【沖縄の地鳴り】

トランプの影

  ―― イーブサカッティー、シーブサカッティー

平良 知二

 トランプ大統領の支持者が米国・連邦議会(議事堂)に乱入した。前代未聞である。警備陣との衝突で4人(あとで5人になる)が死亡し、上下両院の議員たちは散り散りに逃げ惑った。
 その日のニュースで知り「いくら何でもそこまでやるのか」と驚き、トランプ大統領への不信は極限に達した。支持者に議事堂へ行くよう仕向け、バイデン氏の当選は問題だと議会に圧力をかける。大統領は乱入の現場にいなかったとはいえ、事件の先頭に立っていたのである。尋常ではない。

 大統領選の結果が出てからもトランプ氏は負けを認めず、「不正選挙」を言い募り、裁判に訴えるだけでなく何かやりそうな雰囲気を醸し出してはいた。昨年12月15日の大統領選挙人による投票でバイデン氏の当選が確定し、これでトランプ氏も黙るしかあるまい、と思っていたが、すぐ次の照準を上下両院による「当選認定」議会に定め、その日(1月6日)に議事堂近くで大きな集会をやると宣言していた。
 まだまだやるつもりかとあきれていたが、集会開催となれば熱狂的な支持者が多いだけに突発的なことも起こりかねない。危惧もしていた。が、こういう事態になるとは予想もつかなかった。

 4年前、トランプ大統領が誕生してまだ1カ月、筆者はこの欄で「イーブサカッティー、シーブサカッティー」の大統領、と評したことがある。沖縄方言なのだが、友人や知人の助言、諫言を聞かず、自分勝手に言いたい放題、やりたい放題をいうコトバである。
 「米国第一」を掲げ、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、オバマケア(医療保険制度改革)の撤廃、不法移民阻止の壁の建設など従来の政策を矢継ぎ早に変える時、他国など相手を非難、罵言、嘲笑し、混乱を招きながら進めることが目立った。自分勝手だなと眉をひそめたものである。

 「就任1カ月足らずでこれだけ反響を呼び、世界の目を釘づけにするのは世界的指導者といえどもめったにないだろう。その意味ではすでに歴史に残る大統領と言えなくもない」と皮肉的に書いたのだが、ほんとに歴史に残る事件を起こしてしまった。

 カリフォルニア州の知事も務めた映画俳優のシュワルツェネッガー氏は「公平な選挙の結果を覆そうとした。人々を嘘で惑わせ、クーデターを試みた」「最悪の大統領として歴史に刻まれる」と酷評している。大統領の肩を持っていた共和党の議員も、この事件があっては擁護の余地はなく、トランプ離れが激しいという。

 しかし、20日のバイデン新大統領就任式まで何が起こるか、まだ分からない。トランプ支持者の間で就任式に向け、全米各地で武装デモを実施する動きが出ているという(12日現在)。武装デモとはまた怖い話である。4年前もトランプ大統領の就任に抗議するデモがワシントンであり、200人余りが逮捕されたのだが、そのデモは抗議のための抗議というものであっただろう。しかし、トランプ支持者の集会、デモは破壊行動に移る危険性を帯びる。いつの間にか、そう危惧せざるを得ないアメリカになってしまった。4年間の大きな変化である。

 沖縄での米軍の横柄さ、沖縄防衛局を通して是正を訴えるも何ら変わらない米軍の行動に、正直、抗議も“枯れて”しまう思いを抱いてきたのが沖縄の実情だ。「辺野古新基地」埋め立て問題など、この大統領ならあるいは、と破天荒に期待をしなかったわけでもないのだが、沖縄については遂に素通りとなった。

 今後はバイデン新政権の動きを見ることになるのだが、「トランプの影」が長く伸びていきそうな気配もある。アメリカは分断されてしまうのだろうか。影の影響が地球規模に広がるのだろうか。コロナ同様、「~の後」の時代に入る。

 (元新聞記者)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧