【沖縄・砂川・三里塚通信】

「辺野古は唯一の解決策」の破綻は明らかだ
―第3回「技術検討会」への政府・防衛省報告をめぐって―

毛利 孝雄

<知人・友人の皆さんへ ―「沖縄の思い×沖縄への思い」No.30(通しNo.57)2020.01.31>

 辺野古新基地工事について、政府・防衛省は沖縄県への今年度中の「設計概要変更申請」を準備している。昨年末12月25日開催された第3回技術検討会に、その概要が報告された。当初の計画では完成までに8年、総工費3,500億円以上とされていたが、今回の報告では完成までに12年、総工費は2.7倍の9,300億円に膨らんだ。大浦湾側に広がる軟弱地盤の地盤改良に伴い、工期・工法・工費の大幅な変更を強いられたためである。

「軟弱地盤」をめぐるこの間の経緯

 少し遡って考えてみたい。「マヨネーズ並み」といわれる軟弱地盤の存在は、2016年までのボーリング調査で判明していた。しかし政府はこの事実を公表せず、2018年3月に県民らの情報公開請求によって初めて明らかとなった。沖縄県は2018年8月、この軟弱地盤の存在を最大の理由に、仲井真元知事が行った埋立承認を撤回した。

 沖縄防衛局は、沖縄県による埋立承認撤回の効力無効を主張し、国土交通大臣に対し行政不服審査法を使い審査請求を行うことになる。石井啓一国交相(当時)は焦点の軟弱地盤について、所要の安定性を確保して工事を進めることは可能として、実質3日の審査で沖縄県の主張を退けた。そして、この年(2018年)の12月14日からは、辺野古側への土砂投入が始まった。

 政府が、この軟弱地盤の存在を認めるのは、年の改まった2019年1月末、安倍首相による国会答弁によってである。同時に、SCP(サンドコンパクションパイル)工法・SD(サンドドレーン)工法など「一般的で実績の豊富な工法」による地盤改良工事を行うことで軟弱地盤は克服できるとし、大浦湾への7万7千本の砂杭の打設、そのための海砂等650万㎥の新たな調達などが公表された。これまで埋立に必要としてきた土砂総量2,100万㎥に加え、新たにその3分の1におよぶ量の海砂を大浦湾に投入する計画である。650万㎥は、沖縄県の海砂採取量の3~5年分にも相当する。

「一般的で実績の豊富な工法」との説明に対しては、軟弱地盤の一部が海面下90メートルに及んでおり、この深度に対応する工事船がないことや、大浦湾のような傾斜地の埋立の場合、地盤改良後の地盤沈下がどのような形で起こるか予測しえないなど、次々と疑問が指摘されてきた。沖縄県は、独自の試算として運用開始までに今後13年、事業費は2兆5,500億円に膨らむとの試算を政府に伝えている。一方政府は、地盤改良工事に3年8ヶ月を要するとするのみで、全体の工期も事業費も明示してこなかった。

「第3回技術検討会」への政府・防衛省報告

 昨年末の第3回技術検討会に対し、政府・沖縄防衛局は軟弱地盤の改良工事に伴う工期と工費について、初めて明らかにする報告を行った。また、昨年1月に公表した軟弱地盤改良工事の工法についても、1年も経ないうちに大幅な変更を報告している。以下、特徴点をメモする。

工期・工費の大幅な変更
 冒頭に書いたように、運用開始までの工期について、これまで8年としてきた試算を12年に変更、総工費についても3,500億円以上から、2.7倍の9,300億円に修正した。しかし、この数字自体が、実態を無視した願望に近いものといえそうだ。
 工期12年は、沖縄県の設計変更承認時点からの起算であり、玉城知事が不承認を示唆している中で、さらに工期が遅れることは明らかだ。
 地盤改良工事の開始以前に行わなければならない、大浦湾の7万8千群体のサンゴ移植については、工程自体が示されていない。また、環境影響評価制度にもとづく自然環境への負荷軽減策は無視され、工期短縮のために陸上・海上輸送の併用や様々な工事の同時進行が計画されている。数年にわたる環境影響評価の取り組みは何だったのか。制度そのものを冒涜する暴挙といわなければならない。
 さらに防衛省は、新基地完成後も20年間で26㎝の地盤沈下が予測され、6回の滑走路補修メンテナンスが必要としている。完成後も機能維持のためのコストはさらに膨らむことになる。

工法の大幅な変更
 昨年1月時点で軟弱地盤改良の工法とされていたのは、SCP工法、SD工法による砂杭7万7千本打設、そのための650万㎥の海砂調達だった。
 昨年末の報告では、地盤改良区域が縮小され、さらにSCP工法区域を限定し新たにPD(ペーパードレーン)工法を採用することで、砂杭の数を減らし海砂の必要量を大幅に減少させている。また、埋立土砂(岩ズリ)必要量の算出を総量から年ごとの必要量に変更し、土砂・海砂ともに沖縄県内での調達が可能とした。これまでは土砂の7割強を県外(西日本各地)から搬入する計画だった。基地建設という大規模工事で、1年足らずのうちに工法が大幅に変更になることなど、素人にはにわかに信じがたい。これが現実になれば、沖縄の山と海の自然破壊は極限に達するだろう。

政府・防衛省のねらい
 思い当たる点をいくつか。
 1つは、沖縄県土砂条例を回避するねらいである。沖縄県は特定外来種侵入防止対策として、全国初の土砂条例を制定し、届出や立入調査、洗浄などの駆除策について規制を設けている。防衛省はこの間、特定外来動植物の飼育・殺処分実験まで行ってきたが、対策は未だに示されていない。県内土砂による埋立の場合、土砂条例は適用されない。
 2つは、土砂(岩ズリ)・海砂をめぐる利権だ。岩ズリは採石に伴って生じる、通常は値段もつかない廃棄物に近いものである。現在、辺野古側埋立に使われている岩ズリの単価は5,370円/㎥で、3年前の1,870円/㎥から3倍近くになっている。利権誘導による沖縄社会や沖縄世論の分断も十分に意識されているだろう。
 3つは、沖縄と全国の分断。西日本の土砂搬出地では「どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない」を合言葉に辺野古に連帯する組織が生まれ、辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会として、全国的な沖縄連帯運動の新たな形を生み出してきた。同様の連帯行動は、全国で様々な形で進んだはずである。その絆を断ち問題を沖縄内部に封じ込めるねらいもあるだろう。
 見えてくるのは、辺野古工事のなりふり構わぬ強行である。

「設計概要変更申請」ではなく、新基地計画を撤回せよ!

 「桜を見る会」では、予算の3倍の執行について政府は不適切な支出と認めている。辺野古新基地の財政支出はその比ではない。政府試算でも2.7倍に膨らむような事業に、漫然と国民の税金を投入し続けることが許されるのか。
 「辺野古は唯一の解決策」の破綻は明らかだ。普天間基地の「5年から7年以内の返還」に合意してからは、すでに24年が経過した。仲井真元知事による埋立承認時の「普天間は5年で機能停止」との約束期限も過ぎた。辺野古にこだわることこそが、普天間を固定化しているのである。「辺野古は唯一の解決策」とする限り、普天間は返還されず「危険性」は放置され続ける。これが、返還合意からの24年間が示す厳然たる事実である。
 政府・防衛省がなすべきことは、沖縄県への「設計概要変更申請」などではない。辺野古新基地に関わるすべての工事を即時中止し、国会と沖縄県に現状を隠さず報告し、新基地計画そのものを撤回することである。「普天間の危険性除去」「沖縄の基地負担軽減」のための取り組みを進めることである。
 昨年10月、米国の海洋学者シルウィア・アール博士が中心となった環境プロジェクトは、辺野古・大浦湾一帯を日本で初の「ホープスポット」(希望の海)に認定した。日本も批准している生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)が、今年10月中国で開催される。愛知目標(COP10)に続く新たな目標として、「2030年までに世界の陸域と海域の少なくとも30%を保護区として保全する」などの採択をめざす取り組みが始まっている。
 生物多様性や気候変動に取り組む世界の趨勢は、すでに明らかではないのか。運用50年程度の軍事基地のために、50万年とも100万年ともいわれる歳月で形成されたやんばるの山を削り、辺野古・大浦湾の埋立を強行することに、どれだけの理があるのだろうか。

2つの裁判をめぐって

 沖縄県は、行政不服審査法による国交相裁決を無効として、「関与取消訴訟」と「抗告訴訟」の2つの裁判を提訴している。「関与取消訴訟」は、福岡高裁那覇支部の県敗訴判決(2019.10.23)に対し、県が最高裁に上告中。「抗告訴訟」は、那覇地裁で審理が始まっている。
 前述のように、国交相裁決は政府が軟弱地盤の存在を認める以前の裁決である。さらに、昨年末の「技術検討会」では、国交相を含む政府自らが、工期・工法・工費について大幅な変更を報告したのである。この内容の審理なしの判決などあり得ない。この間の経緯が示しているのは、沖縄県の主張の正しさであり、国交相裁決の不当性である。最高裁は、実質審理を行い、福岡高裁那覇支部の判決を破棄しなければならない。   (2020年1月30日 記)

※ 第3回「技術検討会」の内容については、北上田毅さんのブログから多くの示唆を受けた。「チョイさんの沖縄日記」をぜひ検索してほしい。

画像の説明
 (沖縄大学地域研究所特別研究員)

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