【投稿】

コロナで蟄居 物捨てる日々と千代田区民としての意見

仲井 富

◆ 異形性狭心症から不正脈 心臓弁膜症へ

 小人閑居して不善を為すと言われるが、徘徊老人は、このところのコロナ騒ぎで、閉門蟄居のような日々を送っている。何しろ病もちの老人はもっとも危険といわれ、人からも外に出てはダメ注意される。

 四国歩き遍路の時代の2004年ころ、夜中に突如、左心臓の辺りがえぐるような痛みに襲われた。同じマンションの一階に九段クリニックという診療所が入ったころだ。院長の林先生の診察を受けたが、心臓に欠陥は無いといわれた。しかし胸痛はしばしば起きる。24時間心電図をかけた検査の結果、「貴方の心臓は異形性狭心症といい突然死の恐れもある病」と診断された。それ以降は四国歩き遍路はもとより、どこに旅してもニトログリセリンを首にかけて365日すごしている。

 しかも3年前から便秘を原因とする不整脈が発生するようになった。同じころ弁護士のH先生、70代後半の元飛鳥田市長時代の友人O君の二人が同じく便秘で苦労するようになった。私は便秘三兄弟と呼んで情報交換をしてきた。ついにH先生は浣腸薬により日常を過ごし、友人O君は2、3日に1回のひまし油飲用によってしのぐ日々となった。私は今年1月、医師の診察によって不整脈の原因として、心臓弁膜症と診断された。半年に一度くらいの検査で悪化すれば弁膜症手術もありうると宣告された。

◆ コロナ様 お陰で進む死に仕度

 その時期に、今回のコロナ騒動である。本来の異形性狭心症に加えて、この不整脈と心臓弁膜症では、コロナにかかればひとたまりもない。と思ったとたん、急にこの機会を利用して、6畳一間くらいのマンションの一室に溜め込んだ、砂川・安保闘争以降の基地闘争関係の資料、さらに1970年以降の公害研関係の資料などを捨てようと思い立った。もとより過去にも何回が整理し、住民運動関係の資料の大半は、立教大学の社会共生センターに所蔵されている。それでも自分で持っている資料はたくさんある。これを日々捨てることを日課とするようになった。本や資料、写真、手紙、日記帳、手帖、衣類等々、恐ろしく溜め込んでいたものだ。

 徘徊老人と自称して全国を駆け巡り、面白そうな人と会うことを唯一の趣味にしてきた。蟄居するなど苦手に決まっている。だが始めてみると誠に日々楽しくて、やめられなくなった。よくも溜まったものだと思うくらい捨てるものが出てくる。コロナのお陰で、このマンションに住みだしてから37年間の溜まりに溜まったものを思い切り良く捨てられる。かかったらコロリと逝くのだから捨てる意外にない。「コロナ様お陰で進む死に仕度」というところだ。

◆ 独居老人に多い孤独死 溺死・溺水死8千人を超える

 独居老人は突然死が多いことも考えなくてはならない。入浴中に亡くなる人は年間1万9千人との推計もあるが、人口動態統計(2017年)によれば、1年間で「不慮の溺死もしくは溺水」で亡くなった人は8,163人となっている。一方、2019年における全国の交通事故死者(事故発生から24時間以内に死亡)の数は3,215人となっており低下し続けている。

 直近には加藤宣幸オルタ前代表の急死がある。私の住むマンションでも風呂場で倒れて亡くなった会社社長が二人居る。かつて社会党本部に居たころの先輩久保田忠夫さんは風呂場で倒れて即死。1970年以降の公害研で『環境破壊』の編集長だった奥沢喜久栄さんも、猫の看病に疲れて、猫は元気になったが本人は風呂場で溺死した。2011年11月79歳で亡くなった。
 彼女は常々「私は献体をしているから亡くなっても人に迷惑はかけない」と言っていたが、溺死となると警察で死因を調べるために身体にメスが入る。すると献体は無効となって家族や親戚が葬儀をやることになる。親戚の姪や甥がえらい苦労した。生まれは自分で選べないが、死に方だけは自分で選べると思っていたが、人生万事うまくいかないのだ。

 1950年からの社会党岡山県連の時代、1年遅れで入った中山敬弘さんとは、ともに当時の左派社会党の日刊新聞社会タイムスの配達を2年間やった。安保闘争後上京して社会党本部機関紙局を経て、1970年の首切り時代に、全電通機関紙局で活躍した。その後全電通推薦で埼玉県坂戸市の市議として連続当選したが、2010年4月後援会の席上、挨拶をしている最中に倒れて77歳で急死した。後で妹さんに聞くと体調を悪くして医者に通っていたそうだ。砂川安保闘争から公害研の時代、多くの先輩、友人が亡くなったが、驚くべし、突然死の数は30名を超える。

◆ 千代田区長の高級マンション不正入居とコロナ騒ぎ

 私は千代田区の貸しマンションに積みついて37年になる。しかし川崎市から正式に移住して区民となってまだ4年あまりだ。国会や各省庁、大企業、新聞社など多くが事務所を置く。昼間人口は約85万人、夜間人口は約5万8千人と都区内ではダントツの財政力で公的施設の充実も都内第1位だ。
 その反面、企業の誘致やマンション建設で膨大な利益を得る企業と一体となった区行政がいま糾弾されている。それが千代田区長の半蔵門の高級マンション不正入居問題だ。共産党の議員の告発で、議会は右往左往、さすがに2月議会で、公明、都民ファーストの3議員は採決に参加しなかったが、全会一致で百条委員会にかける事が決まった。大企業のお先棒を担いでいることが明らかとなった現石川区長の指導力が低下している最中、コロナ騒ぎが起きたわけだ。

◆ 千代田区のコロナ対策に抗議行動

 千代田区のコロナ対応は一言で言えば、形式的には公的施設の全面閉鎖などで、格好はつけたが、中味はまことに官僚的、形式的である。たとえば4月の半ば、いつも土日夜間も開いていて、いざと言う時はすぐに駆け込んで診察を受けられていた千代田保健所が閉鎖されている。連絡先として090にはじまる電話番号が小さく掲示されていた。そこへ電話したがいくら鳴らしても通じない。しかも10秒間に10円いただきますということからはじまる。悪名高い郵便局の不在配達用と同じやり方だ。

 もう一つ、九段坂病院と併設されている老人センター「かがやきプラザ」もコロナ発生とともに閉鎖されたが、お風呂だけは入浴可能だった。ただし入場前に看護婦が体温検査をして37度を越える人は入浴できない。当然の措置である。ここを利用していた、私と同じマンションの全盲の近藤さんも、唯一の楽しみは1日一度の入浴だった。しかしコロナが拡大すると2日に1回とされた。そのうち突然風呂場も閉鎖してしまった。近藤さんには事前の連絡も無かった。
 4月の中ごろ、私と近藤さんは区役所の保健福祉部と保健所に怒りをぶつけた。それぞれの担当課長に「自分で電話して見ろ。何も通じない緊急電話など何の役にも立たない」、そして近藤さんに何の連絡も無く風呂場を閉鎖したことに抗議した。担当課長が自ら私たちを保健所に案内してくれて、保健所の課長にも「いくら電話しても通じない」ことに抗議した。

◆ ホームページで事足りるという老人・障害者など弱者無視

 4月の後半からは、いくつかの点で改善が見られた。電話は普通の03で始まる連絡場所が明記された。しかし風呂場の再開はいまだに実現しない。
 千代田区のコロナ患者数は4月10日現在40名程度だが、実際に感染した時、どこで治療を受けられるか判然としない。大相撲の力士が、どこに電話してもつながらず、ついに救急車を呼んだが手遅れで死亡したことが、緊急の対応の遅れとして批判された。

 5月連休明けに千代田区保健所に電話し、コロナに感染しているかもしれないという人を九段坂病院で診てくれるかと訊いた。すると九段坂病院では診ないという。ではどうするのか問うた。「千代田区医師会に電話すれば、どこかの医師・医院を紹介してくれることになっている。その医師のところで診察して貰えるから詳しくはホームページを見てください」と担当者は言った。
 千代田区役所の幹部も職員もホームページに載せればすべて責任を果たしたつもりだ。彼らは盲目の人や、目の悪い人など身体障害者、パソコンなど使えない老人のことなど眼中に無い。一番必要な情報が弱者に伝わらないという想像力のカケラもない。箱物はたくさん作ったが「仏作って魂入れず」とはこのことだ。

 友人の小枝すみ子区議のニュースによれば「昨年来、問題提起している150億円に膨れ上がった、不要不急の四番町の複合施設は、コロナの陰で説明会もしないで、そこに住む高齢者に早く引っ越せ、引っ越しのコンサルを1,400万円で委託したから相談はそちらに・・・と、ドブにお金を捨てるようなことを続けています」という(ちよだの声メール35号)。

◆ 赤外線検温器さえ導入しない区役所
 箱物には150億円を投じているのに、各地の企業などが設置している、37度以上の発熱が確認できる赤外線サーモグラフィー測定(検温)装置などを設置することなど念頭に無い。泰国に在留する友人のメールによれば、すべての公共施設や、スーパーなどは自動検温器が配置され、店頭で37度以上のものは入場できないという。値段は1万円くらいからあるのに、千代田区役所の役人は、そういうことさえ念頭にないらしい。
 たとえばこれを区役所の入り口に設置すれば、少なくとも区役所内の図書館や事務所や区議会に危険を及ぼすことを避けることができる。公的施設を閉鎖すればすべて事足りる、後は「区所のホームページをご覧ください」という弱者無視の千代田区政の在り方こそ糾弾されるべきだ。

 (公害問題研究会代表幹事)

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