの融資も、事業中止・遅延した場合に支払われるNEXI保証金も国が提供する。

 つまり、国の資金を貸し出し、事業遅延や中止など保険が必要な場合には、国の保証として全額資金を払う。国民の金が、民間企業の利益追求事業に利用され失敗の穴埋めをする。経営責任を無視した、国民へのツケ回し税金投入である。

 既に本国会において、野党議員より鋭い追及が行われているが、安倍総理以下政府側は、具体的内容はもちろん、「書簡」の存否すら明らかにしていない。

□【議事録:未定稿】1月26日 参議院本会議 <代表質問> □
[福島瑞穂議員 (社民党副党首)]
 自由党、社民党の統一会派、希望の会を代表して質問をします。
 日本企業がイギリスに輸出する原発について、事故が起きたとき、一・五兆円もの債務保証を日本政府が行うことはやめるべきです。いかがですか。

[安倍晋三総理大臣]
我が国の原子力に関わる国際協力は、我が国の原子力技術、人材の基盤を維持強化していくことを通じ、世界における原子力の平和利用、気候変動問題への対応に我が国としてしっかりと責任を果たしていくとの観点に立ち、行うものであります。ただし、英国における原発建設計画については、現時点で、政策的支援を含め、具体的に何らかの決定がなされた事実はありません。

□【議事録:未定稿】2月6日 衆議院予算委員会 □
[笠井亮議員(日本共産党政策委員長)]
 日立は、昨年十二月十四日に、イギリスの原子力規制当局による原子炉の包括的設計審査、GDAが計画どおり完了して、大きく前進したというふうに発表をいたしております。
 そこで、この資金調達をどうするかというのが大きな問題になってくるわけですが、六年前の日英首脳会談で政府間の協力の枠組みの合意、そして原子力年次対話というのが毎年やられて、それを踏まえた今度の両大臣の協力覚書でありますけれども、これを受けて、二〇一七年、昨年十二月に日英のエネルギー担当大臣が今後の協力に関する書簡を交わしたとされています。この書簡は、原発分野の担当閣僚が協力推進を正式に確認をして、日本側は英国政府と資金支援の大枠を二〇一七年中にも固めるというものだと報じられております。
 政府による資金支援となれば、これは国民負担にかかわる重大問題であります。そういう書簡があるのか、そして資金面での支援を含む協力内容が取り決められているのか、日英間で。それはいかがですか。

○ 世耕国務大臣
 これは外交上のやりとりに関することでありまして、御指摘の文書については、存否もめて、お答えは差し控えたいと思います。

<四>

 ウィルヴァ原発建設予定地域では、旧原発廃炉後の雇用確保のため賛成意見もあるが、長年の反対運動も継続している。同地には、菅直人元総理が訪問し、「東電福島第一原発事故の現状、原発事故の重大性、原発からの決別」を強く訴え、人びとの共感を得た。

 日立とGEは、東電福島第一原発事故においては原子力損害賠償法の定めでの「責任集中制(事業者に責任を集中する。つまり、東電が責任を全面的に負い、原発メーカーは免責)」とされる。これに対して、日立・GE・東芝の責任を追及する「原発メーカー訴訟」が、国内外の市民により提訴され、現在は最高裁段階での闘いとなっている。

 日立はウィルヴァ原発事業に2,000億円支出済だが、ホライズン社の持ち株比率を50%以下にしてリスクを最大限縮小するため、2020年夏までに最終決断とされる。東電福島第一原発事故を引き起こした日本からの原発輸出を世界は容認せず「日本は原発を売るな!」と各地で反対運動が続いている。

 報道を一読すると、あたかも「この原発輸出事業が最終決定した」ような記事であった。しかし、政府答弁、日立の2020年夏までに最終決断の方針の通り、未だに「未決」である。
 またウィルヴァ原発建設事業には、日本原子力発電株式会社、日揮株式会社などがコンサル業務を請負済である。そして、官民の金融機関は「事業失敗の際には、国民にツケ回しする」ことでのリスク回避で事業に参画する。

 反対運動を続ける現地英住民たちと連携して、さらに反原発の国際運動を展開するなかで、ウィルヴァ原発事業を断念させなければならない。より多くの団体や個人をネットワークで結び、中止を日英政府、日立、JBIC、NECXI、メガバンクなどへの抗議活動を開始しよう!

※ 私が世話人を務める「核武装国インドへの原発輸出に反対する市民ネットワーク」では、すでにウィルヴァ原発建設事業に関する情報を、FACEBOOK のページにて発信してます。
 https://www.facebook.com/NoNukesToIndia/?ref=bookmarks

 (岐阜女子大学南アジア研究センター長補佐)

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