ネットで知る最近少し気になるアレコレ 2020 -2月 (補)

駒沢 仁也

 2月18日 日産自動車株価、約11年ぶり500円割れ。2019年10~12月期の連結決算は、最終損益が11年ぶりの赤字となリ、株価総額は2兆879億円だった。(2020/2/18日経電子版)ゴーン(Carlos Ghosn)が逮捕された2018年11月19日の終値は1006円だったので、この1年3ヶ月足らずで約2兆円消えたことになる。ゴーン逮捕・罷免に動いた旧経営陣も検察当局もこれだけの経済的打撃を読んでいたのだろうか?社内問題を検察の手に委ねた結果の責任は誰かが負うべきではないか?
前述のように2月20日前後には、日本の検察が国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)経由でレバノン政府に提出したゴーン被告の身柄拘束を求める「赤手配書(Red Notice)」に対する訴状提出期限(40日以内)が来る。日本の検察当局が本件訴状Fileをレバノン当局に提出し、レバノン側が吟味し、罪状の正当性を判断するという事になるので注目したい。Red Noticeを受けた側が罪状を判断する事になるのは検察側の誤算・想定外ではないのか?これでは、ゴーン事件の最初の国際的審判はレバノンで行われることになる。レバノン当局は、日本からのFileは40日以内必着を要求し、判断の結果でゴーン氏の海外旅行も許可することになると発言している。Ghosn逮捕・拘束の日本司法の論理が、国際的に通用するのかどうかの試金石になる。
 2月10日には、Ghosn氏が日産と三菱自動車の統括会社を相手取った不当解雇裁判が、アムステルダムで始まった。ゴーン氏解雇理由の内部文書開示と1500万ユーロの補償金を求めた裁判。
 2月12日 に日産自動車は、元会長のカルロス・ゴーン氏に対して100億円の損害賠償を求める訴訟を横浜地方裁判所に提起したと発表。 「今回の訴訟で賠償を求める損害は、ゴーン氏の役員報酬の虚偽記載に関わる金融商品取引法違反、ゴーン氏の取締役としての善管注意義務違反、会社の資金および資産の私的流用による損害に関するもの」で、内訳は「 ゴーン氏の不正行為(CEOリザーブによる不正支出、海外住居の無償使用、姉に対する支払い、レバノンの教育機関への寄付、レバノンの弁護士への支払い、コーポレートジェットの私的利用など)に関する支払い」とされ、調査の結果増額される可能性もあると言う。日産本体が瀕死の瀬戸際にある時、重箱の隅をあさってどんな意味があるのか?巨大な損失を受けた株主はどうなるのだ?困った人々だ。
 2月21日には、GhosnとRenault(ルノー)との裁判も始まる。これはGhosn氏が、ルノーの会長職辞任に関する退職手当約25万ユーロ(約3000万円)の支払いを求め仏労働裁判所に申し立てた件であり、同時に年額775、000ユーロの年金と業績報酬分の380,000株(逮捕時価格64.50EUR,2020 2月18日現在31.36EUR。時価1200万ユーロ約14億円)も請求しているので、興味深い。
 
 2月1日   テニスのグランドスラム大会の一つである全豪オープンにて1998年モスクワ生まれのSofia Kenin (ソフィア・ケニン) が21歳で優勝した(前年度優勝はNaomi Osaka)。ケニンの両親はロシアからペレストロイカの始まった1987年にニューヨ-クに移住し、父親でコーチのアレクサンドルは、昼間はプログラミングを学び、言葉もわからないまま夜はタクシー運転手として一家を支え、娘が生まれてからはフロリダに移り、自身もテニス愛好家だったのでテニスを娘に教えてきた。ソフィアは(ロシア語ではソーニャ)170cmと身長はないが、幼少時より神童と呼ばれた技術力があり今後もグランドスラムでの勝利も続ける筈で注目したい。ちょうどロシア出身でロシア国籍を保有して活躍していたマリア・シャラポワが引退を表明したがシャラポワの両親は、1986年に原発事故の起きたベラルーシ・チェルノブイリ近郊のホメリ在住だったが(事故当時、妊娠4ヶ月)疎開先のシベリアで1987年に生まれ、アメリカに移住してプロ選手になった。ケニン選手の両親の米国移住の年と同じで、ペレストロイカが両者の米国移住を可能にし、グランドスラム勝者を生み出したと言える。  WTA 2019制作の動画 

 トランプ弾劾裁判
 Ghosnと日産経営陣+特捜部を見ていると、Trumpと民主党+米国メディアのトランプ追い落とし騒動と極似しているのが見えて来るが、弾劾裁判は予想通り民主党とメデイアが騒いだだけで終わってしまったので、今回は詳しくは触れない。日産旧経営陣と検察特捜部の動きに連動してハシャギ立てたメデイアが競って日産のブランドイメージを毀損して日産株価凋落、全世界的な販売不振を呼び起こした。
同じように民主党とメデイアの昨年9月に始まる「トランプ大統領のウクライナへの内政干渉事件」は、結局は民主党エスタブリッシュメント推薦候補Joe Bidenの評判と民主党の評価を下げるのに貢献した。ウクライナ問題でトランプを糾弾すればするだけ、Bidenの息子Hunter Bidenの悪名が高くなり、Biden本人は、息子が2014年のマイダン後すぐにウクライナ・オイル&ガス会社の役員として2019年まで役員報酬月額7-8百万円を得ていたことの弁明に終始した。従い、「この(ウクライナの)ガス会社Burismaの名前を知らぬ米国人はいない」 と言われるのも一概に誇張とは言えない程だ。 いずれのケースも、己の目的を忘れて敵を叩くことに熱中すると、自分で墓を掘ることになるという好例であろう。

米下院トランプ弾劾裁判で証言に立った Alexander Vindmanは1975年ウクライナ・キエフ生まれで、双子の兄弟のEvgeny Vindmanも同時にトランプ・ホワイトハウスに勤める。長兄のレオニードも米軍将校。父親がソ連軍のアフガン侵攻直前の1979 年12月に義母と三人の息子を連れて米国に移住した(ユダヤ人出国許可により)ニューヨーク・ブルックリン地区のブライトンビーチの“リトル・オデッサ”(ソ連から亡命のユダヤ人街と呼ばれた)に住みながら、名門校の一つニューヨーク州立大学ビンガムトン校(Public Ivy)1998年卒業。予備役将校資格を取得し陸軍歩兵大隊、イラク等従軍し負傷にてメダル授与さる。後にハーバードにてロシア・東欧・中央アジア研究で修士号取得。
2008年から国際担当官になりモスクワ・キエフ米大使館武官として勤務。国家安全保障会議ウクライナ政策担当(2018年就任)
2月7日ホワイトハウス退去 アレクサンダー・ビンドマンは、ホワイトハウス国家安全保障会議に勤務の双子の兄弟 エフゲニー(中佐、JAG Officer として軍規・倫理担当)と共に、退任を余儀なくされ軍に戻った。下院弾劾公聴会での証言に対する大統領側の報復人事と言われた。
一般論を言えば、出身国の運命を左右する局面では、出身者は心情的な対応をしがちなので、対象国の出身者を任じるべきではない
(ホワイトハウスから警備員に付き添われ退去するA.Vindman)

2月13日 トランプ大統領は退任予定の財務省対外制裁政策担当次官Sigal Mandelker女史(写真)の後任に予定していたハーバード・プリンストン卒で財務省トップ人材であるJessie Liu 女史の議会承認申請を取り消した。これは、Liu女史がRoger Stone裁判を支持していることが判明したためと見られている。
このUnder Secretary of the Treasury for Terrorism and Financial Intelligence という財務省ポストは非常に重要であり、Jhon BoltonとかPompeoは “maximum pressure”(最大のプレッシャー)政策の顔だが
財務省高官のSigal Mandelker女史こそがこの政策の最も需要な実行役である」と言われている。https://bit.ly/2uWZyw0) 
The Woman at the Center of Trump’s Iran Policy(Atlantic 2,019)
2017にトランプ大統領に指名され上院議会で96:4の賛成多数で6月21日承認された。トランプ政権は対外政策において経済制裁を連発しているが、その背景の一つにはホロコースト犠牲家族の一員としてのマンデルカー女史のような自国の戦争犠牲者を出さない目的のためには、敵対国に対しては、その国の民の犠牲者を案ずることなく「制裁する」という信念での政策実行であることが伺われる。
財務省高官の「制裁」の背景にある個人史、民族体験、歴史体験が語られて貴重なので、こでは、Mandelker女史の議会ホロコースト犠牲者追悼式でのスピーチを紹介するだけにとどめる。

at the 2019 Days of Remembrance Ceremony United States Capitol

https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm671
スピーチの中でDuvno市の名が出てくるので、彼女の祖先はウクライナ出身だということが分かる。すなわちVindman兄弟と同郷である。
 
今回は時間の関係で語れないが、民主党大統領候補予備選でトップを行くサンダース(Sanders Bernie)は、「父が17歳の時にポーランドから無一文で米国に移住した」と語り、Vindman中佐兄弟達と同様にニューヨーク・ブルックリン地区で育った。 
巨万の富を背景に先頭集団に出てきたもうひとりの民主党大統領選挙候補の ブルンバーグ(Michel Bloomberg)の父方の祖父エリクはロシアからの移住者で、母方の祖父はポーランド隣接のベラルーシ出身だと。
トランプ大統領の娘Ivankaの夫で実質的に大統領補佐官を務める Jared Kushner(1981年生)もまた、ホロコースト・サーバイバー の祖母祖父が1949年にソ連邦ベラルーシから米国に移住してきたユダヤ人で、1954年米国生まれの父親Charlesがいる。Jaredもシャラポワと同じベラルーシ出身のユダヤ人ということになる。

 日本は、自国の近々の歴史を忘れるようにしているが、米国だけでなくどこの国でも、自分の国、国民の歴史を直視し、忘れないようにしている。
VindmanからMandelker女史と見てきた。それぞれの歴史が感じられて興味深い。
誰かが正しく、誰かが間違っているわけではない、そこに歴史が事実としてある。

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