【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】(16)

サングルポットとカッドゥルパイの冒険⑪

吉川 佐知子

 “あの肥ったナッツらを日干しにしてやろうぜ”と怒った声。
 “それはいい”“そしてあいつらが大好きなトカゲを殺してしまおう”と蛇夫人の恐ろしい声。

 ほぐれ花はこんな震えるような怖い話を聞いて髪の毛が逆立ちました。この蛇の住む道はひどく寒く、ほぐれ花はがまんするまえにくしゃみをしてしまいました。蛇夫人がドアのそばにさっとやってきて、そこにほぐれ花がいるのを見て驚きのあまり睨み付けてじっとしています。小さなほぐれ花は震えながら地べたにへたりこみました、手はごみだらけです。突然彼女はあることを思いつきました。

 両手一杯ごみを掬い取ると蛇夫人の目をめがけてぱっと投げつけました、そして飛び起きて走りました。上り坂ですが、でも走ります。
 息が切れても走りに走ります、ひざはがくがく、でも走ります。彼らが追ってくるのが聞こえたのです。とうとう一番で追いつかれることなく脱出して苔の上に倒れこみました。

 彼らは追ってくる! すぐ後ろに! ほぐれ花はなんとか這いながらガムの落ち葉の下に苔のようにして隠れます。バンクシャー達が穴から急いで出てきます。
 “彼女はここからはでてないな”一人が言うと“あの道に隠れてるんだよ”ともう一人が言います。“多分あの枯葉の下だよ”と三番目の声。

 ほぐれ花は飛び上がりそうになりますが、息をこらえます。
 “何事だ!”とだれかが言います。“蛇夫人だよ;彼女を見つけたいそうだ、行こうぜ”そして彼ら叫びながら地面の下へ降りて行ってしまいました。
 大変な目にあったのと走り回ったのとで長い眠りに入っていたほぐれ花は、大きな灰色のポッサムの足音で目が覚めます(彼らは夜のおまわりさんです。夜でも目が見えるからです)。

 “しっー!しっー! 何をしてるんですか?”そこでほぐれ花は何もかも話します。
 “ではあのドアを見張ってますから ナッツに知らせてあげなさい”と言って付け加えます“一緒に行ってあげたいのだけれどもうすぐ明るくなるから;そうしたら寝る時間になるから”
 “ええ 私は蟻さんに聞いてみます 丁度ミルクをあげる時間で集まっているでしょうから”と言って大急ぎで行きます。

 丁度日の出の頃、町につきました。だんだん暖かくなって、素敵な音やいい香りがします。もう通りは混んでいました。忙しい蟻さんたちはあちこちへ走り回っています。ビートルたちもそれぞれ働いていますし;愉快そうなナッツや綺麗な花たちが歩いてたりおしゃべりしていたり;木こりが暗いところで働いていたり、誰もかも忙しそうで幸せそうです。

 哀れな小さいぼろ花は心配で悲しくなりました。誰がこんな私の話など聞いてくれるでしょう? そう、自分で何もかもやらないとだめ。でもどうやって? 彼女は懸命に考えました そしてあるプランを思いつきました。
 森の後ろのほうを眺めまわして蜘蛛の糸を探します。今日は雨ではないので蜘蛛の糸を借りることにしました。それから大急ぎでリリー・ピリー映画館へ向います。
 あの美しいチケットを思い出すと涙があふれてきます。でも彼女は泣き虫の子供ではありません、それで涙をぬぐって次の仕事に取り掛かります。

 まず劇場の高いビルの屋上によじ登ります、随分時間がかかりましたが;それから屋根に穴をあけて光を入れるようロープの端をしっかり結びつけます。誰も気が付きません、蠅が止まっているぐらいにしか見えません。
 恐ろしく長い時間を我慢してからやっと人々が入って来ました。彼女は高いところから、入ってくる人たちを眺めながら、やっとサングルポットとカッドゥルパイを見つけました。彼らはすぐ下の壁際にいます。丁度ショウが始まる時間です。

 親切な年寄りのトカゲさんは日向で居眠り、そしてその後ろ、暗い影の中に蛇夫人の嫌な目が光ってます。悪者のバンクシャーのふさふさした頭がみえます。
 小さなほぐれ花はトカゲさんを起こしてあげたくて声をかけたいのですが、あの悪者どもに見つかってどこかへ場所を変えてしまうだろうと心配で、それもできません。

 明かりが消えていよいよ始まります。
 奇妙なナッツにみんな大声で笑っています。今だ 彼女は大急ぎでロープをサングルポットとカッドゥルパイの頭の上に垂らして降りていきます。“しー静かに”彼女はささやきます。
 “私に観させてくれないかしら あなたの代わりに 私は一度も映画を見たことがないの お願い!”

 (詩人)

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