お渡しできなかった拙著

延 恩株


 私が最初に加藤さんにお目にかかったのは、私が韓国の鍋料理について『オルタ』に掲載したことがきっかけでした。「延さんに本場のキムチ鍋を一度、作ってもらいましょう。集まれそうな人に声をかけますから」。加藤さんの呼びかけに応じたのは6人、こうして4年前の12月から加藤さん宅で、キムチ鍋を囲んだ忘年会が始まりました。

 昨年の2017年12月23日の忘年会で、私は加藤さんに一つ、報告をしました。「来年3月頃に『オルタ』に連載してきた文章をまとめた本が出ます」と。加藤さんは「ほう、それはいいね」と嬉しそうでした。私も少しだけご恩返しができたような気分を味わいました。
 でも本は出来上がりましたが、お届けできなくなるとは・・・。 
 以下は、拙著で加藤さんに是非読んでいただきたかった「あとがき」の一部分です。このような場にはふさわしくないと思います。でも加藤さんへの感謝の気持ちを込めて、追悼の文とさせていただきます。

 「本書に収めた三十五篇の文章は、すべてメールマガジン『オルタ』に掲載されたものです。この市民レベルの手作りメールマガジン『オルタ』の創刊は2004年3月20日でした。「3月20日」となったのには理由があります。創刊よりちょうど1年前の2003年3月20日、アメリカのブッシュ大統領がイラクとの戦争を開始した日に当たっていて、このイラク戦争開始日を忘れないためにという思いが込められていたのです。このように『オルタ』は〝市民一人一人が戦争反対の意思を示し、一人一人が声を上げて平和を創ること〟を目的として発信が始まったメールマガジンです。
 発信開始から今年(2017年)で14年目を迎え、戦争の危機は薄れるどころか、ますます暗雲がその色を濃くして広がってきているようです。この間、『オルタ』は毎月20日発信を守り続け、2017年7月号で163号となり、今や毎号、世界から3万近いアクセスがあるほどになっています。
 この『オルタ』と私との関わりは、代表者の加藤宣幸氏から間接的にでしたが、『オルタ』には、韓国についての執筆者がいないので、何か書いていただけないかとのお誘いを受けたのが最初でした。2014年のことでした。私などに何が書けるのかとても不安でお誘いを受けてからもしばらくは迷っていました。
 そのようなときに韓国で悲惨な船舶事故が起きました。セオウル号沈没事故でした。
 (中略)「セオウル号事故」についての一文が私に『オルタ』で韓国について何かを書いてみようと強く思わせ、結果的に加藤宣幸氏のお誘いにも応じるきっかけとなりました。(中略)こうして『オルタ』への投稿が5回目となった第131号からは、「槿と桜」というコラム欄を加藤宣幸氏が設けてくださいました。言うまでもありませんが、「槿」は韓国の国花ですし、「桜」は日本の国花ではありませんが、国花のように日本の 方には大変馴染んでいます(ちなみに日本の国花は「菊」です)。加藤宣幸氏の韓国(人)との友好を深めたいという思いと、私への期待が込められているように感じられ、私には大きな励みとなりました」

 加藤さんに是非とも拙著を手にしていただきたかった。そして加藤さんの笑顔を見たかった。

 (大妻女子大学准教授)

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