【フォーカス:インド・南アジア】(34)

ビルマの「国民統一政府(NUG)」と民主的な新関係を築こう

福永 正明

 <一> はじめに

 2月1日のビルマ軍(タッマドー)によるクーデター勃発から、すでに半年以上が経過した。不当な軍クーデターに反対する多くの人びとが、若者たちを中心に、全土で抗議運動を続ける。さらに日本も含む国外でも、在外ビルマ人たちを中心に国際的な抗議活動が展開されている。

 クーデター当日に全権を掌握したとするミンアウンフライン軍総司令官は、新たに国家行政評議会(SAC)を創設、自ら議長に就任、さらに8月1日に「暫定政府」を樹立したとして「首相」に就任した。
 クーデター直後に拘束した国民民主連盟(NLD)政権を率いたアウンサンスーチー議長・国家顧問、ウィンミン連邦共和国大統領ら政府や与党指導者多数は、依然として拘束あるいは軟禁中である。さらに被拘束者たちの裁判も開始されおり、アウンサンスーチー氏は詳細不明な複数容疑での公判が進行、有罪確定となれば懲役も想定される。

 国家行政評議会と暫定政府」による軍政(以下、「SAC/暫定政府軍政」)は、一般市民(含む子ども)への実弾射撃・殴打での殺傷、令状なし拘束、辺境の少数民族集団への空爆など、過酷な暴力的弾圧で支配確立をめざす。これにより多数の尊い人命が損なわれ、人権侵害が多発しており、現地団体「政治犯支援協会(AAA)」の集計サイトによれば、8月18日に殺害された人数が1000名を超え1006名に上昇、令状なく拘束・起訴された人数5730名である。
 <二>

 日本でビルマは、一般に「親日国」の一つとして知られてきた。それは信仰心の厚い上座仏教徒が総人口9割と多く、穏やかな人びとの姿であろうか。また、何度も映画化された児童向け作品『ビルマの竪琴』の影響も大きいのだろう。しかし、特定の国を多くの人が「親日国」と考えることと、正確な知識や情報を普及しているかは別である。残念ながら、日本とビルマとの関係では、実態とかけ離れた「幻想のような親和」意識が形成されてきたといえる。

 あるいは、クーデター後のTVニュース放送にて、抗議行進する市民に向け銃撃を続ける軍治安部隊の野蛮な姿は、日本の視聴者に「仏教を大切にしているはずなのに」との疑問、怒りを生んだ。それもまた日本で考えられていた一般的「ビルマ人像」と、映し出された現実との違和感から生じたものであろう。この違和感こそが、真の理解への出発点となるのではないか。
 また現地発映像の多くは、高速道路、高層ビル、高級商業施設や街並みを映し続けた。それはまさに、近年のビルマ主要都市を中心とする「急速な経済成長」での変貌を象徴している。日本の視聴者の多くが実感したのは、「ビルマは、こんなにも経済成長を遂げ、都市化しているのか!」との驚きではなかっただろうか。そして次の疑問は、「いかに、これら経済成長が実現したのか?」に違いない。

 ビルマは、インドシナ半島西部に位置し、日本の1.8倍の国土面積、総人口5,400万人の多民族国家である。南東はタイ、東はラオス、北東と北は中国、北西はインド、西はバングラデシュと接しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する。
 詳しい歴史、政治、社会については、上智大学の根本敬教授による『物語 ビルマの歴史』(中公新書 https://www.chuko.co.jp/shinsho/2014/01/102249.html)をお勧めする。例えば現地語を駆使して歴史を詳述する根本教授は、小説・映画の『ビルマの竪琴』には現実のビルマではあり得ない場面も多く、そこに登場するのは「非ビルマ的」情景であるとする。さらに、正確な情報と知識を得ることの重要性、現実と文学作品の峻別の必要性に留意しながら平易に歴史を語る。
 まさに、いま私たちには「ビルマのより正確な理解」、「自らが持つビルマ社会像の刷新」が最重要であることは明らかであろう。

 <三>

 2020年11月実施の総選挙(「2020総選挙」)では、NLDが8割以上の議席(両院合計476議席のうち396議席、83.2%)を獲得、地滑り的圧勝であった。
 しかし、2月クーデター、その後の「SAC/暫定政府」は、この「2020総選挙」を完全否定する。
 「SAC/暫定政府」は、前政権任命の選挙管理委員会を解散し、自らの意向に従う選管を任命して調査を行わせた。7月26日にSAC選管は、「去年11月の総選挙について有権者名簿や投票用紙を調査した結果、不正が確認された」と表明「結果無効」を発表した(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210727/k10013162201000.html)。

 国際社会は、これらクーデターと「SAC/暫定政府」による総選挙とその結果の完全否定が、民主主義の規範破壊であると最大批判する。つまり総選挙で選出された議員の強権的拘束、政権を担当するべき政党(NLD)指導者の拘束と解党策動は、議会制民主主義の否定である。

 さて、連邦議会総全議席の四分の一を「軍人枠」とすることが、軍政下の2008年制定のビルマ連邦共和国憲法で定められている。さらに憲法重要事項の改正は、連邦議会の四分の三以上の賛成後、国民投票を行う規定である。すると「軍人枠議員」には、事実上の憲法改正拒否権が認められる。加えて憲法は、国軍総司令官が国家安全保障に関わる国防相、内務相、国境相の重要3閣僚を指名すると定め、文民統制(シビリアン・コントロール)を否定している。
 つまり「2008年憲法」は軍優位の政権体制であり、2015年総選挙において大勝後に樹立された民政移管後のNLD政権は、軍政枠組みのなかで行われていた。そこでNLD権は、議会制民主主義の確立と、文民による軍の統制など本格的な民主化を実現するため憲法改正を試みた。しかし国軍は、さまざまな手段で徹底的に拒み続けていた。

 そのような状況での「2020総選挙」では、NLDが地滑り的に大勝、次期議会での全議席の単独過半数を獲得し政権を維持した。すなわち国民は、「軍政逆戻り反対」、「民主化推進」からNLDを支えた。一方の国軍系政党の連邦団結発展党(USDP)は、議席が減少した。
 国軍は「2020総選挙」後、危機感を強め、総選挙結果の否定に突進した。そして、議会開会日の2月1日未明からの軍事行動でのクーデター勃発、国軍総司令官が全権を掌握し、強権的軍政を開始した。

 「SAC/暫定政府」は、2023年8月までの再選挙を公言するが、それまでにアウンサンスーチー議長や幹部を政界から追放し、NLDから政党資格を奪い民主勢力を無力化する計画のようだ。これらの目的は、ミンアウンフライン国軍総司令官の終身制導入という個人的野心、軍関連政党が有利となる再選挙の実施での議会掌握、さらに軍関係者・軍系企業集団の経済利権の永続的確保である。
 それは、「SAC/暫定政府」から「軍の意向に従う文民政権」への移行への思惑であり、過去の歴史において長期間続いた「ビルマ軍政の新形態での固定化」をめざしている。

 <四>

 若者たちを中心として、軍の無法な民主主義破壊に対する抗議が、2月クーデター直後から開始された。街頭での行進の増加は、若者たちと軍警察テロリスト集団との対峙となり、さらに子どもも含む無差別的な一般人への銃撃、通行者への理由なき暴行、家宅捜索など暴力的弾圧はエスカレートした。その様子については多数の映像が、Facebook を中心とするSNSにより全世界へ拡散し、反クーデターの運動が拡大した。手の指を3本たてる行為が、連帯のサインとして世界に知られるようになった。人びとの抗議と対抗は、街頭での行進や軍警察テロリスト集団との対決だけでなく、地方農村での平穏な行進も行われ全国へ広がった。

 さらに拡大したのが、「市民不服従運動(CDM)」である。学生、公務員、医師、看護師、教員、銀行員、民間企業会社員、その他多くの人びとが、特に軍系・政府系企業や行政府などで、「自発的に職場に行かない」抗議が続出した。また商業地域の商店も、自主閉店で抗議し、商業・金融にも大きな影響が生じた。このCDMは、市民たちの自発的な行動であり、だからこそ「不服従運動」と呼ばれる。

 アウンサンスーチー氏がインド独立運動指導者ガンディーの思想に影響を受け考えたとされる、「義務的不服従」は有名である。それは、「服従することができないことを、自己の存在をかけて拒否することは、人としての義務」であるとする。都市居住の医師や看護師など医療関係者、文民官僚、商店主などが一斉に参加したことは、非常に重要であった。

 「SAC/暫定政府」の幹部は、現役や退役した軍関係者が配置されていることは有名である。そのため、一般公務員の不満は強く、かれらがCDMに参加する大きな理由とされ、まさにCDM運動が政府機能をマヒさせた。軍や警官隊の内部にも波及し、隊から逃亡する者が続出、国境を越えてタイ、インドなど近隣国へ逃げ込む者も増加した。

 また人びとは、軍系企業経営の電力会社への電気料金支払を拒否し(未払い率80%との報道もある)、日本企業と軍系企業の合弁によるビール企業の不買運動も展開され売上は急減、日本企業本体の営業収益にて減損計上と痛打している(「ミャンマー事業、214億円減損計上 キリンHD」、2021年8月11日『朝日新聞』)。

 これら市民のさまざまな抗議活動、特にZ世代と呼ばれる若者たちによる、「軍政反対」、「民主主義を守る」という決意は、国政の場における民主勢力の活動を進展させた。
 すなわち2月5日、NLDの新議員たちを中心に連邦議会代表委員会(CRPH)が設立され、クーデターを否定し「SAC/暫定政府」を認めない政治組織が開始された。CRPHは、3月2日には臨時政府となる機能が強化され、さらに発展して4月16日に「国民統一政府(NUG)」が発足した。なお、NUG発足後、CRPHは立法機関としての役割を担う。

 NUGは連邦(フェデラル)政府であり、拘束中のアウンサンスーチー国家顧問、ウィンミン大統領の地位は据え置かれた。そして、内閣総理大臣のもと、省と大臣が配置され、新議会議員や少数民族集団出身者が就任している。全国各地の少数民族集団や異教徒たちも抱合する中央政府として、各地方の独自性を認め、中央政府の国政を担当するという連邦政府を目標とする。

 また国民に対する「SAC/暫定政府」および軍テロリスト集団の攻撃に自衛的に対抗するため、5月5日に「国民防衛隊(PDF)」が設立された。このPDFは、NUGの統一的な軍事部門との役割よりも、少数民族集団も含めた市民たちの自発的自衛組織という段階でしかない。このPDF設立をもって「内戦」化を論じる識者とやらも多いが、それはあまりに性急すぎる。現地メディアによれば、各村落の若者を集め、軍テロリスト集団の襲撃に備えるための自衛活動の準備、訓練などがPDFの実態となっている。

 しかし「SAC/暫定政府」がNUGを非合法組織としているため、NUG閣僚ら多くの関係者が潜伏する。そのためNUGは実質「バーチャル政府」であるが、ネット上での閣議、省議などの写真が公開され、政令、省令なども次々と発せられ、実効支配へ向けて行動を続ける。
 特に、国際協力大臣のササ博士(Dr. Sasa)は、世界各国の議員や政府関係者とオンラインでの会合を続け、スポークスパーソンとなり、NUG支援への国際的な輪を広げている。

 <五>

 クーデター後、日本において特筆するべき活動を展開したのが「超党派・ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」(会長:中川正春衆議院議員、事務局長:石橋通弘参議院議員)である。NLD関係者や在日ビルマ人団体との交流から、情勢分析に優れた、そして先見性と行動力ある活動をすすめている。
 CRPHのメンバーたちとのオンライン会議を経て、2021年3月31日、オンラインでの『ミャンマーの民主化に向けた国際会議』を開催し、『共同声明文』を発表した(https://www.i484.jp/wp-content/uploads/2021/04/statement.PDF)。このなかで、クーデターを「最大級の怒りをもって糾弾」し、日本政府および国際社会が、以下3項の速やかなる実現のため全力を尽くすことを強く要請している。その3項とは、

  1)即刻、市民に対する武力・暴力の行使を停止させること、
  2)アウン・サン・スー・チー国家最高顧問らNLD幹部や関係者、
   及び不当に拘束されている市民らを即時かつ無条件で解放させること、
  3)昨年11月の選挙で国民によって選ばれた民主体制へ速やかに全権を
   返還させること、
である。

 そして、日本からの政府開発援助(ODA)に関しては、以下の通り明確に述べている。

 <私たちは、日本政府に対し、国際社会とも連携しつつ、JICA、JBIC、JOINなどが関係する政府開発援助(ODA)や開発投融資などを含め、直接/間接を問わず、ミャンマー国軍を利する一切の支援や協力を直ちに中止/停止し、上記2の要求(注:上記の3項要請)が完全に達成されるまでの間は、その再開を行わないことを強く求める。>

 さらにNUGが樹立されると議連は、ササ大臣を含むNUG閣僚たちとのリモート会合を繰り返して開催、情報収集、意見交換を続け、5月26日に第1回「オンライン会議」」(日本から国会議員26名参加)が開催された。
 それらの総合的成果は、国会両院の『決議』、すなわち衆議院本会議における「ミャンマーにおける軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制の早期回復を求める決議(2021年6月8日決議)」(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/topics/ketugi210608.html)、参議院本会議における「ミャンマーにおける軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制の早期回復を求める決議(2021年6月11日決議)」(https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/204/210611-2.html)として結実している。これら『決議』は、日本政府が採用するべき対ビルマ外交方針を示す格調高い文章である。

 また7月15日にも「第2回オンライン会議」をNUGの大統領代行も出席して開催、より具体的な諸問題、特に急拡大する新型コロナ感染症の状況、日本からの支援などについて討議された。
 すなわち、2月のクーデター発生後、継続する暴力と弾圧、それに軍政の圧政、ASEAN首脳会議での「特使派遣」が決定しながらも実行できない状況、かねて脆弱であった医療体制のなかCDMでの医療関係者の休業のなかでの新型コロナ感染症の爆発的な拡大は危機的状況となっている。

 すると、日本の市民が、日本政府、ビルマ関係企業団体、進出企業などに対して求めるべきは、今後の対ビルマ方針の明確な転換であることは明らかである。日本政府は、一貫して「独自のパイプ」があることを理由として、米英諸国が続ける制裁には加わらず距離をおく。例えばODAについては、2021年2月以降は「ODA案件がない」ことから停止と回答しており、既存のODAや開発投融資などを「停止する」との決定はない。さらに、「欧米に追随するような制裁は、日本外交に不適」であるとして、政策検討も行われていない。

 この日本外交は、対中警戒を叫び、また「日本外交独自論」を主張するような人たちには、支持があるようだ。ネット論壇でも、次々と「欧米制裁ではなく、日本独自の説得と仲介」、「ミャンマーより中国への制裁が先だ」などの言葉遊びが目立つ。
 だが、日本が提示するべきは「将来的な外交方針」であり、それは「軍か民か」から「民」を尊重し、民主主義を擁護回復させるものでなければならない。
 その道筋として、3月31日のCRPHと議連の「共同声明」、『国会決議』は、極めて明快であり、私たち日本社会の次ぎの行動の指針となる。今後のビルマ支援、対ビルマ外交の基本方針として、この「共同声明」は、扱われるべきであろう。

 さて、NUGはすでに外国からの直接投資(FDI)、開発投融資、ODAなどに関して基本方針を策定、公表している。すなわち、NUGの計画・財務・投資省(Ministry of Planning, Finane and Investment)は、7月21日に‘Three-Pillar Framework Guiding Responsible Investment and Continued Operations’(和訳「責任ある投資と継続的な運用を導くための3重要フレームワーク」)を発表した。そこでは、2月1日クーデター前の投資活動対する方針、今後のFDI、ODA、開発投融資などについて、軍のためではなく市民に利益を供する事業のみを認めると明言し、軍関係企業リストを明記し経済的利益の供与を生む活動を禁止した。

 日本国内では、2月1日以後にNGOが活動を展開したのは、「ミャンマー国軍の資金源を断て」とタイトルされた問題であった。その内容については、数次の多数NGO団体が署名・賛同などにより発表された「要請文」のいくつかを紹介しておこう。
 2月17日、賛同は「ミャンマー軍に利益をもたらす可能性が高い日本政府及び日本企業が関与する事業に関する要請書」を提出、発表した。4月1日には、「ミャンマー国軍を利する日本政府の経済協力事業を直ちに停止するよう求めます」との「共同要請書」が発表された(http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20210401.pdf)。特に、4月1日要請は下記の通り記している。

  2.JICA が現在実施している対ミャンマーODA事業については、
   全ての支援を一旦停止し、国軍との 関連が指摘された企業が事業に
   直接ないしサプライチェーン等で間接的に関与していないか、または、
   事業の実施が国軍に経済的利益をもたらしていないか、早急に調査して
   ください。

 つまり、ODA事業を「一旦停止し」、「国軍に経済的利益をもたらしてないか調査」を今後に実施し、ODA事業に関する方針を決めろとする。何という、軟弱な要請であろう。前述の通り、3月31日のCRPHと議連の「共同声明」ではすでに、「一切の支援や協力を直ちに中止/停止」が明記されている。しかし、市民団体は穏便にも「調査を求め」続けている。
 日本のNGOがなぜビルマ市民運動、NUG、そして日本の議連の動きなどを無視し、「国軍への資金提供を断て」に執着し、半年経過後も何らの思考的進展がないままに同じスローガンを掲げているのかは不明である。

 明確なことは、将来における対ビルマ関係、ビルマの人たちとの結び付きのあり方などが薄れ、次なる方向が考えられていない。つまり、日本の市民社会は一体何を行うべきであるのかの提起はほとんど見当たらない。あたかも、日本市民には「ODAなどで国軍への資金提供を停止」すれば、ビルマには次段階が訪れるかのような幻覚を振りまいている。

 では、「ミャンマー国軍に資金を提供しないでください」という情緒的な、過去の情報による活動に対して、私たちは何ができるのであろうか。
 まず、CRPHと議連の「共同声明」では、明確に「政府開発援助(ODA)や開発投融資などを含め、直接/間接を問わず、ミャンマー国軍を利する一切の支援や協力を直ちに中止/停止」との規定がある。まさに、ODAなどの全面停止要求は、私たちの大方針であり、そのために何をするべきなのかが重要である。ODA全面停止要求を実現するため、何を行うべきであるのかが考え、提起される必要があるだろう。
 それは、市民側から次なる対ビルマ外交方針を明確に提示することにある。それが、ビルマの人びとを助け、お互いの理解と信頼、さらに友好を深めることとなる。

 具体的に新外交方針として日本政府に要求する行動とは、
 1.軍テロリスト集団による市民に対する一切の暴力の即時停止、
 2.2020年11月総選挙の結果が「正統である」ことを認める、
 3.アウンサンスーチー氏ら政権・政党指導者、市民運動指導者、
  一般市民、学生など不当に逮捕拘束されているすべての者の
  無条件での即時解放、
 4.総選挙選出新議員たちを中心とし、地方の少数民族集団をも含む
  連邦制国家としてのNUGとの公式な接触・連絡を開始し承認、
 5.としてのNUGとの公式な接触・連絡を開始し承認
 6.既存のすべてのODA、開発投融資、企業直接投資などの停止、
 7.軍最高幹部、およびその親族、軍系企業集団とその関係者に対する
  「標的制裁」を実行、
 8.新しいビルマ外交を作り上げるため、旧来の外交・友好団体関係者の
  刷新、
などである。

 そして、9月に予定される国連総会では、ビルマ代表権問題が重要となる。これは、ニューヨーク駐在の国連代表部大使がクーデター後に反旗を翻したまま国連での活動を続けている一方で、「SAC軍政/暫定政府」も新代表大使を任命しており、国際社会がどちらを正当なる代表として認めるかが問題となる。日本は、率先して旧NLD政権任命の大使を支持し、その代表権を認めるべきであろう。

 <まとめ>

 7月30日、日本メディアは「8月6日にメコン川流域5カ国とのオンライン外相会議開催、ビルマ軍政も参加」と報じた。同会議は、当初は本年3月に日本で開催の予定であったが、2月のクーデターにより延期されていた。
 しかし今回の「SAC軍政/暫定政府」の参加容認は、従来の政府方針・表明を反故とするものであり、「軍クーデター認知」に等しい。国会における「決議」にも反することは明らかである。

 すでに3月、在ビルマ丸山市郎大使が「SAC軍政/暫定政府」任命の「外相」」とされる者と会見した際、国内外から厳しい批判が集中した。あたかも「軍政」を正式政府として認めるような日本大使の無神経、非民主主義的行為に非難が集中した。
 8月6日の日本メコン会議への軍政代表参加容認は、ビルマの人びとの日本へのさらなる失望と反発を招き、さらにビルマの人びとの民主政治回復、NUGによる新しいビルマ建設への努力、人びとの軍政との闘いを否定する外交でしかない。

 在日ビルマ人団体からは、日本政府のこの「日本メコンオンライン外相会議」の開催決定に強く抗議が発せられた。筆者が代表を務める会も、「ミャンマー/ビルマの軍政参加を容認する、日本メコン5カ国とのオンライン外相会議(8月6日)の中止を求める!」との声明を発表し、強く抗議した。

 また8月4日に議連も「日本メコン外相会議(8月6日)にミャンマー国軍の代表者を出席させる政府方針に強く抗議し、その撤回と、国会決議を尊重した政府の真摯な対応と行動を求める要請書」を、外務省南部アジア部長に対して強い抗議とともに提出した。
 在日ビルマ人たちは、議連が「要請文」を提出したと同じ頃に、外務省前で集会を開き、強い抗議、怒りを表明した。かれらは仕事を途中で休み、外務省前に集まり、「参加反対!」、「軍政を認めるな!」の声を上げた。それは、日本への怒り、失望でもあった。

 この日に筆者は、外務省前集会に参加し、日本政府の蛮行を非難し強い抗議を述べ、ビルマの人たちとの連帯を表明した。ビルマ現地で拘束され解放後に帰国されたフリージャーナリストの北角氏も参加され、意見表明されていた。
 驚いたことに、8月1日付けで多数のNGOの呼びかけ・賛同にて発表された「共同声明(ミャンマー:クーデターから半年日本政府は国軍の暴挙を止めるための具体的な行動を)」には、NUGという言葉もなく、さらには6日開催予定であった日本メコン会議軍政代表参加には、何ら言及がない。
 ここで強調されているのは、<日本政府は、ミャンマー市民の「私たちを殺す武器を買うお金を国軍に渡さないで」という声に、真摯に耳を傾けてください。>でしかない。

 8月4日の外務省前行動には、8月2日夜に首相官邸前で華々しく「ミャンマー国軍への資金提供を止めろ!」集会を開いていた日本のNGOたちは参加していなかった。
 そして2日官邸前では誰も「日本メコン会議の日本主催でビルマ軍政を参加反対」を表明せず、素通りであった。また、各NGOのサイトなどでは、この日本メコン会議の問題は存在しないかのように記載はなく、意見表明もない。

 なお、8月上旬のASEANとの一連の会議において、アメリカも制裁発動相手国の「SAC軍政/暫定政府」代表の参加を容認したことから、日本の動きを容認するような論者、メディア記事もある。しかし、アメリカは国務長官がASEAN会議に出席した一方、同時期に国務副長官がNUG代表と初めて正式に会見し意見交換行った。つまり一方に偏らず、この機にNUGとの正式なコンタクトを開始した。「独自のパイプ」とのうわ言にしがみつき、何らの成果を生んでいない日本外交の失敗は明らかである。

 在日ビルマ人たちの怒りは深い。彼らは、日本のNGOは「自分たちの目的のためにビルマを使い、その活動を行うことが自己目的となっており、ビルマの将来について関心ないのではないか」と疑問を発する人が多い。

 さて、こうした状況のなか、私たちはどのようなビルマ支援、市民活動を展開するべきなのであろうか。プロ化したNGO活動家たちが、各種社会問題を転々とつまみ食いして歩き、活動を主導する。そうした、日本における市民活動、NGO活動の根本的な問題も照らすような出来事として理解できた。
 日本の私たちは、NUGを支持し、さらに承認する道を進もう。そして、平和で民主主義による、新しい真の連邦国家建設に全面的に協力していく必要がある。暴力を止めさせ、不当利得の収奪を停止し、ビルマ人たちが求める社会への転換に協力していこう。もちろん、日本外交、市民活動も大きな変化が必要であることは明らかである。

 (大学教員)

※本稿では、「ビルマ」の表記を用いたが、それは英語国名の「ミャンマー」への変更に関する軍事政権(1989年)による呼称変更説明を認めることはできないからである(筆者)。

(2021.08.20)
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