【コラム】
酔生夢死

「民主」の魔力に寄りかかる錯誤

岡田 充

 主要7カ国首脳会議(G7サミット)が英国で2年ぶりに対面で開かれ、新型コロナ対策として10億回分のワクチン供与で合意した。先進国によるワクチン独占に批判が出ていただけに、低所得国への無償供与は理に適っている。
 しかし、その背景が「『ワクチン外交』を展開する中国などにG7として対抗するねらいもある」(NHK)と解説されると、「ちょっと待てよ」と、すんなり納得する思考回路にブレーキがかかる。

 中国の途上国へのワクチン無償供与を、「ワクチン外交」と形容するなら、それに対抗するG7の供与もまた、立派な「ワクチン外交」ではないか。バイデン米政権が、米中対立を「民主主義vs専制主義」と定義してから、中国は「専制」代表の「ヒーラー」になった。
 それに比べて「民主」とは、なんと心地よく、正義と善に溢れた言葉だろう。メディアも、正義の証として「民主」の背中を押す。コロナ禍が広がる中、台湾が感染を抑え込み「感染者数400人台、死者7人」だったころ、日本の全国紙は社説で、中国と台湾のコロナ対策について次のように書いた。

 社説は、中国政府が人々の行動の自由を奪い、言論統制しながら強制的な都市封鎖をしたのに対し、台湾当局は丁寧な「記者会見やITの駆使により、政策の全体像、目的を社会全体で共有するよう努めた」と、対照的に比較。「こうした民主的な手法が市民の自立的な行動につながった」と、民主主義こそコロナ抑制の理由と絶賛した。(「朝日」20年5月25日「コロナと台湾 民主の成功に学びたい」)

 それから1年。台湾では5月中旬から感染者が増え、6月11日までに感染者数が12,500人、死者385人に急増した。衛生当局は学校をすべて閉鎖、5人以上の集まりを禁止し娯楽施設の休業を命じる「都市封鎖」に追い込まれた。
 「民主」に成功理由を求めた社説は、裏切られた。感染病対策を、科学的立場からではなく、政治的統治というイデオロギーの違いに求め、「民主」という魔力を持つ言葉に寄りかかった錯誤である。

 もう一つ。メディアは、中国が台湾に武力行使する「台湾有事」が近いと危機感を煽る。元陸上自衛隊幹部は「南西の島々どう守るか」と題するインタビュー記事(「朝日」)で、台湾について「日本と同じ自由と民主主義、法の支配のもとで生活しており、台湾の有事は我がことと考えざるを得ません」と、「台湾有事は日本有事」とみる理由に「民主」を挙げた。

 では台湾が国民党独裁時代に、日本が台湾を承認し支援した理由は何か。台湾が今も「専制」下にあれば、支援しないのか。日米にとって台湾は、中国を抑え込むカードとして重要なのであり、昔も今も変わりない。「民主」は、とってつけたアクセサリーに過ぎない。

 画像の説明 
「朝日新聞」(6月12日朝刊)の政治漫画。
  ワクチンをめぐる中国とG7の確執を皮肉る。

 (共同通信客員論説委員)

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