【コラム】
ザ・障害者(17)

もう一つのアジア障害者国際交流モンゴル大会

堀 利和


 私が代表を務める共同連は、1984年に結成された。その理念と実践は、障害ある人ない人が対等平等に自らの能力に応じて働き、純益は賃金ではなくそれぞれの生活実態にあわせて分配し、就労を通してみんなで経済自立を成し遂げるものである。これは「共働事業所」作りの草の根の運動である。

 その後、1991年にイタリアで制定された社会的協同組合法、そして2007年に制定された韓国の社会的企業育成法に学ぶ中、それまでの「共働事業所」から「社会的事業所」へ発展的に運動方針を変えた。
 社会的事業所とは、障害者だけでなく社会的に排除された人(難病者、ひきこもり・ニート、依存症者、刑余者、シングルマザーなど)を30パーセント以上、そうでない人が共に働く事業所のことである。社会的協同組合、社会的企業ということになる。これは、社会連帯経済の分野に属するWISE(ワーク・インテグレーション・ソーシャル・エンタープライズ)とも言われる。

 共同連は95年に、韓国障碍友権益問題研究所と交流を始め、その後フィリピン、中国(朝鮮族自治区吉林省)、ベトナム、台湾と国際交流大会を開いてきた。今回はモンゴルで第5回の大会を、7月25日と26日に開催した。
 開催までには多くの困難があった。昨年2月からの取り組みではあるが、政府、JICA、現地関係者団体の間でその調整は大変であった。もともと社会主義の国であったので、障害当事者や家族団体などの運動を育てておらず、国・官僚が力を持っていて、といってもその障害者政策は殆どないといってよいであろう。しかし、政府の言い分はNGOには国際大会を開くだけの力はないとして、それを育ててこなかったにも関わらずである。もとより、私たちは政府に対して金銭支援は全く求めておらず後援を要請しただけであったが、金は出さないが口は出すというそんな姿勢であった。大会開催には否定的であった。最終的には大統領の承認を得て、その後進められることとなった。

 日本と比べてモンゴルの最も素晴らしいところは、局長はじめ課長など主だった役職は殆どが女性、交渉の中でも役人は女性といった具合である。世界のジェンダーではモンゴルは上位から7番目。日本は? ただ役人・官僚国家であることは間違いない。
 ともかくそんな状況の中で無事大会は開催され、成功をおさめた。そこで、私にとってのもう一つのモンゴル大会を紹介したい。

 東京の板橋区に「視覚障害者国際援護協会」という社会福祉法人があって、この教会は、アジアやアフリカの盲人を盲学校に留学させる支援事業を行っている。ハリ・灸・マッサージ師の国家資格をとって、それを自国の盲人たちの職業自立に還元するというものである。自国の事情は厳しいが、貢献していることは確かである。

 4年ほど前、モンゴルから平塚盲学校に留学していたツェーナさんが帰国する際、ご主人のチンバットさん(全盲)が迎えに来られた。私に会いたいということなので、東京都障害者福祉会館で会った。というのも、チンバットさんは日本でいう県会議員選挙に出て、落選。この時、盲人・障害者が選挙に出るなど、政治に関わるなどと非難とパッシング、バカにされたという、障害者はまだまだ市民とはみなされていないそうである。
 どんな選挙運動をしたか尋ねたところ、障害者のことについては一切ふれず、たとえばカナダの外資系大企業の国有化などを訴えたという。障害者にとってはそんな政治社会状況であるようだ。

 この時、チンバットさんから、私が95年に現代書館から出版した『生きざま政治のネットワーク~障害者の議会参加』をモンゴルで出版したい、ついては協力してほしいとの申し出があった。私は喜んで承諾した。
 2年ほど前に出版となり、先日の話しでは5,000部を刷って、国会議員などには売り付け、その他は無料で差し上げたという。その影響もあってのことか、昨年、当時の民主党政権の内閣の役人に就任した。これに対し、野党などからは避難と批判の声があがったそうである。今年に入って、大統領顧問となった。大会でも顧問として挨拶してもらったが、挨拶時間が長すぎた・・・・。来年モンゴルで開かれるアジア太平洋障害者大会の責任者になっているとのことである。 
 出版した本の表紙には、チンバットさんと私のツーショット。チンバットさんは身長192センチ、私は177センチ。日本にも背の高い人がいるのかと尋ねられたという。

 遊牧民のお国柄であろうか、大事なお客には馬をお土産にもたせるという風習があるようで、私にもぜひプレゼントしたいとのことであったが、東京では馬は飼えないとお断りした。「馬刺しにして・・・」とつい口から出そうになったが、あまりのブラックユーモアなので止めた。
 周りが少し変わってきたとチンバットさんは喜んでいたが、私もこんなふうに役立ったことをうれしく思う。

 (元参議院議員・共同連代表)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧