■【書評】

『現代日本政治研究と丸山眞男―制度化する政治学の未来のために』渡部 純著 勁草書房刊 3500円

 木下 真志
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 政治学の再建に向けた好著が出た。近年、数量化やアメリカ化が著しいこの
分野の研究には、賛否両論がある(1)。
  また、伝統ある政治学会、行政学会に加え、学会の専門分化も顕著であり、選
挙学会、公共選択学会、公共政策学会、日本政治研究学会、政治社会学会等々が
次々に設立され、日本政治学会はあたかも(実質的議論のない形骸化した)衆議
院本会議の様相を呈しつつある。
  (1)2010年5月6日付、朝日新聞(夕刊) 藤生京子記者によるものや、拙著
  『転換期の戦後政治と政治学』敬文堂、2003年等を参照。ちなみに、「この分
野」とは、日本政治の現状分析をさし、思想史や国際政治は念頭にない。
  著者の意識下には、政治学者が社会に向けて発進力を保つためには、どうす
ればよいのか、政治学者の本分は何か、といった本源的問いがある。加えて「あ
とが き」には、著者の学問の遍歴が披瀝されている。これを読むだけでも、著
者の学問への真摯な姿勢をうかがうことができる。評者と同年代である著者に
は、これ までもさまざまな学問的刺激を受けてきた。
 本書において著者は、戦後日本の政治学をほぼ15年ごとに時期区分する。そ
して、第一期の政治学者の代表的存在として、丸山眞男を挙げる。以下、第二期
の代表者に松下圭一、第三期に大嶽秀夫、第四期に樋渡展洋を挙げ、それぞれの
時期に典型的にみられる政治学の特質を考察しつつ分析を加える。
 評者と大きく異なるのは第二期の政治学者をどう評価するかという点であ
る。著者は第二期に関してはかなり否定的である(2)。
  戦後日本の政治学が第三期の政治学から、大きな変容を遂げた、という認識は
広く共有できるものである(3)。
  (2)丸山仁他編『政治変容のパースペクティブ』第二版、ミネルヴァ書房、
2010年の第7章において、評者なりの今日の政治学への見解を述べた。
 (3)内山融 「ポリティカル・「サイエンス」?」『UP』2003年3月号を参照。
  政治学会(ないし政治学界)に身をおく者だけでなく、ひろく学問に関心の
ある者は、学者の社会的役割とは何かについて、一度は考えたことがあるだろ
う。そ して、悩んだこともあるに違いない。著者の知識社会学的知識や法社会
学(法哲学)的見解にも、蒙を啓かれることは確実である。
 政治の現状、政治学の現状だけでなく、戦後日本の政治や戦後日本の政治
学、あるいは丸山眞男や、ベ平連、市民運動に少しでも関心のある方は、著者の
透徹した探求の眼に脱帽することになるだろう。

                  (評者は大学嘱託研究員)
 

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