【コラム】
あなたの近くの外国人(裏話)(28)

インドネシアから来た豚を食べる日本人の配偶者たち

坪野 和子

 数年前、汐留駅の近くを歩いていたら、日本語で「浅草はどう行きますか」と、インドネシア人の家族連れの男性に道訊きされました。びっくりしました。日本語で道訊きする観光客がいるんだ! その日本語はガイドブックでローマ字で書かれた日本語かしら? それとも現地で第二外国語で習った日本語かしら? インドネシアでは、日本語学習者数がとても多く、2015年の統計では約74万人とされています(※ただしこの統計は日本政府が把握している数なので正確性を欠いています)。
 インドネシア人に道訊きされたのは2度目です。25年くらい前でした。その時は最初、現地語でわからなかったので「pardon me」と返したら英語で訊き直しました。おそらくこの人は私が日本に住んでいる中国系のインドネシア人と思ったのでしょう。そして今、EPA経済連携協定による介護士・看護師を目指すインドネシア人たちが増加し、技能実習生で介護現場に入ってきている数十人、いづれ日本に来るであろう特定技能1号の人たち。これらの人たちは宗教の違いがあるから、特に女性は日本人と結婚しないだろうな…と思っていたら…いるわ、友達で!! 日本人と結婚している人が!! なぜなら…。

◆ 1.「島から島へお嫁に来たわ」

 姐御肌で世話好きで、いつもいろいろな国の友達に囲まれて、カラオケ大好きで技能実習生に日本語を教えているジャワの近くの小さな島出身の女性。日本人男性と年の差婚をして20年は超えています。彼女の日本語は「男言葉」。本人、それが正しいと思っているらしく、しかも日本語を教えているので周囲の日本人はひやひやしています。さらに「自分の言葉で教えるほうが早く覚えるだろ」…確かにそう言えなくはないのですが。やはり彼女の生徒がやらかしました。
 ある会社で実習生ではなく研修社員として入った男性は、社長が新しいプロジェクトをはじめると言ったら「やればいいんだよ。お前ならできるよ。やってみろよ」…誤解が生じました。この男性が敬語を知っていればこう言うはずです。「ぜひともお進めください。社長なら成功しますよ。実行されたほうが良いと思います」。社長さんは「やれるものならやってみろ」「できないよ」というニュアンスで捉えたようです。

 彼女の話しに戻りますが、彼女とフィリピン人数人と日本人数人とペルー人でカラオケ女子会に行ったときのことです。彼女の歌唱力もすごいのですが変え歌もすごかった。「瀬戸は日暮れて…」「島から島へお嫁に来たわ」…んん!! うまいこと言う。インドネシア人と日本人の「島国根性」はどう違うのかしら?? さらに「あなたが欲しい、あなたが欲しい」を「お金が欲しい、お金が欲しい」とみんなを笑わせました。
 ある日、「みんなで夕飯食べよう」と誘われました。日本式中華です。あれ?? メンバーに若いアメリカ人の男の子がいて「教会の友達」。ああ!! クリスチャンだったんだ!! そういえば、以前もらったシリアルバーに豚由来の乳化剤が使われていて、あれ??って思いました。そういえば彼女は中国系。美味しそうに豚肉を食べていました。

◆ 2.ケチャのようなパワフルなバリ出身の男性

 バリ島でケチャと呼ばれる総合芸能は日本人にも馴染みがあると思います。2012年、日本語スピーチコンテストで知り合いました。彼は市長賞を受賞しました。スピーチの内容はバリ島の話しでしたが、それよりも彼のデリバリーのうまさが印象に残りました。手がまるでバリ舞踊! 現地の人の仕草が伝わりました。明るくて元気でそこにいる人すべてを和ませる人柄は、スピーチだけでなく、スピーチ終了後のパーティーでも元気でした。オードブルのソーセージを美味しそうに頬張りながら。

 翌年はこのスピーチコンテストで司会をしていました。原稿チェックではシリアスな面が伝わりました。4年ほど会っていないのですが、ネットでは相変わらず彼の周囲の人たちは楽しそうです。
 日本人の奥様によれば、バリの観光ホテルで仕事をしていたそうですが結婚で来日。当時はアルバイトをしていましたが、永住権を得たらゴルフ場の仕事かプロゴルファーかスポーツインストラクターになりたいと言っていました。どうもプロフィールを見たら当時アルバイトしていた飲食店でマネージャーになっているようでした。元の仕事を活かしているのでしょう。ソーセージを食べていたのを思い出したら、ああバリはヒンドゥ教だったわ!!

◆ 3.私は自由

 国際交流学習の出前授業にコンビで行った、見た目が可愛い、私より背が低い(140cm台)女性。ジャカルタの出身です。学校側が給食を一緒に児童と食べて欲しいと。え? インドネシア人だからなあ…。彼女、ニコニコ笑って「私は何でも大丈夫です」あ…ムスリムじゃないんだ…とその時は思いました。
 彼女は大学時代、オーストラリアに留学し、日本人男性と恋に落ちて結婚しました。お姑さんが厳しいかたのため、先述の「男言葉」の女性とは対照的にすべて敬語です。ビジネス日本語もこなしています。イメージとして旅館の女将さんみたいな女性です。可愛らしさとギャップがあります。しかもご主人とともに起業して、日本企業に外国語の研修教師を送る会社をやっています。

 先日、所用があって電話しました。私の質問に答えてくれただけでなく、彼女の側にもウルドゥ語の先生を紹介してあげるメリットがありました。その話の途中で、「私は自由。私は無宗教。親は敬虔なイスラム教徒だけど。何者にもしばられない。宗教にもしばられない」「ああそう言えば一緒に給食、豚が入っていたのに食べていたものね」。

 私はステレオタイプになっていたのだと自分自身に気づきました。そして島国で生まれ育ったのに、陸続きのヒマラヤ圏が基準になっていたので、スリランカ、インドネシア、フィリピン、マレーシアの文化と人々の多様さがわかっていなかったのでした。
 Asia is not one!! 岡倉天心さん、ごめんなさい。
 次回は「カレー屋」さんたち

 (高校時間講師)

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