【コラム】酔生夢死

「親ガチャ」のジュリエット

岡田 充

 子供がまだ小さかったころ、スーパーマーケットに行くとせがまれたのが「ガチャ、ガチャ」だった。百円硬貨を入れレバーを「ガチャ」と回すと、オモチャ入りのカプセルが「ガチャ」という音と共に飛び出してくる。でも欲しいオモチャに当たるとは限らない。選べないのだ。

 選べないのは親も同じだが、「ガチャ、ガチャ」になぞらえた新語が「親ガチャ」である。親のせいで自分の思い通りにならない境遇を「親ガチャに外れた」などと表現する。「家が貧しく進学できない」「国籍を理由に差別された」など貧困や出自などを嘆くケースが多い。だが、高貴な家に産まれたが故に、「婚姻の自由」という人権を踏みにじられ苦しむケースもある。

 秋篠宮家の長女眞子さんのことだ。大学の同級生小室圭さんとの結婚(10月26日)を秋篠宮から反対されただけでなく、「税金で生活してきたくせに我がまま」「皇族の結婚としては不適格」などど、SNSでさんざん叩かれた。彼女は皇室離脱の際、国から支給される最大約1億5千万円の一時金を辞退した。
 にもかかわらず、週刊誌は小室さんの母親の交際相手からの借金問題に始まり、就職問題やヘアースタイルまでケチを付け続けている。誹謗(ひぼう)中傷を受けた彼女は「複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断された。確かに二人に向けられるバッシングは異様でグロテスクだった。

 ある友人は「結婚を伝えるニュースへの書き込みは半端じゃない。否定的なものばかりだが、これはどういう心理からくるのか?」とSNSに投稿した。これに対し筆者は「日本の衰退と将来不安の中で、国家や皇室に権威と普遍性を求めようとする感情が、『正統性』を揺さぶりかねない異質を排除することで、精神浄化(カタルシス)を得ようとする心理では」と返信した。

 ちょうどそのころ、米プリンストン大上級研究員の真鍋淑郎さんが、気候変動の仕組みを理論づけたとしてノーベル物理学賞を受賞した。彼は日本国籍を捨てた米国人。だが、岸田文雄首相は、「日本人として大変誇らしく思っている」とコメントした。血なまぐさい「血統」という幻想まで持ち出し、日本人の「正統性」の証にしようというのだろうか。

 シェークスピアの「ロメオとジュリエット」は、家や社会の反対のために恋愛を成就できなかった悲劇だ。それはミュージカル「ウエスト・サイド物語」などにも引き継がれた永遠のテーマ。
 周囲の反対が強ければ強いほど、若いカップルを引き寄せる力も強まる。東京とニューヨークで離ればなれの生活に終止符を打ち、2人はニューヨーク生活を始める。「親ガチャ」に外れた現代のジュリエットは、思いを叶えた。メデタシ。

画像の説明
  眞子さんと小室さんの結婚を報じる
  「下野新聞」号外(21・10・1)

 (共同通信客員論説委員)

(2021.10.20)
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