【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】(35)

サングルポットとカッドゥルパイの冒険㉚

吉川 佐知子

 それから海の魚族はみんなあの日からジョン・ドーリーの性格が変わってしまった事―これだけは書いておかないと、彼は家族の一人である事―それからもずっとそのように思われるようになりました。

 サングルポットとフリーリーはその日に見た不思議な光景にすっかり打ちのめされてしまっていましたから、アンが起き上がってほぐれ花さんはどこと聞いた時、やっと夢から目覚めたようです。
 けれどほぐれ花はすぐ近くで隠れていましたから、アンの所へ走り寄り手を差し出して、“私達お別れしなくちゃならないのよ。友達のカッドゥルパイがメッセージをよこして来て、森へ帰らなくちゃならないの”
 するとジョンは嬉しくて喜びを隠そうと後ろ向きになって隠れます。ジョンはアンがナッツ達を愛しているのがとてもいやだったのです。

 “でもあの小さなオベーリアはどこ?”とアンが尋ねます。
 “眠っているわ”と云って光る貝殻を持ち上げると、小さな赤ん坊がぐっすり眠っています。
 “それじゃ私が預かっておくわ”とアン“あなたが可愛がったように私も大事にお世話するわ”
 “でも”ほぐれ花は叫びます。“私が連れて行くわ”
 “地上に”アンとフリーリーは一緒に叫びます“死んでしまうわ”とおそろしそうに云います。

 “死ぬ?”ほぐれ花はあえぎながら云います。
 “殆んど確実に”とアン“そう確実に”とフリーリー
 “それじゃサングルポット、私達ここにいましょうよ”とほぐれ花
 “僕は出来ないよ、カッドゥルパイは僕の兄弟だからそこへ行かなくちゃ”
 “私も! 私も! 行きますよ。でも早くすぐ行きましょう。それでないと私の心は張り裂けそう”とほぐれ花

 そこでみんなは大きな釣針があった場所へ行きました。
 そこには釣針が綺麗な砂の上に大きな影を落として下がっていました。
 黙ったまま彼等はアンにキスをしてジョンと握手をしフリーリーと抱き合い、アンの腕の中で眠っている赤ちゃんにキスをしました。
 それから釣針につかまりました。ほぐれ花が小さなオベーリアの方を振り向くと眼を開けてほぐれ花の方へ手を出します。
 “おぉ”ほぐれ花は叫び飛び降ります。“私は行けない”
 “私は行けない”そして赤ちゃんに駆け寄りアンから受け取るとぐっと抱きします。“さよならサングルポット、さよなら”とすすり泣きます。

 それから大きな釣針はゆっくりとのぼり始めます。高く高くのぼり始めてだんだん小さくなり遂に見えなくなってしまいました。
 海上まで出るのはそれは長い道のりでした。サングルポットは釣針にしがみついてやっと太陽の照る海の上へ放り出されましたが目が眩んで見えません。空中はとても明るく水中から出て来るとすっかり目が眩んでしまったのです。そしてほぐれ花を置いて来てしまった事の悲しみやらカッドゥルパイに会える楽しみやらで、すっかりサングルポットは弱気になってしまい、また海へ帰ろうと飛び込もうとした時、大きな手に抱え込まれます。

 “カッドゥルパイでしょう?”サングルポットは目が見えないのです。
 “ハッハッハッ”と大きなダミ声で笑いながら“カッドゥルパイと思ったのか? え? ハッハッこれはうまい冗談だよなハッハッハッ”
 サングルポットは震えました。あの声は誰だか知っているのです―あれはキャピテンだ―あの悪者のバンクシャー。

 “カッドゥルパイ カッドゥルパーイ 助けて 助けて カッドゥルパーイ”サングルポットは呼び続けます。誰かがこの声を聞いてくれるようにと力一杯叫びます。遠く離れた杭の上に鵜が夫の鵜のそばにとまっていました。彼はかすかに聞こえるその名前を知っていましたから次の杭に座っている鵜に報せます。するとまた次の杭にとまっている鵜に報せます。次々に杭の鵜に報せていくと“カッドゥルパイだ”みんな金切り声を上げます。どの鵜も鳴き叫びます。それはまた杭から杭に瞬く間に伝わります。

 (詩人)

(2022.4.20)
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