■ アメリカに高まる在沖縄海兵隊不要論       斉藤つよし

    -斉藤つよし議員インタビュー-
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【斉藤】7月の参議院選挙が終わったあと、20日から24日までワシントンDC
に行きました。目的は一般的な議員交流と在日米軍基地で働く従業員の労働組合
全駐労と一緒に、いわゆるおもいやり予算の問題でアメリカの議員、国務省、国
防総省あるいはシンクタンクと会うことでした。

 四年か五年前の野党時代にも、ワシントンDCを訪問しましたが、今回は外務省
を通じてこういう方に会いたいという希望を出したところ、お一人がワシントン
にいないということだけで後はすべて会えました。野党と与党の差だなと感じた
ほか、8月早々にアメリカ議会は閉じるのですが、タイミングよく議会での採決
の模様まで見学し、賛否のやり取りを聞かさせてもらうという経験もしました。

 議員交流といえば日米関係が重要ですが、取り分け日米安保が結ばれて丁度五
十年であり、アジアとの関係では韓国併合百年という大きな歴史的な節目である
こと、そして我が国としては昨年、政権交代を果たしたということもあり、その
中で安全保障問題について意見交換をしたいと考えていました。

 私は十数年前にも参議院議員として議員交流で訪米したのですが、その時か
ら、アメリカと日本の議員交流はどんどん細くなっていると言われていましたか
ら、今回も不安感も持ちながらでかけました。ただ幸い、民主党の上院議員ダニ
エル・イノウエさんと昨年ハワイのホノルルの事務所でお会いして、私が訪米し
たときには是非、議員のオフィスを訪ねたいと言ったら遠慮なくいらっしゃいと
いうことだったので気安く行きました。

 それで、ダニエルさんが一時間ぐらい時間とってくれた。この方はご承知のと
おり、アメリカ上院の歳出委員長でオバマ大統領になにかあったときには副大統
領ハイデンさん、次が下院議長でその次がこのダニエル・イノウエさんというナ
ンバー4なのです。上院の歳出委員長であるだけでなく日系人で四十年ぐらいの
実績のある民主党の重鎮です。

 私としては、彼は当然政権に対する影響力があるだろうから、安全保障問題や
普天間基地移設、グアムへの統合問題、特に前政権から今政権までデットロック
になってる普天間について意見交換したいというのが大きな目的の一つでした。

 もうひとつは私が訪米する直前の7月16日に琉球新報の一面で、民主党のバ
ーニーフランクという下院歳出委員長が海兵隊を置いておく必要はないという発
言をしている。これを見て強烈に印象を受け、調べますと、マサーチュッセツの
選挙区で、二年任期の下院議員を十五回連続して三十年当選している大変な重鎮
でした。

 このかたの琉球新報の記事を読みますと、いわゆる沖縄の海兵隊だけではなく、
アメリカの世界軍事戦略についてもう一度見直すという観点で、その中の一つ
に沖縄海兵隊の問題があるというのです。是非会いたいと外務省を通じてコンタ
クトしましたら23日金曜日の午後に会えたのです。ダニエル・イノウエ議員と
は着いた日の午後一番に会い、海兵隊、沖縄問題、安全保障問題を話し、そして
帰る前日の午後にこのバーニーフランク議員と会うことが出来たのです。

 なお、このほかフランク議員と2人でアメリカの国防戦略についてもう一回点
検すべきだという共同論文を出した共和党ポール下院議員とも会いました。

 バーニーフランク議員は独自にシンクタンク等に要請して、国防戦略について
いろいろ提言を受け、ポール議員と一緒に違う論文も出しています。ポール議員
に聞くと、私は共和党の、ダニエル議員は民主党議員の賛同者を募り、増やして
いこうと一生懸命やっていると言っていました。

 こういうポール議員ともお会い出来たうえ、あのマンスフィールド財団のゴー
ドンフレイク所長や、ライシャワー研究所のケント・カルダー所長。そして日本
にいつも来られ、アジアや日本を良く理解した貴重な提言で、日本のメディアに
も再三登場するシーラ・スミスさんというシンクタンクの女性研究員のかたにも
お会いしました。

 マンスフィールド財団の所長は朝鮮半島や北朝鮮問題について非常に研究され
ており、またライシャワー研究所長のケント・カルターさんは今の民主党政権や
ルース駐日大使とも非常に近いかたです。このかたがたとお会い出来て本当に良
かったです。バーニー・フランク議員と会ったとき同席した大使館職員は、二年
間議会担当やっているがフランク議員と会うの初めてで大変良かったと言ってい
ました。ただ安保や北朝鮮問題など個々に会った話の内容は膨大で今日の主題か
ら離れるので省きます。

 繰り返しになりますが、7月16日のポール・フランク共同論文がアメリカの
メディアに大きく取り上げられ、これが琉球新報の一面に出た。それを私が見
て、こういうかたに会いたと言って、7月23日に実現したのです。終わったあ
と琉球新報の記者とどうでしかということでインタビューを受けた時の話をします。

 バーニー・フランク議員から「斉藤議員あなたは今どういう立場ですか。海兵
隊が沖縄にいて欲しいということで話に来たのか。」と本当にずばり聞かれたの
です。いやそんなことはない。あなたの国と今海兵隊の八千人をグアムへ移転を
するということになっているが、一万八千とか一万五千人とか定員があるといわ
れるが残りの海兵隊をどうするつもりなのか。グアムに海兵隊を移駐することに
ついても必要ないというのかどうか。話したいのだというと分かったということ
でした。

 そして、「アメリカ国民は海兵隊なんていうのはもう西部劇時代の遺物ぐらい
に思ってる。そういう軍事戦略の時代ではないので、ランドの部隊というのはも
う必要ない。一万五千人の第三海兵隊が沖縄にいても、どうやって中国やアジア
に対して役に立つ兵力なのか。役にたたないでしょ。」ともう端的に言われるの
です。

 まったく私もそう思います。と言った。実際、今の第三海兵隊はローテーショ
ン部隊で動いているわけで、紛争になったときに海兵隊がいっきに上陸してなん
ていう軍事戦略は元々ないわけです。ですから、彼とはある意味では考え方が一
緒なわけです。私が抑止力として必要ないと言ったのにたいして、彼が抑止力と
して海兵隊は必要ないということを明言したことが7月25日の琉球新報の記事
になっているのです。

 彼は、財政・金融の専門家で、アメリカの財政は大変だからオバマさんから頼
まれて歳出委員長になった。国家財政の観点で大統領から議会側にボールを投げ
られ、アメリカ自身の軍事戦略をもう一度見直しているのだと思います。私とし
ては、論文を新聞記事で読むだけでなく直接本人から話を聞いて確かめられたこ
とが非常に重要でした。

 確かに米国はQDRなどで見直しをしていますが、それとはまた違った形で、当
然来年度の予算にも反映してくるのではないかと思います。いろんな議員やシン
クタンクと話しましたが、もうイラク、そしてアフガンからいかにして撤退して
いくかということについては、アメリカはそうせざるをえないのだということを
はっきり言っています。

 これ以上の軍事費支出なんて考えられない。海外の基地はどんどん減らしてい
く。そして空と海はそれなりの目配り気配りが必要だが、地上の陸軍や海兵隊は
減らす。これは単純に二人の議員が言ったというのでなく、政権の中の重要人物
が国家財政の観点で言っているということに大変な重みがある。

 今度、帰ってきていくつかの日本のメディアにこのことを書きましたので、大
手マスコミにも取材に来ればいつでもお話をしますよと言ったのですが、まず上
司と相談して来ますという。そして、たいてい先生そのうち伺いますよなんてこ
とになる。そのなかで琉球新報を見たという夕刊紙の日刊ゲンダイが私の記事を
載せ、それを見た東京新聞が取材に来て、これを見て週刊朝日がインタビューし
て2ページの特集を組んだ。しかし、いわゆる大手マスコミは一切取り上げなか
った。

 エピソートを言うと、アメリカに行ってる最中に、あるTV局の旧知の記者にバ
ーニー・フランク議員と会う話をしたら、日本の公使でもなかなか会えない人で
すから是非うちの会社でインタビューしたいというのです。それでフランク議員
に、日本のメディアがインタビューを希望していると言ったらOKしてくれた。東
京へ戻って、この会社の人にこういうことだったと話したら非常に感謝された。
TV局だからインタビューして放映してくれると思って何日か待ったのですが今度
は電話がかかってきて、いろいろ相談したのですがまたの機会になんて話になっ
た。

 これはいったいなんなのだろうかと考えました。アメリカから出てくる情報と
いうのは多くの政治家がいて、沢山のメディアがあるわけです。ところが、この
普天間問題でいうと、アメリカから来る情報は、「約束したことを履行しないの
はけしからん。政権交代したあと鳩山さんが県外だ国外だと言ったらものすごく
叩く。いわゆる「ジャパンハンドラー」という特定の人達だけがいつもメディア
に出てきてこれを繰り返す。これを大々的に日本のマスコミが報道する。

 そうすると新聞やテレビ見ている国民の多くはアメリカのメッセージはこれだ
と当然思い込む。実際はそんなことはないわけです。現政権の要人であるダニエ
ル・イノウエ議員も重要な歳出委員長というポストにありますから非常に慎重で
したが、11月まで私もしっかり冷静に見ますという。11月というのは沖縄の
県知事選挙です。沖縄の県知事選挙で現知事の仲井真氏は日米合意に少し好意的
だと知っていますから、現知事が再選されるのか違う知事が当選するのかを見て
るのです。

 現時点でも、アメリカは名護の市議選挙結果だとか日本国内の政治をしっかり
見ながら、それぞれの立場を踏まえて発言している。またフランク議員の場合は
日本がどうだとかだけでなく、もっと大きい観点からアメリカ自身の考えを表明
している。
 
  我が国も確かに日米合意したことは事実ですが政権交代をしたんだし、アメリ
カ政府やいろいろな政治家の発言をしっかり分析すれば日本がどのようなメッセ
ージを国内外に出していくべきかは分かるはずです。今回私は米国側と二人きり
っで会ったわけではなく、そばには日本の外務省の公使もいて、私のやりとりは
全部本省のほうへ来ています。いずれにせよアメリカは多様なメッセージを出し
ているのですから日本はそれを分析する必要があります。

 民主党は自主投票になりそうですが、11月の知事選挙では仲井真知事でさえ
県内と言えなくなりました。私自身は伊波さんに勝って欲しいのです。伊波さん
が勝てば、内外により強いメッセージを発することになる。与える影響も非常に
大きい。そのとき、日本政府はこれを有力なカードとして活用すべきです。

 本当に大きいカードは昨年の政権交代でした。これをもっと内外にアッピール
するべきだったのです。普天間基地の危険性を除去するためにどうすべきか。も
う従来の路線ではいけないのだとアメリカに言うべきなのです。どっちが有利な
カードを持ったかといえば日本だと思います。

 そしてもう一つは海兵隊そのものがもう不必要だということになれば、グアム
の移転についても、巨額なお金をアメリカ国民も日本国民も血税から出すのです
からやり直しだということです。

【加藤】アメリカは知事選を見ているのですね。
【斉藤】そうです。ダニエル・イノウエさんも、いきなり自分が入るといろんな
波紋を投げかけるからと入り方は考えているようでしたが11月には何人かの議
員も来ます。また11月中旬にはAPECの首脳会談があり、G20がソウルで
ありますから、それぞれ首脳が行きます。そのときに対日というより、アジアに
たいしてアメリカ大統領はどのようなメッセージだすか注目されるのです。

【加藤】斉藤議員には、日本のためにも民主党のためにも、このアメリカとのパ
イプを是非これからも維持し、強くして頂きたいと思います。
【斉藤】シンクタンクの人も政権交代については、折込みずみで、驚きでもな
い。それからよく「ねじれ、ねじれ」と言うけれど、アメリカは大統領が共和党
であっても議会が民主党だとか、上院下院は多数党が違うとかとっくにいろいろ
ねじれている。
 
  勿論、大統領制と議会制で日本とは違いますけど、米国議会はいろんな経験を
していますから日本の政権交代など、びっくりする話ではない。私がシンクタン
クと話しても率直に語ってくれますし、議員交流もどんどんやりましょうと言っ
ています。なにかのときに不安定な状況になってはいけないのです。そのとき
に、政府間だけでなく、議員のパイプも、シンクタンクとの交流もあれば様々な
情報を冷静に判断が出来るのです。これは今回私が訪米した実感で同僚議員や党
にも官邸にも報告してあります。

【加藤】日本のマスコミが大きな問題のようですが長時間有難うございました。
    (斉藤つよし氏は民主党衆議院議員・国会対策委員会筆頭副委員長)

【編集部注】
この原稿は10月5日、斉藤つよし議員が民主党国会対策委員会筆頭副委員長とし
て、国会開会中の多忙な日程をさいて「オルタ」のインタビューに応じていただ
き、校閲を受けたものですが文責は編集部にあります。なお、インタービューに
はオルタ編集部側から加藤宣幸と山口希望・船橋成幸・吉沢弘久が同席しました。

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