【北から南から】中国・深セン便り
『通話料金のチャージトラブル』
ある日の夕方、自宅の固定電話が鳴りました。
第128号にも書いたとおり、我が家の固定電話は9割以上が間違い電話か、セールスなどの迷惑電話です。番号ディスプレイで確認して、我が家に縁もゆかりもない他省他市からの場合は出ずに、ほうっておくことにしているのですが、その日の電話は我が家と同じ、広東省シンセン市からのものでした。
出てみると、声の感じからして30代と思しき、知らない女性の声です。曰く、
「あ、もしもし? この番号、0755-○○○○-○○○○番よね?」
自分からかけてきておいて、何なんでしょう、この人は。
そうですけど、何か?と答えると、
「私、このお宅の電話番号に、間違って通話料を払い込んじゃったのよ。全部で600元(現在のレートで約11,600円)なんだけど、現金で返して欲しい」
現金でよこせとは、“振り込め”詐欺ですらないなんて、なんと斬新な(笑)! 現金でやり取りすれば、振り込みさせるより、さらに足はつきにくいということ? でも、こんなのに引っかかる人なんて、本当にいるんでしょうか。
第一、固定電話の通話料振込み、という設定からしておかしいのです。
携帯電話なら、通話料の振り込みは、ありえます。今どきですから、携帯キャリアとの契約時に、銀行口座引き落とし手続きをしている人がほとんどです。ですが、短期間の携帯の使用だったり、経済的に余裕がなかったり、銀行口座を持っていない、あるいは通話料をより細かく管理するために都度払いしたい人などは、通話料の残額が減ったりゼロになるたびに、少しずつチャージする方式を採ることができます。チャージの仕方も簡単で、そこらのコンビニで携帯通信キャリアのプリペイドカードを買い、そのカードに記されたパスワードを基に携帯をちょこっと操作すれば、簡単に通話料を追加チャージできます。インターネットバンキングをしている人なら、プリペイドカードを買ってくる手間もいりません。
携帯を操作して通話料をチャージするのは、その操作している携帯とは別の携帯にチャージすることも可能です。つまり、人に頼まれて代理で他人の携帯にチャージしてあげるということもできるので、携帯の通話料金ならば、チャージしたい携帯の番号を入力ミスして、赤の他人の携帯にチャージしてしまった、という可能性はありえるのです。
ということで、
「あなた、何言ってるの? うちの固定電話は銀行口座引き落としにしているし、携帯じゃあるまいし、よそからチャージしちゃうなんてありえないでしょ!」
と言い、電話は切ってしまいました。
それなのにその相手、何度もしつこくかけ直してきては、キャッシュで返せー、キャッシュで返せーと同じ話を繰り返すんです……夕飯の支度時だというのに、なんと迷惑な。あんまりしつこいので、電話回線を一時、すっぽ抜いておくことにしました。
その夜、さっきこういう電話があってね〜と、相方にも伝えたのですが、相方もやはり私と同じく、携帯ならありえるけどねぇ? と言います。でも、そんなにしつこくかけ直してこられるのも気味が悪いから、念のために彼女の言い分を確認してみようと、固定電話の着信履歴を見て相方が相手の電話にかけ直してみました。もし相手が何かよからぬことを企んでいるのなら、男の低い声でかければこの家を騙すのは無理だなと、諦めるかもしれないとも思ったのです。
結果、相手の言い分は、私の聞き間違いではありませんでした(あんまり相手がしつこくて変な話しだったので、実はちょっと自分の中国語ヒアリング能力を疑ってました(笑))。本当に、我が家の固定電話番号に間違ってチャージしたから現金で返せ、と言われたそうです。いったいどうしてそんな事がありえるのかと、最初から詳しく事情を説明させたところ、彼女がもともとチャージしたかったのは、彼女の勤め先の電話回線だとわかりました。
数日前に勤め先の電話が通じなくなり、恐らく電話料金を滞納しているせいだと思い至った彼女、慌ててチャイナテレコムに行きます(ツッコミその一、電話料金を滞納する会社ってどんなの?!)。
とりあえずこれくらいで足りるだろうと300元入金してきましたが、会社に戻った彼女、まだ電話が使えないことに気づきました(ツッコミその二、なぜその場で係員に必要入金額を確かめないんだ!)。
仕方なく翌日もう一度チャイナテレコムに赴き、さらに300元チャージします(ツッコミその三、チャージした後、なぜその場ですぐに上司や同僚の携帯に電話して、かけられるようになったかを確認してもらわないんだ!)。
再び会社に戻ったものの、やっぱり電話は使えません。ここでやっと不審に思った彼女が手元の入金票を確認したところ、チャージ先である自分の勤め先の電話番号、数字をひとつ書き間違えていることに気づいた、という話でした。
あぁ、この人、お馬鹿さんだったんだ……。
おおよその事情はわかりましたが、相手の話を鵜呑みにはできません。翌朝、相方がチャイナテレコムに電話して、うちの番号に600元チャージされていることを確認しました。そして小さなオフィスや店舗などでは、固定電話であってもチャージ式にする人がいることも、その電話で判明しました。
電話したついでに、銀行口座引き落としにしていて、きちんきちんと滞りなく支払っている番号の持ち主が別途チャージするなんて普通ありえないのに、受付の人間はなぜよく確認しなかったのかと一応クレームをつけたけれど、ろくな回答はなかったそうです。出金返金には異様に厳しく審査するが、入金されるなら例え間違いであろうと大歓迎、あわよくば……というのが中国企業ですので、ま、そんなクレームなんてつけるだけ無駄なんですけどね。
そして問題の彼女に再度電話をかけ、確かに600元がうちの番号にチャージされていることは確認できたが、だからといって、こちらがあなたと会ってわざわざ現金で返金する義理はない。要はあなたとチャイナテレコムの間の問題なのだから、自分でチャイナテレコムに言って、返金交渉するように。うちはチャイナテレコムに対し、この電話番号の主(=彼女の電話番号)が600元の返金を要求してきたら、それについては勿論応じるのでそちらで何なりと手続きするようにと伝えてある、と通知しました。
無関係の我が家がそこまでしてやったのに、すぐには解決とならなかったようです。彼女はチャイナテレコムが返金に応じてくれないから、やっぱりあなたが現金で返してくれといって、相方の携帯への電話をやめないのですよ……。おかしな人に纏わり付かれて腹を立てた相方、もう一度チャイナテレコムに電話して、無関係の我が家が迷惑をこうむっている! そっちで何とかしろ! と、強くクレームを入れました。そこでやっとチャイナテレコム内で、600元の入金先をスライドさせるという簡単な作業がなされました。まったく、やれやれです。
やっと解決してほっとした相方、止せばいいのに、ついつい仏心を出してしまいました。問題の彼女に最後の電話をかけ、これこれの経緯でチャイナテレコム内で入金先をスライドさせることができた、だから本来の電話番号に600元分のチャージができているはずだ。そちらでも確認するように、と伝えました。
それに対する彼女の返事、どんなだったと思います?
「あ、そう。わかった。」
謝謝とか、お手数かけましたなどの言葉は一切なく、それどころか、迷惑とばかりにガチャ切りされたそうです。彼女がかけてきた最初の電話からして、人様にお願いするような口調や態度ではなかったですけどね。
ま、中国ではそんなの日常茶飯事ですよ。腹を立てるだけこっちが損ですから……とはいえ……はぁ(ため息)。
(筆者は中国・深セン在住・日本語教師)