【投稿】
『金閣を焼かなければならない』読後感
今年は三島由紀夫(1925~1970 以下ミシマと略)没後50年、年号も昭和、平成、令和と変わった。されどミシマ自決(1970(昭和45)年11月25日)の原因は益々謎、闇は深まるばかりである。『金閣を焼かなければならない』作者はミシマの著作『金閣寺』を通してミシマ自決の原因に迫る。
林養賢(本名、金閣寺焼失の実行犯)、溝口(『金閣寺』の主人公)とミシマの心理を比較検討しながら、精神科医師、心理学者の立場から独自の論を展開している。
作者はミシマの『金閣寺』の成功と『鏡子の家』作品の蹉跌が、重要な要因の一つではないかと問題提起している。作者の大胆かつ率直な意見にムベナルカナ、サモアリナンと一部納得できるが、自決を、作家自身と作品群とを直裁に結び付けるにはムリがあるのでは? one of them ではあるかもしれないが一つの原因に収まらない、作家自身の人生総決算の結果ではないかと。
過去、作家の自決(自裁、自殺)については、芥川龍之介、太宰治、川端康成、火野葦平、らの例があるが、作家それぞれには一筋縄では括れない複雑のものが見受けられる。ミシマについても当時の時代背景、例えば、作家のノーベル文学賞受賞候補の挫折、健康問題、年少期の虚弱体質、応召時医師の誤診による兵役失敗、それによるコンプレックス、などが考えられる。共通しているのは、天才がゆえの揺れ動くアンビバレントな感情移入と、晩年を待てずに人間らしく節操を喪わないで逝ってしまったことか。
2020(令和2)/09/25
●参考:
回復句226(ミシマ没後50年編 2020/7/14)
没後半世紀生き急ぎし小国民
七生報国死して花見の咲くものか
誤診され学徒出陣に乗り遅る
家族を愛し国を愛せし公威丸かな
晩節の生きず無瑕の没後50年かな
50年深まるばかりの皐月闇
馬齢には知らず七生報国百日紅
露草や大義知る武人のいのち潔し
烏有
●参考文献:
『金閣を焼かなければならない』内海健、河合出版新社
『三島由紀夫と天皇』菅孝行、平凡社新書896、2018/11/15、¥900
『晩節の研究』河合敦、幻冬舎新書550、2019/4/25、\880
(河伯洞会員)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ/掲載号トップ/直前のページへ戻る/ページのトップ/バックナンバー/ 執筆者一覧