【コラム】
あなたの近くの外国人(裏話)(24)

インド人街と東京ベイ・インターナショナルスクール(1)

坪野 和子

 入試、就職試験、卒業。日本の3月は若者たちがもっとも活動的にみえる季節だと感じます。そして、梅や桃の実りある花が美しい。花粉が飛散すること以外はとても良い季節です。
 今回は、東京のリトル・インディアの裏事情と、この4月からインターナショナルスクールを開校させるインド人ご夫妻とその学校にまつわる話。

◆ 1.東京インド人タウン「カースト下剋上」か?

 東京のインド人密集地は江戸川区葛西を中心とした東西線・都営新宿線・総武線沿線であることはよく知られていると思います。東西線は千葉県市川市から東陽町まで、都営新宿線は千葉県本八幡から菊川あたりまで、総武線は千葉県船橋あたりから錦糸町まで。以前は葛西周辺だけでしたが、エリアが広がっていきました。

 日本語メディアでは江戸川インド人会会長チャンドラニさんのコメントの説明が広まっています。IT企業に勤める人が多いため、交通の便が良く、UR住宅や都営住宅が手ごろで家族で住みやすく家賃が安い。ここまでの説明は10年前から変わりません。ですが、10年くらい前にインド人向けのインターナショナルスクールが瑞江にでき(現在は葛西に移転)、奥さんがお子さんの送り迎えがしやすい瑞江や船堀や一の江に引っ越ししてきたご家庭が増えていきました。
 今はインドに帰りましたが、私の仲良しの友人もNHKに勤めていた旦那様とともに船堀の都営住宅に引っ越しししてお子さんの送り迎えをしていました。旦那さまの通勤は乗り換えが増えましたが。お子さんの教育のための引っ越しラッシュがエリア拡大の一因となりました。

 そして、IT企業そのものもこのエリアに引っ越ししたり、インド人そのものによるIT企業の起業、人口増加により、インド人によるインド人のための空輸新鮮青果販売などの日本人相手ではない商売をする人たちも増え、かつての三河島界隈のコリアンタウンにも似た発展をしていきました。人が増えれば、「インド人」という括りで仲良くできていたものが出身地や宗教やカーストなど現地の事情を持ち込みはじめて、面倒くさい人間関係も出てきました。送り迎えのおかあさまたちの「ママ友グループ」「ママ友いじめ」もあったりしたらしく、国・民族関係なく女性同士のありがちな話を耳にします。

 またこのエリアでビジネスしている人たちは「このカーストは雇わない」と自分より高いカーストの人を従業員にしなかったりします。もっとも低いカーストの人はインド人ではなくネパール人やフィリピン人やスリランカ人を雇っているようです。カーストが低くて日本に住んでいる人はインドで差別によって住みにくい難民に近い人、カーストが低くて学業優秀だとインドでは優先的にトップクラスの大学に入れて、現地からみて外資系企業に入って、派遣や直接雇用で日本に住むことになった人、その両方の理由の人たちです。

 もっとも低いカーストの友人は「〇〇…ダメだ。カーストが高いこと以外役に立たないことを知らない。国内でしか通用しないものを引きずっているから」。○○の名字本人はとても好青年ですが。そして○○はインド国内で名乗って本当のカーストではなく、先祖のいずれかに○○がいたから名前を変えた人も少なくないそうです。どうやらこの界隈ではカースト下剋上となっているようです。東京のインド人街が葛西から大島の団地に広がっていく中、人の心には垣根ができてしまったようです。

◆ 2.東京ベイ・インターナショナルスクール~垣根のない広い視線を持つ人間育成~

 インド人、タミルナドゥ州ご出身のジャヒル・フセインさん(ご主人)とヤスミン・ニガール校長(奥様)にお会いし、学校見学をしました。場所は亀戸や大島に近い広がったインド人街に近いところです。彼女らは幼稚園から高校までの一貫校を目指しているインターナショナルスクールを4月開校予定しています。
 理念として、どこの国でも通用するバイリンガル教育(英語はアメリカ人などネイティブ講師)、進路実現。また、最先端の工学を楽しめる理科室「未来研究室」やインド数学、ディベートや演劇など表現力を育成する課外活動、日本文化理解、体育にヨガを取り入れ、ケンブリッジ・インターナショナルスクール認証などご自分たちの夢をすべて実現させたい意気込みが伝わりました。

 5階建てのビルすべて改装し、特に幼稚園や低学年向けのトイレの気配りと理科室と多目的教室が、まだ設置中にもかかわらず秀逸な発想のもとに考えられたつくりとなっていることを感じました。また、この学校の必要な情報だけを載せられたパンフレットを私の周囲に見せると、いや、私自身も学費の安さに目がいきました。「インターナショナルスクールなのに安い!」
 私から「インターナショナルスクールといえば、日本に住む外国にルーツを持つご家庭の一種のステータスになっているほどセレブなイメージなので、高くてもいいんじゃないですか」と訊くと「多くの人たちに入ってもらいたいんですよね。普通のインターナショナルスクールは敷居が高いからまず安くしました。いろいろな国の人たちに入ってもらいたいし、宗教やろいろな差別を受けてきた人たちの子どもたちにも平等な教育機会を与えたいんですよ」

 ああ!! わかった!! このお二人が歩んできた人生…1997年にジャストシステムの社員として来日し、様々な事業を展開していらしたご主人、ご結婚されてもお仕事を持ち続ける奥様(インド人だと高学歴であっても専業主婦になるもったいない女性が多い)このお二人が日本で学校をはじめた理由がわかりました。
 「インドでは、貧しい階層のひとたちや、ムスリムなどのヒンドゥ教徒以外の宗教を持つ人々の、子どもたちの教育機会がまだまだ足りていません。それも助けたいですね」

 続きます。次回はこのご夫妻の歩んできた人生と開校した学校の様子をお伝えします。

●東京ベイ・インターナショナルスクール Face Book ページ
 Tokyo Bay International School, Japan
  https://www.facebook.com/tbisjapan/?__xts

 (高校時間講師)

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