【コラム】
酔生夢死

アメリカの伝統的な「病」

岡田 充
 「専制主義が未来を勝ち取ることはない。勝つのは米国だ」。バイデン米政権の誕生から5月末で3か月、彼の連邦議会での施政方針演説(4月28日)は、世界のトップリーダ―からの転落を認めず、外敵(中国)を求めることによって団結を図る米国の伝統的な「病」を際立たせた。
 大統領就任以来、彼は中国を「唯一の競争相手」と位置付け「民主主義と専制主義の争い」と米中対立を煽り続けてきたから、中国に関する発言に新味はなかった。にもかかわらず日本の大手メディアは、「米国の病」には一切触れず「バイデン氏、対中国『21世紀勝ち抜く』」「中国に対抗する姿勢鮮明」などと、米中対立を軸にするいつもの切り口を繰り返した。メディアの「病」も相当深刻だと思う。

 驚いたのは中国側の反応。中国外務省報道官は、演説へのコメントを求められ「両国間の一部の分野で競争があるのは正常」とし「協力が中米関係の主流であるべき」と答えた。非難めいた言動を一切抑えた、極めて冷静な反応。中国非難ばかりを聞かされ、いい加減うんざりしたのか。

 だがこの反応には、「余所行き」臭がプンプンする。「米国のエリートたちはもはや自信がなく、小心になっている」と、本音をズバリ書いたのは、中国の国際紙「環球時報」の社説(4月29日付け)。「中国が米国に追い付こうとしている勢いに我慢がならず、『オオカミがやってくる』という心境になっている」と皮肉った。
 さらに米国の現状を「うまくいかなければ、中国の脅威を呼びかけることこそ、最も安価で効果的な政治的動員の方法」と考えていると分析した。主張には一理ある。米社会には、「神か悪魔か」「善か悪か」という二元論思考が深く根付いている。「民主主義か専制主義か」も、その延長線上にある。

 歴史を見れば、南北戦争や公民権運動など、社会的分断と政治的対立が常にあり一つに統合したことはない。だからと言うべきか、外に敵を作らないと生きられないメンタリティが支配的だ。西部劇の「インディアン」(先住民)から、共産主義者排除の「赤狩り」、日本バッシング(叩き)に、「9・11」後のイスラム過激派―。数えればきりはない。

 米中対立から始まった「チャイナ狩り」では、中国留学生・研究者や共産党員の米入国を制限し、中国語普及のための「孔子学院」の一部を閉鎖した。「二元論思考」や「外敵を求める」メンタリティに普遍性はない。にもかかわらず、米国の主張にひきずられ、オウム返しに中国非難を繰り返す日本メディア。米国の深い「病」を共有してはならない。

画像の説明
  1950年代、ハリウッドから共産主義者を排除する
  「赤狩り」を描いた山本おさむの漫画の表紙。

(共同通信客員論説委員)
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