【コラム】日中の不理解に挑む(16)

ものを申すNGO

李 やんやん


 2000年に発行された齋藤純一さんの『公共性』(思考のフロンティア)をゼミで輪読している。次の一節がある。「公共的空間における十分な議論を経るべき重大な争点について、政府与党の意思が『市民社会』によるさほどの抵抗を受けることもなく通ってしまった事態をどのように見るべきだろうか(ここでは、99年に周辺事態法、住民基本台帳法、通信傍受法、国旗・国歌法、出入国管理法の改定、団体規制法といった一連の法制化が行われたことを念頭においている)」。15年後の今、事態が改善どころか、ますます深刻になっている。「市民社会」は意志を表明しない。横のつながりとしての「水平の次元」の公共性が90年代後半以降、NPOへの認知と共に広がりを見せているが、政治に対してものを言う「垂直の次元」での公共性は、萎えたままの状態だと言わざるを得ない。

 友人がメールで、今朝の朝日新聞に載っていた中国のNGOの記事を紹介してくれた。政府がNGOに対する取り締まりと封じ込めを強化しているという記事。「李さんの本を読まずにあの記事を見れば、中国に対するネガティブイメージが増長してしまうのでは?」と友人が心配の声を寄せてくれた。このように物事を異なる視点から捉えることを忘れない方がいてくれるのは、実に有り難い。

 取り締まりの強化は、私も耳にしているし、たしかにそのような傾向にあると思う。しかし、それだけ中国のNGOが、政権にとって「脅威となりうる」ほど力が付いてきたとも言える。そして何よりも、「政権に楯突く存在」だということを示している。朝日新聞の記事を読んで、中国の圧政を憂いする皆様に是非考えていただきたい。日本のNGOとNPOを、政権に取り締まられるほどに成長させるためには、何をどうすればいいのだろうか。

 (筆者は駒沢大学教授)

※ この記事はCSネット6月号から著者の許諾を得て転載したものです。


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