【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(53)

「避難民」ではなく「難民」日本の在留資格がわからない。

坪野 和子

 蔓延防止解除になりました。新年度になりました。成人が18歳となりました。
 さて、今回はロシアのウクライナ侵攻で連想した「難民申請」について書きたいと思う。まずは、彼の地の状況に心を痛めている。市井の臣が命を落としたり負傷したりしている、物資不足などを伝えられている。私自身、インドでチャンティガルに爆破事件があった当日、バスの遅延がなければこの世の者ではなかったか、すでに生まれ変わっている。

 今回の件で、国外在住の外国人たちが私と電話で話すもっとも多い話題は「日本はウクライナの人を入れる許可をしたんだって」という内容だ。その上、実は国名もちゃんとわかっていなくて「リビア」とか「アルメニア」とか言う。「“ゆっくらいな”」と友達の言語の発音に近い発音で言ったら「あ、“ゆっくらいな”、ですね」とか、「そうそう、その国」とか、わかっているのかいないのか? 日本で連日、テレビなどのメディアのように洪水の如く伝えているのではなさそうだ。自分たちの内政や経済でいっぱいいっぱいであるという国の人たちだからだろうか? メディアはあえて大きくふれていないのだろうか?(ネットTVをチラ見するとそうだった)

 昨日までコサックもボルシチもロシアだと思っていた人が多く、チェルノブイリ原発はロシアだと思っていた人が多かった日本人のひとりとして、何も知らないんだと、決して見下す気にはなれない。また私個人が気にしていたのは在日ロシア人への差別だった。ところが中国で反日運動があった時のような差別を感じさせる言動を見聞していない。日本人によるSNSの書き込みを読むと「アフガニスタンやミャンマーの時は(どちらも現在進行中だと私は認識しているが)ウクライナのように簡単に受け入れてもらえなかった」という内容が散見し「内戦はどうでもいいことか」「金髪碧眼だと緩いのか」とも書かれていた。確かに在アフガニスタン日本大使館職員ですら日本入国が厳しかったとか、在日ミャンマー人の支援でサッカー選手が難民認定されたとか、厳しいことは理解できる。それ以前からずっと、トルコやイランから来た人たちは、ほとんど申請中である。

 しかし、それ以前に難民でなくても、留学、就労、興行などの在留資格・査証はとても厳しい。厳しいからインチキが出る、インチキが多いから厳しく締め付ける…卵とニワトリの関係の連鎖も感じられる。例えるならドロボー(不法滞在・就労)と判定したものを捕まえて縄、気付くと最悪の場合、できそこないの縄で罪のないものの首をしめていたり、自ら釣って息の根がなくなっていたりということもある(牛久)。どんな理由であれ、日本で生活したい、あるいは日本にいなくてはならない理由のある人たちの人権・子どもたちの教育は大切にしてあげたいものだ。

 ここからは、難民申請にまつわる裏話の事例だ。入管はこれらを知っていて彼らを送還させるのだが、偽難民であるが、実態的に難民だと考えてよい状況もあるのだ。なぜなら現地政府が海外に隠しているため、わからない、あるいは入管は知っているがそれを認められない理由があるからなのだろうと言えよう。ほとんどすでに送還されているのだが、一応個人が特定できないようにしたい。国も暗にわかる国もあるが伏せたい。

●事例 1.現地日本語学校と称するブローカーの罠

 海外から日本の日本語学校に留学する要件は、12年間の現地教育修了、150時間の日本語学習または日本語能力試験N5合格証明、独身であること、入学時、在学中にかかる費用(学費等)の支弁者の経済力が証明できる納税+資産(貯金)が十分であること、などが挙げられる。ある意味、学歴・基本の日本語・お金だけなので、ハードルは高くなかったはずだった。
 だが、学歴は誤魔化しようがないが、日本語学習歴はそれらしい書類を作り、日本語学校との Skype 面接で流暢に受け答えできれば誤魔化せる、独身も籍がなければ誤魔化せる、親の資産も納税証明書は賄賂で作れるし貯金通帳も少しずつお金が入っているように見せかけるか実際の支弁者ではない資産のある親戚を支弁者とすればよい。こんなインチキを日本語学校と称するブローカーが行っていた。

 そして、日本の日本語学校に入学する。しかし当然のことだが、授業についていけない。しかも宗教の違いで食べ物に困っている、習慣の違いで困っている、日本語が上手くないのでコンビニのアルバイトも難しくロジスティクで荷物の仕事など限定される。日本語学校の休みには英語で運転免許を取得した。でも、事業についていけない。中退! 学生の在留資格はそこで切れる。
 そこで日本語学校と称するブローカーは、食べ物は冷凍の通販を送る、ビザは難民申請すればまだ日本にいられる」と唆し、その通りにした。1回目は難民申請中である「特定活動」の在留資格を得て運送関係の仕事に就いた。が、しかし、「あなたは難民ではないから帰りなさい」と入管に言われて帰国した。

 帰国から3年以上になった。まだ「Kazukoさん、日本にまた戻りたいから、特定技能の日本語試験の勉強を教えて」と言ってくる。しかし、最初の経緯がインチキなので入管が認める・認めない以前に、この国のインチキが常識と思っているかぎり難しいだろうと思う。失礼だが、インド人のように努力する・勉強するが習慣化されていないのだから。因みにこの元学生たちの故郷は危険地帯である。自国の軍隊の駐屯地である。安全に暮らしていられないことも多々あるのだ。

 この現地日本語学校と称するブローカーの学校?はあまりにフェイクが多いので、学生を送り込むことができなくなったと聞く。噂だ。本人は数人入れたと言っているそうだが(これも噂)類似の近隣国の学校?でも入管の審査が通らなかったと言われている。
 しかし、この某国現地日本語学校と称するブローカーの学校?から日本の日本語学校を卒業した学生の中には、主席で卒業し、答辞を読み、日本の企業から3年の在留資格を出してもらい、メカニカルエンジニアとして働いている者もいる。。また、日本人の女性とお付き合いした結果、必死に日本語を勉強し、結婚し、母国出身の支援者から資金を借りて、レストラン経営をはじめた学生もいる。

●事例 2.紛争地域に蔓延る自称現地「旅行代理店」

 事例1.に近い地域である。ここは住んでいるだけでも安心できない。短期滞在ビザを取得してから身を隠す場所を用意したり、難民申請をする方法を手引きしたり、日本での28時間/週のアルバイトの許可を得て、同居する同郷者の住まいや通訳をしてくれる同言語話者などを紹介するパッケージしている自称現地「旅行代理店」が存在する。実際に難民といってもいいケースもあれば、本当にそうなのかなと疑問に感じるケースもある。このパッケージ、「1日5,000円、貰えるんだ」と嬉しそうだが、このガテンの仕事で終日働いて5,000円は安すぎる(多分28時間を越えているだろう)。それに気づくとそこを離れるのだが、もっと悪い人に騙されるとか、普通のアルバイトに切り替えるが日本語がわからないので決して楽ではないようだ。帰っても職がないだろうから、オマーンやサウジやカタールなどに出稼ぎに行くことになるだろう。FIFAの工事に関わっているという話しは聞いていない。

●事例 3.興行で来日後、甘い言葉で唆されたアーティスト

 単に興行で日本公演とパフォーマンス・レッスンで日本に来た。日本でとても歓迎された、とても人気があった。めちゃくちゃチヤホヤされた。ずっと日本でアーティスト活動がしたいと思うようになって在留資格を得たいと考えるようになってくる。これはよくある話しだ。今回話題にするアーティストだけではない。スポンサーの支援を受けて日本で生活をはじめる、日本人女性と結婚して日本を拠点に世界を回るなど少なくない。
 知り合いではないが、クラシック音楽ピアニストのブーニンやビリーズブートキャンプのトレーナーなど、彼らは決していわゆる途上国出身ではない。興行で来日し、日本に住むのに成功したが、その後希望通りでなかったり、主催者が反対して日本に住むどころか二度と招聘されなかったりしたという例があるが、これは別テーマで後述したい。

 甘い言葉で唆されたアーティストの話しに戻そう。数年前、日本で大きなイベントがあり、日本全国を巡回し、またレッスンも行い、どちらもとても評判が良く、また日本人ウケする人柄でもあった。本国では差別を受けていたが、日本では日本人にも本国人にも優しくされていたそうだ。
 帰国まで日程が残り少なくなった頃、同国人のパーティーに呼ばれて出かけていったそうだ。在留者も商用での短期滞在者も大勢集まった。そこでパフォーマンスも披露したようだ。「まだ日本にいたい」と言ってしまったそうだ。その人が悪い人とは知らずに。「ああビザが出す方法がある」と言われてお任せしてしまったそうだ。

 入管に行って思ったことと様子が違う。書類の確認がおかしい。出たビザは半年。「特定活動」という文字は同じだった。「特定活動」という在留資格は48種類(現・当時はもう少し少なかった)興行もワーキングホリデーもボランティアも日本の大卒の就職活動も難民申請中も同じ名称である。そのアーティストはてっきり興行での在留延長だと思っていたそうだ。
 その後の滞在で「仕事をみつけてあげる」と言われて連れて行かれた仕事はパフォーマンスでもレッスンスタジオでもなく工場だったそうだ。これは私にウソをついていたかもしれない、知っていて騙されたふりをしていたようにも思えるからだ。本人が言うには、逃げ出すように入管に難民申請の取り消しと帰国を訴えた。

 帰国して元の仕事に戻った。日本でのアーティスト活動はまた行いたいと考えていた。現地の日本語の先生に日本語も習っていたようだ。年に数回メッセージが来ていたがコロナ禍以降連絡がない。SNS上のプロフィール写真が変わっていたので無事であることは間違いない。

●事例 4.就職できず「センパイ」のノリに騙された元日本語学校の学生

 外国人にとって「センパイ」という言葉は新鮮で使いやすい言葉のようだ。特に若い世代には日本での人間関係を覚えるのに意味ある言葉のようだ。中学・高校の年齢層では日本人との付き合いかたを覚えるため、高校以降では年上の同国人を真似たり、相談したり、立場を確認したりと幅広く、時には「センパイ」に責任転嫁するためにも使っている。

 この国では、ずっと昔、10数年前、韓国への留学がブームだった。3つ理由があるとみられる。ひとつは入国がそれほど難しくなかったこと、もうひとつ、電化製品や携帯電話は高い日本製に変わって主流となっていた、もうひとつは韓国人と称する北朝鮮のお金持ちがビジネスしていて、そこで、この国に行けばお金が入るかもしれない、ということだったそうだ。

 それから数年、今から約10年前、なにか事情が変わったらしく、日本留学が盛んになってきた。ある通りには現地日本語学校が犇めき合っているかの如く端から端まで並んでいる(「いた」か?)。そこから来た学生を観察すると、現地日本語学校では日本語能力試験N3(中レベル)くらいの学生を日本の日本語学校に送っているとのことだそうだが、確かに会話はうまいが、読み書き社会の日本では漢字能力が劣っていると大したことはないと思われがちだ。日本の日本語学校に来てみると同国人の「センパイ」がたくさんいる、同級生もいる、バイト先にも同国人がいる。遊ぶにも情報交換するにも困らない。ここまでは楽しい日本留学生活だ。
 本当に優秀だったり、日本になにかの縁故があったりすると専門学校・大学を経て、とてもいい就職をすることができる。空港の免税店などで、この国出身の若者が活躍している様子を目にするのでよくわかる。

 しかし、就職活動がうまくいかない、専門学校に上がるお金がない、などの理由で留学生の在留資格では日本におられず、まずは「就職活動」のための「特定活動」と変わり、うまくいかないと難民申請をし始める。すでに帰国して5年ほど経っている日本語学校の元留学生から話しを聞いた。

 「在学中から学生をやめて難民申請をしちゃう人がけっこういるんですよね。当時流行っていましたから」「え? 流行っていた?」「ええ。だからみんなノリで」「え? ノリ?」そういう難民申請が通るはずがないのになぜ?「センパイが卒業できなさそうだったんで申請したら半年『特定活動』の在留資格が下りたんです」「それ難民?」「ああ、センパイがみんなそれを始めたんで、その後みんなで」「え?」「センパイの成功はみんなで真似しようって」「え? 成功?」それはダメだったはず。

 なるほど、法務省※のホームページに各国語で「難民認定申請を考えている留学生のみなさん」という項目がある。まあこの国は体制が変わっても相変わらず国内事情は混乱した政治のせいで、良くなる兆しがない。難民申請する理由はいくらでも見つかる。残念な作文練習をして帰国ということだろう。「郷に入れば…」従うのではなく、「センパイ」という言葉をはじめ、日本的な人間関係を自分たち流に作ってしまったと感じた。
 訊き忘れた。この国では日本の日本語学校中退はどのくらい箔がつくのだろうか?ということ。なぜ中国を選ばなかったのだろうか?ということ。この二つだ。日本に私が知らない付加価値があるのかと、もう少し突っ込めば良かった。

 ※在留資格は外務省ではなく法務省の管轄

 最後の事例4.を除けば、とても微妙な難民申請である。
 私の友人たちは言う。
 「私だって国に帰れば命が危ない。日本に来た時の形が留学(国費留学生)だった」
 「私だって国に帰れば命が危ない。日本に来た時、最初から仕事のビザだったし、今は定住者です。私たちは迫害を受けている、日本でいえば部落の人ですから」
 「私だって国に帰れば命が危ない。亡くなった父親は軍人で人々から恨まれていますから」
 「私だって国に帰れば命が危ない。国境の両側に親戚がいて、どちらに(国)につくのかと地域の人たちに責められる。どちらもつくことはできない」

画像の説明
  品川駅から東京入管へのバス停。英語・中国語・韓国語・日本語の順に表示されている。

画像の説明
  バス車内の経路案内。ローマ字表記が中途半端。Tokyo Nyukoku Kanrikyoku など。

 (東京ベイインターナショナルスクール顧問)

(2022.4.20)
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