深センから              佐藤美和子
   

『日本人ビックリ!中国的お子ちゃまエピソード』

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 海外で生活していると、日本ではありえないような、思いもかけない事に出く
わす事があります。
 ここ、ミラクルワールド・中国の生活では、欧米諸国でよりももっと頻繁に笑
っちゃうような、楽しい事に出くわす確率がとても高いように感じます。まぁそ
のぶん反対に、『違法レンガ工場の子供誘拐事件』みたいな背筋が凍っちゃうよ
うな、こわーい話にもよくぶち当たっちゃうのですがね・・・・・。

 誘拐事件はさておき、中国では子供をものすごーく大事にします。
 もちろん日本だってどこの国だってそうでしょうが、日本って基本的に大事に
するのは「我が子」だけという感じで、どうも世間は子連れにちょっぴり冷たい
雰囲気が、無きにしも非ず。でも中国滞在中の日本人ママのほとんどが、
「中国人って子連れに優しいよね~、乗り物でも必ず誰かが席を譲ってくれるし、
乗り物の中や買い物中に子供がグズって大泣きしていても、日本みたいに誰も迷
惑そうな顔しないの。子供どころか、まだ結婚もしていなさそうな若い店員さん
でも寄ってきて、うちの子をあやしてくれたりするのよ」
と言います。子供は社会の宝、という感じなのでしょうね。実際に私も、通りす
がりのお客さんが連れた子供に、とろけるような笑顔でしゃがみこんで話しかけ
ている店員さんをよく見かけます。

 中国には、乳児を夏でも毛布やタオルケットなどに固くギッチリ!蓑虫みたい
にくるんでしまう習慣があります。日本では赤ん坊って暑がりだと言いますが、
中国では大人でも冷える事を異常に嫌うので、赤ん坊なら尚更、シャツやズボン
をまるで十二単のように、何枚も何枚も重ね着をさせてしまいます。着膨れて身
動き取れなさそうな中国人の赤ちゃんを見ると日本人はたいていビックリしま
すが、反対に中国人だって、薄着の日本人の子供を見ては同じようにビックリし、
「あんたちょっと!子供にどうしてそんな薄着させておくのよ、風邪引くじゃな
い!」と、通りすがりの見知らぬ人でもお構いなしに注意しちゃうのです。他人
に無関心な社会からやってきた日本人、おせっかいだと迷惑がる人もいれば、知
らない人でも気軽に声をかけてしまうフレンドリーさに感心する人、いろいろで
すね~。

 日本人の子供は薄着過ぎると批判する、そんな中国の子供の衣類には、日本人
が目を疑ってしまう『開襠?(カイダンクー)』というものがあります。通称・
股割れズボンと呼ばれるもので、その名の通り、股の部分をえぐったかのように、
パックリ穴が開いているのです。この10年ほどで、都市部ではこのスタイルの
子供は減りましたが、ちょっと田舎へ行けばまだまだ現役!この股割れズボン姿
の子供もモチロンたくさん重ね着させられているのですが、日本では最初に穿か
せるオムツやパンツ、彼らは穿いていません。内側に穿いているズボン下などの
肌着もやっぱり股割れになっているので、子供がまっすぐ立っている時は一見普
通のズボンに見えますが、子供がちょっとしゃがめば、そしてその子が男の子な
ら、割れたズボンからぽろんとコンニチハしてしまうのですよ・・・・・。真冬
など、寒風吹きすさぶ中でも股割れズボンで真っ赤なお尻のほっぺをさらしてい
る子供を見ると、しもやけだかアカギレだかになりそうで、見ているこっちが痛
くなっちゃいます。

 何故こんなズボンがあるのかというと、それはひとえに「トイレの躾のため」。
このズボンなら、もともと股の部分が開いているからトイレだってズボンの脱ぎ
着は不要、しゃがむだけで準備OK、Go!なのです。簡単なので、1時間おきく
らいにしょっちゅうトイレをさせるため、子供も早くトイレを覚えるし、オムツ
の洗濯もせずに済む、という訳です。また、トイレに連れて行くのすら面倒な人
は、部屋のあちこちにバケツを置いたりもします。それがあれば、バケツの上で
子供を抱え上げるだけ、トイレに連れて行く手間も省ける、だとか。
 モチロン、幼児ですから失敗だってありますよね。でも、中国の一般家庭では
床がタイルか石、コンクリートの家がほとんど。なので、失敗しちゃっても、掃
除も楽なんですって。まぁ床ならいいですが、抱っこしている時にやられたりす
ると、親も子も一斉に着替えて洗濯物が一気に増えることもあるそうで・・・・・。

 困った事にこの『開襠?』、都会では見かけなくなったとは言え、その弊害部
分はまだまだ残っているようです。
 元々中国では、子供のおしっこは汚くない、という感覚があります。一昔前な
ど、レストランでの食事中に床になにやら色付きの水がツツーッと流れてきてビ
ックリ、あたりを見回すとその水源はレストランの床でしゃがんでオシッコして
いる子供だった・・・・・という事がよくありました。店員さんも慌てず騒がず、
モップを持ってきてさっとひと拭きして終わり。えーっ、消毒とかしない訳?て
いうか、におうじゃない、親に注意しなさいよ!なんて目を白黒させているのは
外国人だけなんですよね・・・・・。

 さすがに近頃ではそういうシーンは滅多に見かけなくなったものの、路上でさ
せてしまう親はまだまだ沢山います。うちのマンションなんて、共同の庭部分な
ど、あちこちに染みがついているんですよね~。それが子供のものなのか、はた
また飼い犬のものなのか、いずれにしても中国では新築マンションであっても公
共部分はすぐに色んな染みができて、汚くなるのが早いです。

 私がいまだに見かけると仰天してしまうのは、スーパーやきれいなショッピン
グモールなどで、トイレに連れて行くのが面倒なのか?親がズボンを下ろした幼
児を抱え上げて、店内のゴミ箱にちーっとさせちゃうこと!清掃係りの人がご
み収集したときのことを想像すると、あぁ阿鼻叫喚です・・・・・。『開襠?』
時代に、バケツなどで簡単にトイレさせていたものだから、それと同じような感
覚が抜け切っていないのだと思います・・・・・。

 さて、最後にこれは東莞在住の日本人女性に聞いた話です。
 彼女の住んでいた地域は治安があまりよくなく、中国語もカタコトとなれば単
独での外出もままなりません。そこで、マンションに併設された、住人専用の無
料スポーツジムに通うことにしたのですが、電動のウォーキングマシーンだけは
有料でした。
 有料と言っても1時間たったの5元(80円)と格安だったので、それでウォ
ーキングをしていると、なぜか背後に人の気配を感じる???なんだろうと歩き
ながら振り向くと、そこには・・・・・マシーンの後ろにしゃがみこんだ一人の
中年女性が、幼児の両脇を抱えつつ、彼女に便乗してウォーキングマシーンで“あ
んよ”の練習をさせている?!?!

 共働き家庭の多い中国では、子供が生まれたらアーイーさんと呼ばれるお手伝
い兼子守さんを雇ったり、田舎から親や親戚の女性を呼び寄せて子守をしてもら
ったりします。そのおばさんも、たぶんアーイーさんなのでしょう。子守と言っ
ても広東省の夏は暑いし、ここはクーラーが効いてていいわねぇ。まぁ、いつも
は動いていないあの機械を使っている人がいるわ。へぇ~、この機械はベルトコ
ンベアーみたいに動くのね。あら、後ろの方はスペースが余っているからちょう
どいいわ、この子を運動させるのに、私は動かずにすんでラクチン!いいもの見
つけちゃったわ~♪
といった感じでしょうか(笑)。

 話に聞くだけの私は、その様子を想像して大爆笑!で済みますが、便乗されち
ゃった彼女にすれば、万が一自分がバランス崩して子供の上にでも転んでしまっ
たら大事故になりかねません。危ないから止めてください、と言いたいけれど、
中国語ではどういえばいいのかわからない・・・・・と困った彼女の口からとっ
さに出てきた言葉は、
  「一个小時、5塊銭!(一時間、5元ですよ!)」
 一瞬ビックリした様子のおばさん、それでも彼女の意図が通じたのか?子供を
下ろしてどこかへ行ってしまったそうです。
 はぁヤレヤレ、と一息ついたのもつかの間・・・・・再び後ろに人の気配が。
今度は誰だ!と振り向くと、学校から帰ってきたばかりといった小学生の男の子
が、嬉しそうに彼女の後ろで同じように歩いているではありませんか!
んもー、親はどうしたのかしらと思いつつ前に向き直ると・・・・・そのマシー
ンは自転車のハンドルのようなものを握って歩くようになっているのですが、そ
のハンドルを握った彼女の両腕の中に、別の男の子がスルリともぐりこんで歩い
ている!?
 見知らぬ子供に、前後を挟まれちゃった状態です!日本では、見知らぬおばさ
んにくっつかんばかりにして、便乗して遊んじゃおうだなんて度胸のある子供、
なかなかいませんよね~、アハハ。

 結局そこのスポーツジムでは、床一面に敷かれた絨毯の上でもやっぱり大小お
構いなく子供にトイレさせちゃう人がいたりとビックリ仰天事件が次々に起こ
るので、彼女はすっかりそこで運動するのは止めちゃったそうです。我々との感
覚のまったく違う人々を観察できて、ちょっぴり楽しそうなのに・・・・・と思
うのは、やっぱり他人事だからでしょうか。
                                        
(筆者は在中国・深セン日本語教師)

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