■【書評】
『私の知っている日本人』段躍中編 井出 敬二
- 第四回「中国人の日本語作文コンクール」受賞作品集 感想 -
日本僑報社刊・定価1800円
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『私の知っている日本人――第四回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集』
を拝読しました。
いつもながら日本僑報社・日中交流研究所と関係者の皆様のご尽力に深い敬
意を表したいと思います。
このコンクール企画は今回が4回目ですが、着実に発展・前進していることを
知り、とても嬉しく思いました。
中国人が日本について書く文章を読むと、かっては、ともすると、中国人が
一般的に思っている日本人のイメージが再生産されて書かれているだけの場合が
ありました。また中国国内だけでは、どうしても日本関連の情報が偏っています
。そこからどう脱してもらうか、そのきっかけをどうつかんでもらうかが課題と
なると思います。
その意味で、今回は、テーマ設定がよく工夫されていると思います。今回は、
中国の人が具体的に日本人と接触して感じたことを素直に書いているので、それ
ぞれとても実感がこもっていると感じました。心優しい日本人たちが沢山登場し
て、ホッとします。やはり、顔と顔をつきあわせたコミュニケーションほど良い
ものは無いと改めて痛感しました。もっと多くの日本人が中国に行って欲しい、
また日本にいる中国人ともっと日本人が付き合うべきと感じました。
また、中国風にいえば、「理性的に対応する」というアプローチが多くの作文
で見られました。
限られた日本情報だけを基にしての感想発表だけでは残念なので、私の思い
つきのアイデアですが、将来の作文コンクールの課題としては、たとえば「日本
人作家の本を何十冊読んだ上で、考えたこと、感じたことを書いて下さい」、
と
いうのはどうでしょうか。まず中国人の青年達には、日本についての本を沢山読
んでいただきたいと思います。そもそも、彼らがどのような日本人作家の本を読
んでいるのか知りたいと思います。また、そこからどのようなこと(日本人と中
国人の文化、価値観の違いなど)を中国の青年たちが読み取るのか、といったこ
とはとても興味深いことです。また内陸部の中国人などは、どうしても日本人と
接触する機会が少ないので、本を読んでの感想ということであれば、作文コンク
ールに参加できる人も増えるのではないでしょうか。
今回、少し驚いたのは、靖国神社に行ってみたい、なぜ行ってはいけないのか
、どうして大騒ぎで議論しないといけないのか、という中国人学生の意見が掲載
されていたことです。数年前の日中関係が厳しい雰囲気の時には、このような文
章はとても発表されなかったと思います。敏感とされる問題でも、様々な角度か
ら冷静に議論できるようになれば、本当にすばらしいと思います。
そのような方向に、この作文コンクールがひっぱってくれることはとてもす
ばらしいと思います。作文コンクールに出てくる作文も、日中関係の改善を反映
して、日本理解の前進を示し、また関係発展のための新しい視点、アイデアなど
がでてくることを期待しています。
(評者は外務省大臣官房審議官)
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