【コラム】
酔生夢死

アメリカ初の社会主義政権

岡田 充

 「ド素人のたわごと」と思ってほしい。ことし11月の米大統領選で「資本主義の総本山」のアメリカに、社会主義政権が初めて誕生する。政権率いる大統領は78歳の民主党のバニー・サンダース上院議員。再選を目指す共和党のドナルド・トランプ大統領を僅差で退けたのである―。
 これが現実になるには、民主党予備選でサンダースが勝ち、本選でもトランプを破るという二つの高いハードルを越えねばならない。でも予備選第2戦のニューハンプシャー州で、サンダースは中道派の若手候補ブティジェッジの追撃を退け勝利した。4年前の予備選でヒラリー・クリントンに肉薄した時と比べると、支持率に陰りはみられるが最後まで予備選を争うだろう。勝ち残る可能性は十分ある。

 「社会民主主義者」を自認する彼の公約は一見、過激だ。「学生ローンはチャラ」、「国民皆保険」に「国民皆雇用」。財源は、富裕層や企業増税によって、10年で14兆ドル(約1,540兆円)を確保する―等々。
 アメリカの経済格差はハンパじゃない。最も裕福な1割が家計資産合計の7割を占める。
 医療費は日本の3倍、約7割の学生は平均3万ドル(約310万円)の「学生ローン」を抱え、就職後は返済に苦しむ。日本も同じ。
 多くの国の選挙で勝敗のカギを握るのは、世代別では20歳~40歳の「ミレニアル世代」。サンダース支持層も、学生など若者や、貧困にあえぐ非白人層が多い。

 「アメリカに社会主義なんて、そんな極端な」と考える人もいるだろう。しかしサンダース流の社会主義は、「マルクス・レーニン主義」とは違う。「反格差」であり、公正な分配を主張する「社会正義」(ソーシャル・ジャスティス)である。アメリカの歴史を見ても、ニューディール政策など「社会主義的」政策の伝統は一定の役割を果たしてきた。
 「極端」というなら、トランプの存在自体が極端そのもの。まるで「三流役者」がイリュージョニスト(手品師)を演じているみたいだ。メキシコ国境に壁を築き、イラン核合意や温暖化防止の「パリ協定」から次々と離脱、「悪の枢軸」のはずの北朝鮮の金正恩・労働党委員長と握手した。

 はっきりしているのは、第二次大戦後に米国が主導してきた、民主と自由貿易を基礎に軍事、経済、価値観のすべてでリーダーシップをとる秩序が崩壊したこと。サンダース政権になれば、大きくスイングした「振り子」が戻ったからといって、米主導秩序は帰らない。
 突拍子もないことを思いついたのは、アカデミー賞で、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が、外国語映画で初めて作品賞を獲得した時だ。家族全員が失業中の一家が、隣の裕福な家庭に巧みに寄生していく物語。格差社会に窒息しそうなアメリカ社会の気分を代表授賞。そういえば「#MeToo」(ミートゥー)も、アカデミー授賞式から広がった。

画像の説明
  民主党予備選で演説するサンダース氏

 (共同通信客員論説委員)

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